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Well-Aging

バスケを通して見た日本。
「年相応や年功序列」に負けないチャレンジ精神とは?

「年齢にとらわれず、やりたいことにチャレンジしたい!」と思っていても、「その年じゃまだ早い/もう遅い」と言われそうで、なかなか踏み切れない……そんな日本の「年相応・年功序列」といった価値観と、どのように向き合っていくべきか、千葉ジェッツのヘッドコーチ、ジョン・パトリックさんと一緒に考えます。

千葉ジェッツ ヘッドコーチ
ジョン・パトリック

アメリカ出身。1991年に留学生として来日し、以降、選手・チームスタッフ・コーチとキャリアを重ねる。また並行して複数の企業でビジネスを経験。2002年からはドイツに渡りブンデスリーガでヘッドコーチとしてチームを率い、コーチ・オブ・ザ・イヤーを5度も受賞。2022年より再び日本に拠点を移し、千葉ジェッツを指揮している。私生活では5人の子の父であり、うち2人はバスケットボールのドイツ代表チームの選手でもある。

q&d編集部
近藤 一哉

IT業界で約15年勤めた後、2019年にパナソニックに入社。以降、AIを活用した新規事業や、デジタルマーケティング組織の立ち上げを主導。最近、プロバスケットボールの世界から、勝つための組織やリーダシップを紐解く事に興味あり。趣味はパワーポイントで描く似顔絵。

「まだ早い」「もういい歳だ」――そんな空気感を変えていきたい

「人生100年時代、年齢にとらわれず、やりたいことにチャレンジしよう」――そんなメッセージを発する人は、最近いっそう増えているように思います。個人的にも、こうした考え方は今後きっと大事になると、共感しています。

 

一方、これまでの日本の社会では、年功序列のシステムや“年相応”という価値観があったりと、「年齢に合った行動」が求められる空気が強かったように思います。皆さんも一度は、やりたいことがあっても「まだ早いって言われそう」や「もういい年だし」と考え、尻込みした経験があるのではないでしょうか。

 

では、その空気感から踏み出し、年齢にとらわれず、やりたいことに挑戦できるようになるには、どうすればいいのでしょうか?

 

そんな問いを探求するべく、Bリーグ・千葉ジェッツのヘッドコーチ、 ジョン・パトリックさんを訪ねました。ジョンさんは20代の頃から長年に渡り日本のバスケットボールチームでコーチをされており、日本の社会や日本人の特性への理解を深めながら、選手の才能を引き出してこられた方です。そんなバスケットボール界の名将と「年齢×挑戦」というテーマでディスカッションしたいと思います。

日本は年齢を気にしがちな国?20年前と今では変わってきている?

近藤 一哉(以下、近藤)

ジョンさんはこれまで日本で長く仕事をしてきた中で、この国の文化や価値観において「印象的だな、ほかの国と比べて少し変わっているな」と感じたことはありましたか?

ジョン・パトリックさん(以下、ジョン)

私は今から32年前、1991年に初めて来日したのですが、「日本は年齢を気にして行動する文化なのだな」ということをすぐに感じましたね。そうそう、同じ日に生まれた双子同士にさえ「兄・弟」という概念があるのには驚きました!とても興味深かったです。

 

近畿大学のバスケットボール部に入ってからは、年功序列や先輩後輩の厳しさも体験しました。後にアシスタントコーチになってからも、同じ役割同士だとしても「この仕事は自分より年上の人がやる」といった分担があったことをよく覚えています。

近藤

なるほど、他国との文化の違いが明確にあって、そこに「年齢」が関わってくることが多い……といったふうに感じられたのですね。その後、日本でのヘッドコーチ経験を経て、2002年にドイツへ渡られました。そして昨年、20年ぶりに日本に戻られた訳ですが、何か変化を感じましたか?

ジョン

そうですね、ポジティブな変化を感じましたよ!とくに10代から20代あたりの若者たちにおいて、自分の意見を自信を持って主張できる人が多くなったと思います。

 

それに、私は週一度ストリートバスケをするのですが、コートに足を運ぶと若い人が「一緒にやりましょうよ!」と頻繁に声をかけてくれるようになりました。これは20年前の日本では、なかなか見られなかったことです。

 

また、当時と比べて社会で活躍している若い人も増えましたね。千葉ジェッツのGM(ゼネラルマネージャー)の池内勇太もその一人です。年齢はとても若いはずですが、スタッフにも選手にも年上の人間が多くいる組織でリーダーシップを発揮しています。彼はきっと、自分の年齢を気にしてはいないでしょうね。     

近藤

 GMといえば、チームの編成と運営を担う、大きな責任の伴う役割だと思います。「若いから」と尻込みすることなく、自分が果たすべき役割や成し遂げたいことにフォーカスを当てて、そのために行動しているからこそ、若くしてそのポジションを務めあげられているのでしょうね、尊敬します!

年齢がポジティブに影響している人たち、何にフォーカスしている?

近藤

これから日本人が、「年齢にとらわれずにチャレンジ」できるようになるには、どんな意識や行動の変化が必要と思いますか?

ジョン

まず大事なのは、年齢ではなく、「自分の意志」と「得られる経験」にフォーカスして行動することだと思います。一例なのですが、ドイツのあるトップクラスのチームに、41歳の選手がいます。彼は最年長にもかかわらず、今もそのチームの代表的選手のひとりです。

 

なぜ彼は活躍し続けられるのか?実はその理由は「ポジションの割に体が小さい」という点にあるんです。彼は190cm・90kgほど体格なのですが、相手にするのは2m・100kgを超えているプレイヤーがほとんどです。

 

だからこそ、彼は常に「大きい相手に勝つ方法」を考え、いつも一番早く練習に来ていました。その意志とアクションが、彼を強くし続けていたんです。

近藤

アスリートの世界では、年齢を重ねることはすなわち「身体能力が衰えること」とネガティブに捉えられるケースが多いと思います。けれども、その選手の場合はむしろ、年齢とともに重ねたトレーニングが、体格の差を打ち消すポジティブな要素につながっているのですね。

 

他人や環境に左右されることなく、自分がどうありたいか、どうなりたいかという「意思」を明確に持ち、その意思の先にいる自分に追いつくために「経験」を積み重ねていくことが大切――そんなふうに捉えられると、年齢に対する心持ちも、大きく変わってきそうです。

失敗は「経験を集める行為」――そう捉えたら、もっと挑戦を応援し合える

ジョン

また、「年齢を気にせずにチャレンジできる組織や社会になる」という観点では、誰もが他者のチャレンジを「失敗しない?ミスするんじゃない?」と引き留めることなく、どんどん背中を押してあげられるようになるといいと思っています。

 

確かにチャレンジすれば、ミスも起きやすくなります。しかし人間は、何度もミスをする中で、何を改善すればいいかが見えてくるものです。

 

だから、チャレンジの結果ミスするとしても「それが上達や成長の機会になるよね」と考えて、背中を押してあげる。「試合に勝つ」という成果をシビアに追い求めるスポーツの世界だからこそ、成長のために不可欠なミスを歓迎する姿勢が、より重要になると思っています。

近藤

これまで、スポーツに限らず誰かのチャレンジを「まだ若いんじゃない?」や「もういい年なのに」と、年齢を理由に否定してしまうシーンもよく見てきた気がします。でもおっしゃる通り、それでその人がチャレンジしなかったら、失敗を通じた成長の機会も失ってしまうんですね。

 

この「ミスを通じて成長する」という考えですが、ヘッドコーチという役割においても大事にされている部分なのでしょうか?

ジョン

そうです!例えばチームが負けたら、ファンの方々は「ダメな日だった」とがっかりしてしまうと思います。でもコーチとしては「ダメな日だった」ではなくて、その日のたくさんのミスから、改善できるところを見つけるのが重要と思っています。

 

そうすることで、チームはステップ・バイ・ステップで強くなっていきます。だから私は、ミスのことを「経験を集める行為」と呼んでいます。

近藤

経験を集める、素敵な言葉ですね!

ジョン

若い人も年を取った人も、チャレンジしてミスすることで「経験を集めて」成長できる――これは人生でもバスケットボールでも、同じですよね。

 

コーチとしてだけでなく、父親としても、5人の子どもたちにそう言ってあげたいといつも思っています。失敗しても負けても、その中で「経験を集められた」とね。

近藤

なるほど、年齢ではなく「集めた経験」にフォーカスすることが大事だと。それができると、年上でも年下でも「自分とは異なる経験をたくさん積んでいる先輩」としてリスペクトできて、組織やチームの雰囲気もグッとよくなる気がしました。

 

今日はジョンさんのお話からたくさんの学びを得られました。本当にありがとうございました!

個々の「意思と経験」を尊重することで、いくつになっても誰もが挑戦できる環境に

今回の対話を通じて、改めて「年齢にとらわれずチャレンジできる」人になれる環境を作ることが、これからの日本にとっても、とても大事なテーマとなると感じました。

 

私がいるパナソニックにおいても、今、社内複業・ジョブ型人事・社内公募制度といった、さまざまな制度や文化作りにグループ各社が積極的に取り組んでいます。

 

こうした仕組みを通じて、自分の年齢や所属ありきのキャリアに縛られるのではなく、個人の信念や生き方に基づいたチャレンジができることを、いち社員としてとてもありがたく、また誇らしく思います。

 

そうした仕組みに加え、ジョンさんに教わった「年齢ではなく、意思と経験にフォーカスして行動する」「チャレンジする他者の背中を押してあげ、ミスを通じて成長してもらう」という考え方を活かすことで、誰もが他者にリスペクトを持ち、お互いにチャレンジを支援し合える環境を作っていきたいと、強く思いました。

皆さんは老いをポジティブに捉えていくために、どんな経験を集めていきたいと思いますか? ぜひ、記事の感想と共に「#ウェルエイジング」をつけてツイートしてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、Bリーグ・千葉ジェッツのヘッドコーチ、 ジョン・パトリックさんを訪ねたときのことを振り返りながら、年齢にとらわれず、やりたいことに挑戦できるようになるにはどうすればいいのかについて、改めて考えました。

Photo by 加藤 甫

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