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Well-Aging

いつまでも「憧れの先輩」でいるために、
「センス」を磨き、自分を愛し続けよう

誰かとお会いしたとき、一目見て「素敵な年の重ね方をしているな」と感じることがあります。もちろん、自分で「自分はいい年の取り方をしている」と思えることはとても重要なことですが、誰かと関わり合いながら生き続ける上で、「他者に与える印象」は無視できない要素です。

他者から見て、いい年の取り方をしている人とそうではない人との違いとは何なのでしょうか? その差異の中に、「いい年の重ね方」を考えるためのヒントがあるかもしれない——そんな考えのもと、メイクアップアーティスト・小林照子さんにお話を伺いました。

小林照子株式会社 代表取締役社長 / 株式会社 美・ファイン研究所 ファウンダー、[フロムハンド]メイクアップアカデミー、青山ビューティ学院高等部東京校学園長。
小林 照子

1935年生まれ。株式会社コーセーにおいて長年にわたり美容について研究。「ナチュラルメイク」を創出し、パウダーファンデーションや美容液など、数々のヒット商品を生み出す。1991年に独立し、「美」と「輝く魅力」をテーマとした株式会社 美・ファイン研究所を創立。ビューティコンサルタント、ビジネスに携わる一方、[フロムハンド]メイクアップアカデミー、青山ビューティ学院高等部の学園長として、美のプロフェッショナル、後進の育成に力を注いでいる。著書に『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)。

q&d編集部
瓜生 朋子

大阪育ち。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、住宅会社を経てパナソニックに入社。セールスプランナーとして住宅市場、非住宅市場開発を担当した後、現在はスマートエネルギー開発事業部に所属。空想癖がある。疲れてリセットするときは一人旅。趣味のバレエで何とか体力を維持して、休日はアニメチェックが日課。

目次

周囲にいい影響を与える「年の重ね方」をするために

みなさんの周りには「この人、いい年の取り方をしているな」と感じられる人がいるでしょうか? 老若男女を問わず、「憧れの先輩」の存在は、ときに人生の道しるべになります。「私も誰かから憧れられる年の重ね方をしたい」と思ったことがある人は少なくないはずです。

 

もちろん、「いい年の取り方をしているか否か」の判断を他者に委ねず、自らがそう信じられるように年を重ねていくことは、とても大切なことだと思います。

 

しかし、社会の中で他者と共に生き続けなければならない以上、他者からの「見え方」に気を配らなければならないこともまた事実なのではないでしょうか。「見られること」から逃れられないのならば、多くの人から「いい年の取り方をしている」と思われるような年の重ね方をしたいと考えています。

 

そして、「他者の目にさらされ続けること」と同様、私たちは年を取ることからも逃れられません。そんな「逃れられないこと」を忌み嫌うべきものとして認識する限り、それは私たちの暮らしに暗い影を落とすことになります。しかし、逆にそれを前向きに捉えられるようになれば、きっと「これから」が楽しみになるはず。

 

ならば、私の周りにいる若い人たちが、「年を取ることも悪くないかもしれない」と感じてもらえるように年を取っていきたいと思います。

 

どんなことに気を配れば、周囲にいい影響を与えられる年の重ね方ができるのだろう——そんなことを考える中で、日本におけるメイクアップの第一人者である小林照子さんの存在を知りました。

 

メイクアップアーティスト、起業家、教育者として長年「みせる」に携わり続けてきた小林さんは「他者から見られること」、そして「いい年の取り方」をどのように捉えているのでしょうか。

「早く80代になったら?」と伝えたいくらい、楽しいもの

瓜生 朋子(以下、瓜生):

私から見て、小林さんは非常に「いい年の取り方」をされているように感じられます。小林さんは「いい年の取り方」をするためには何が必要だと考えておられますか?

小林 照子さん(以下、小林):

「その年その年を楽しむこと」がいい年の取り方につながっていくと思います。年を重ねてしか感じられない楽しさもあるんです。まずは「年を取ることは損」という考えが錯覚だということを理解しなければならないと思いますね。

瓜生

錯覚、ですか。

小林

そう。私は現在88歳なのですが、けっこう楽しいものですよ。「みなさんも早く80代になったら?」という感じです(笑)。そう思えるのは、76歳になってから彫刻にトライするなど、この年になっても「やりたい」と思ったことをやっているから。常に周囲に感謝しながら、そのときどきを楽しむことが何よりも重要だと思います。そうすると、いずれ「感謝しなければならない」という義務感からではなく、自然に心からの感謝の気持ちが湧いてくるようになるものなんです。

瓜生

小林さんはいくつになっても感謝の気持ちを忘れず、チャレンジを続けているのですね。

 

ただ、私は新たなことに挑むのは若いうちの特権というか、年齢を重ねると「年相応」にしていなければならない、というある種のプレッシャーを感じるんです。

 

でも、現在40代である私が「年相応」でいるというのがどういうことなのかは、はっきりとわかっていなくて。どうしたらいいのでしょうか。

小林

いろいろな考え方があると思いますが、まず個人的には「自然体でいること」は重要だと思います。年を重ねることによって、自然と醸し出される美しさがあると思うんですよね。その美しさを生かすことはとても大事。

瓜生

「自然体」をテーマに、振付家・ダンサーの鈴木ユキオさんにお話を伺った『q&d』の記事を思い出しました。鈴木さんはインタビューの中で“自然体は社会や他者などの外側の枠組みに合わせながら作っていくものだと捉えています”とおっしゃっていたんですよね。

小林

私も自らの立場や役割を自覚することが重要だと思っています。どういうことかというと、たとえば、私はメイクアップアーティストであり美容家ですから、人前に出るときは特にメイクや服装には気を使っています。メイクアップアーティストのメイクが「ん?」と思われるものだったら、仕事になりませんからね。

 

そして、年齢、職業、立場などを踏まえて、そのときどきの自分を楽しむためには、それ相応の装いをする必要があると思うんです。

瓜生

自らの立場や役割を自覚した上で、年齢ごとの自分にふさわしいメイクや服を選ぶ必要がある、ということでしょうか?

小林

はい。言い換えれば、年を重ねた自分にふさわしいセンスを身につけなければならないということですね。たとえば、お金がない若いうちは安価な古着でも、ファストファッションでも、うまく着こなせていれば「センスがいい」ですよね。でも、数十年後、その方がかなりの収入を得るようになってからも同じような服ばかり着て、「今日は全身古着で、全部合わせても5,000円なんだよね」と自慢げに言われたとしたら、どう感じるでしょう。

瓜生

うーん……なんと返せばいいか迷ってしまうかもしれないですね。

小林

もちろん、何を着るかは個人の自由です。しかし、私なら「あなたほどの人であれば、もっと質のいい服を着てくれなきゃ」と言います。年長者には年長者なりの役割があって、「若い人に『こんな年の重ね方をしたい』と思われるセンスのいい年の重ね方をする」ということもその一つだと思うから。

 

だから、いつまでも「若いころに獲得したセンス」を引きずっていてはいけないし、年齢に合わせてセンスをアップデートする必要がある。もちろん、「年を取ってお金を持つようになったら、高いブランド品を身につけよう」と言いたいわけではありませんが、身につけるもの一つひとつにこだわりを持ち、現在の自分に合ったものを選んでもらいたいと思います。

瓜生

年長者の方がご自身を客観視して、年齢と共に変わっていく姿を見ていたら、「こんな年の重ね方をしたい」という憧れの気持ちが生まれそうです。

美しく年を取るために、自分を愛する

瓜生

どのように年齢ごとに自分をアップデートして、周りの人たちによい影響を与えていけるといいのでしょうか。小林さんのこれまでのご経験から考えていらっしゃることはありますか?

小林

70年弱、美容やメイクに携わり続けてきて感じるのは、人はビジュアルを通して、他者のことを判断しているということです。もちろん、それがその人のすべてではありませんし、ルッキズムに与するつもりはありません。しかし、第一印象はある程度見た目に依存するものだと個人的には考えています。

瓜生

だからこそ、何をまとい、どのようなものを身につけるかが重要になるわけですね。

小林

そうですね。ただ、人にどのように見られるかに影響するのはそれだけではありません。他にも見た目を左右する重要な要素があります。なんだと思いますか?

瓜生

なんでしょう..….?

小林

「自己愛」です。これまでの経験を通して気づいたのは、その人が「自分を愛しているかどうか」が見た目に表れるということ。

 

具体的に言えば、自分を大切にしている人の肌や顔立ち、そして手には、その人らしい美しさが宿っているように感じるんです。そして、その美しさは加齢によって失われるものではなく、むしろその人に馴染んでいくものだと思います。

瓜生

年を重ねれば重ねるほど、「自らを大切にしているかどうか」が見た目に反映される。

小林

ただ、一般的な「美の基準」にとらわれないように気をつけなければなりません。美の基準は時代によって変化し続けます。そして、いつの時代もその基準が「美のピラミッド」のようなものをつくってしまうわけです。

瓜生

美のピラミッド、ですか……?

小林

はい。「美しさ」を測るための物差しが固定され、その物差しだけで「美しい」「美しくない」が判断されてしまう、ということですね。そうして、俳優やモデルなどを頂点とする「美のピラミッド」が形成され、特定の条件に当てはまらない人は、“下”に位置していると見なされてしまっている。

 

しかし、私は「美しさ」に上下はないと思っています。もっと平面的なものなんですよ。たとえるなら、それは無限に広がる地図のようなもの。世界地図を広げてみると、たくさんの国がフラットに描かれているじゃないですか。本来、「美」もそのように捉えるべきなのだと思います。

 

つまり、たくさんの「美しさ」があって、そこには上下なんてものはない。そういう風に考えることが、自分だけの美しさを知るきっかけになると思いますし、それが自分を愛することにつながっていくんです。

「素直に意見を言い合える人」の言葉によって、センスは磨かれる

瓜生

なるほど……。私も人によい影響を与えられるような年の取り方をしたいと思っています。そのためには、自分の立場や役割を自覚して、ふさわしい装いをできるようにならなければというお話がありましたが、簡単なことではないように思うんです。どのように実践していけばいいのでしょうか?

小林

自分の目に映る相手の姿について、たくさんの人と言葉を交わすことが大事だと思います。「外見についてコメントするのは、なんだか気が引けてしまう」という人って多いと思うんです。でも、私はもっと話題にしていいと思うんですよね。「この人、お肌がきれいだな」と思ったら、素直にそう言えばいいし、「素敵なお洋服だな」と思ったら、それを伝えればいいんです。

 

もちろん、言葉には気をつけなければなりません。いくら親しい仲だとしても、見た目や服装への言及は、ときに人を傷つけてしまいます。だけど「どのように見られているか」は絶対に自分で判断することはできません。だから、できるだけ「いいな」と思ったところを中心に、それを言葉にし合うこと、そしてその言葉に対して謙遜せずお礼を言うことが大事だと思います。誰かの言葉によって、センスは磨かれるんです。

瓜生

服装や見た目などに限らず、年を重ねるとフィードバックをもらいにくくなるように感じます。いくつになっても、いいところも悪いところも含めて、率直に意見を言い合える誰かがいることは、とても大事ですよね。自分なりのセンスを磨き、よりよく年を重ね続けるためには、そんな誰かの存在が必要なのかもしれません。

小林

その通りですね。私たちは、いつでも「自分」をクリエイトしながら生きています。それは88歳になった今も変わりません。

 

先日、一日中テレビに出演し続けることがあったのですが、その日を乗り切るために、気力と体力に満ちた自分をつくる必要がありました。自分を奮い立たせるための服を着て、気合を入れてメイクを整える……見た目にこだわることは、なりたい自分をクリエイトすることにつながると思います。

 

そして、その繰り返しが、よりよく年を取ることに結びつくのではないでしょうか。

身近な誰かと共に、よりよく年を重ねるために

「人を外見で判断してはいけない」という言葉を聞くことは少なくないですし、実際に外見「だけ」でどのような人かを理解することはできません。

 

しかし、取材会場で小林さんを一目見た瞬間、「今日は素敵なお話が伺えそうだ」と感じました。そして、取材を終えたあと、お会いした瞬間に得た直感は正しかったのだと知ることになります。

 

小林さんは、長年のご経験から「見た目の重要性」を指摘されましたが、そのキャリアと同等かそれ以上に小林さんのお姿自体が、その言葉に強い説得力をもたらしていたように思います。

 

さて、なりたい自分になるために、いい年の取り方をするために、センスを磨き続けなければなりません。そのために、まずは服装やメイクをちょっと変えてみようと思います。そして、その変化に気づいてくれる、身近な誰かの声に耳を傾けてみたいと思います。

 

みなさんの周りには、あなたの変化に気づき、その変化に言及してくれる人がいるでしょうか。小林さんがおっしゃったように、外見の変化に言及することは遠慮しなければならない雰囲気があると思います。

 

だから、もしかすると誰もあなたの変化を褒めてくれないかもしれません。そのときは、自分から行動を起こしてみてもいいのではないでしょうか。誰かの変化に気づき、思い切ってその変化を褒めてみる。最初は失敗するかもしれません。でも、誰だって努力を褒められれば、きっと嬉しいはず。

 

その服、素敵だね——そんな一言から、誰かの、そしてあなたの「いい年の取り方」は始まるのかもしれません。

 

みなさんにとって「センス」とはどのようなものでしょうか? そして、それを磨くためにどのような努力をしていますか? 記事の感想とともに、ぜひ「#ウェルエイジング」をつけてシェアしてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、メイクアップアーティスト・小林照子さんを訪ねた時のことを振り返りながら「他者から見られる」ということ、その中で「いい年の取り方」とはどんな状態なのかについて、改めて考えました。

Photo by 三浦咲恵

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