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おせっかいな「コモンズ」が孤独をケアする。
街中に安心できる居場所を見つけるには?

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おせっかいな「コモンズ」が孤独をケアする。
街中に安心できる居場所を見つけるには?

心身が健康な状態であるために、自分にも自分の大切な人にも「孤独」を感じてほしくない。そのために欠かせないのが、身近な街のリアルなコミュニティではないか――くらしに安心をもたらす「自分の居場所」をどのように探したらいいのか、だいかい文庫の館長・守本陽一さんと一緒に考えてみました。

だいかい文庫館長・医師
守本 陽一

1993年神奈川県生まれ兵庫県養父市育ち。学生時代より、医療者が屋台を引いて街中を練り歩く「YATAI CAFE」や地域診断など、ケアとまちづくりに関する活動に従事。2020年11月一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立し、代表理事に就任。同年12月社会的処方の拠点としてシェア型図書館本と暮らしのあるところ だいかい文庫」を開設。共著に『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(2020年、学芸出版社)『ケアとまちづくり、ときどきアート』(2020年、中外医学社)など。

q&d編集部
吉川 和子

大阪府出身、東京都在住。大学では認知症高齢者の住環境を専攻するかたわら、和歌山市雑賀崎地区の住環境調査や歴史街道モニターなどのフィールドワークにも取り組む。パナソニック入社後はルームエアコンの販促を担当。毎週末行き先を決めない思いつきの旅に出て、自分にとってらしやすい場所を探している。

目次

本当に困ったときに、身近に頼れる人はいますか?

あしたどこでくらそう」という特集テーマと向き合った際に、私の頭に浮かんだのは「住んでいる街が“居場所”に感じられるって、どういうことだろう?」という問いです。 

 

新型コロナウイルスのパンデミックが起きた2020年、私は一時期、原因不明の体調不良に陥っていました。食事も喉を通らず、声もほとんど出ない。結果的に大事には至らなかったものの、その症状の名残りなのか、今も体調は万全とはえず、不安な日々を過ごしています。

 

このような経験を通じて、気がついたことがあります。それは「私の身近には、気兼ねなく助けを求められる人がいない」ということです。会社の同僚や友人、そして離れてくらす実家の家族には「余計な心配をかけたくない」と感じて、素直にSOSを出すことができませんでした。いつの間にか、私は自分で気づかないうちに孤独になっていたのかもしれません。

 

こうした孤独を解消してくれる存在はなんだろう……と考えるうちに、あらためて気になったのが「家族とも友人とも仕事仲間とも違う、地域でたまたま近くにくらす人たち同士がつくる、サードプレイス的なコミュニティ」の存在です。それは、他人と適度な距離をとりつつ、孤独をほどいてくれるような居場所になるのではないか。そして、そういう居場所を見いだす、あるいはつくっていく力をつけていけたら、これからどこに住んでも安心できるくらしを紡いでいけるのではないか、と感じました。

 

そんな思いを胸に、兵庫県豊岡市で「だいかい文庫」というシェア型図書館を運営する守本陽一さんにお話を伺いました。困ったときに誰もが頼れる「居場所」とはどんなものなのか、街の中に安心できる「居場所」をつくっていくためにはどうしたらよいか、守本さんと一緒に考えます。

街から孤独を解消するのは、「サービス」ではなく「おせっかい」?

吉川 和子(以下、吉川)

本日はよろしくお願いします。今回q&dでは「住む場所」と「幸せ」の関係について考える特集を組んでいて、私はその中で「どこに住むことになったとしても、孤独にならないような“居場所”があれば、すこやかなくらしが送れるのでないか?」「そういった居場所はどうつくっていったらいいのだろう?」といった問いと向き合いたいと考えています。

 

守本さんのこれまでの活動を拝見すると、地域の人々に医療的なケアを行き届かせるため、普段から集いやすい場をつくる活動にずっと尽力されているのかな、と感じました。そもそも守本さんは、「孤独」とはどんな状態だと思いますか?

守本 陽一さん(以下、守本)

よく似た言葉である「孤立」と比較するとわかりやすいと思います。孤立は、ある人が実際に一人でいるかどうかを表す言葉です。つまり、客観的に見て他者とのつながりがない“状態”を意味しています。

 

それに対して「孤独」は、どこまでも主観的な“感情”を表す表現です。たとえ大勢の人に囲まれていようとも、本人が「ひとりだ、寂しい」と感じているのならば、その人は孤独だとえます。

吉川

「孤立」と違って、「孤独」は目に見えない。だからこそ、周囲も手を差し伸べづらいのですね。

守本

そうですね。誰かが社会的に孤立しているのであれば、「とりあえず福祉につながなきゃ」とサポートできます。けれど孤独かどうかは、本人にしかわからない。一見なんの問題もなくくらしているように見えるけれど、実はすごく孤独を感じている人は少なくないはずです。

 

孤独を感じたときに、ふと立ち寄れるような場所があればいいのですが……そういう「コモンズ」のような場所は、いま地域からどんどん減っているように感じます。

吉川

コモンズとは「共有地」のことですね。まちづくりの文脈だと「地域の住民が誰でも自由に利用できる公共空間」くらいの意味合いで使われることの多い言葉ですが、守本さんがイメージするコモンズはどんな空間ですか?

守本

僕がイメージするコモンズは、「おせっかい」が生まれる空間です。たとえば、だいかい文庫は図書館なのですが、そこに集まる人たちは本の話ばかりをしているわけではありません。ときには「こんなことで悩んでいて」と打ち明ける人もいて、すると「それならこうしたら?」とアドバイスをする人も出てきます。

 

たまたま隣り合った人が困っていたら、ちょっと手を貸してあげる。そういう「おせっかい」って、一昔前は、町のいたるところで当たり前に行われていたやりとりだったと思うんですよ。

吉川

たしかに、そうかもしれません。一方で、たとえば私自身がどこかのお店で働いていたとして、そういう「おせっかい」ができるかと考えてみると、ちょっと自信がないですね……。

守本

それが一般的な感覚だと思います。社会学者のマックス・ウェーバー鉄の檻という概念で官僚制の問題点を指摘しています。官僚制はサービス化と置き換えることもできると思います。つまりは、私たちは自分がサービスに従事していると認識すると、途端に業務以外のことをやらなくなってしまうようなんです。「それはサービスの対象外ですね」といった感じで。

 

これは民間に限った話ではなくて、行政サービスもまた、同じような傾向にあります。すると、サービスとサービスのあいだに、誰にもケアできない空白ができてしまう。

吉川

なるほど。守本さんは、その空白を埋めるのが「おせっかい」だと考えているのですね?

守本

まさに。いま地域に必要なのは、サービスを「提供する側」と「受け取る側」という関係性を超えて、互いに「おせっかい」できるような場所を、みんなで一緒につくっていくことだと思うんです。それが僕のイメージする「コモンズ」のあり方です。僕たちが運営するだいかい文庫も、そういう場所をめざしています。

吉川

おせっかいの生まれるコモンズ――街の中に居場所を見出すためのキーワードが、早速見えてきた気がします。

誰もが安心できる居場所づくり、入り口には「役割」を

吉川

守本さんは、だいかい文庫を街の人々の居場所として成立させるために、運営上でどんな工夫をされているのでしょうか?

守本

従来の図書館と決定的に違うのは、地域の医療福祉の拠点として、意識的にデザインしている点です。障害を持っていたり、孤独感や生きづらさを抱えた人も気軽に訪れることができて、そこで誰かと話ができたり、背中を押してくれる本に出会える場をめざしています。また、居場所や健康についての悩みを、医療福祉関係者と一緒になって考える「居場所の相談所」なども定期開催しています。

吉川

居場所の相談所って、素晴らしいネーミングだと思います……!  ここの運営を通して、何か印象に残っている出来事はありますか?

守本

だいかい文庫でお店番してくれている方のには、失業したり、学校を辞めたりして、社会から遠ざかってしまっている人も少なくありません。たぶん「お客さんも優しそうだし、ここだったら働けるかも」と感じてもらえているんだと思います。まあ、働くといっても、お金はないんですけどね。

 

でも実際、お店番という役割があると、さんいつもよりリラックスして話せるみたいなんです。ここでのコミュニケーションがきっかけとなって、社会復帰をしていく方もこれまでに何人もいて、それはすごく嬉しいことです。

 

もちろん、なかなか抱えている課題が解決しないまま、お店番だけを続けてくれている人もいます。でも、それはそれとして、その人が「だいかい文庫で店番をすること」に意味を見出してくれているなら、それもいいのかなと感じています。

吉川

お金が出なくても、ここでお店番をしたいという気持ち、すごくわかります。私も所属しているコミュニティので「助けてもらうばかりじゃ気まずいな」と感じることがあって。

 

自分も何か恩返しをしなきゃと思うんですけど、「じゃあ私って何ができるんだろう?」と考え込んでしまうことがあります。そういうときに、何か役割があると「この場に参加していいんだ」と安心します。

守本

臨床心理士東畑開人さんの著書『居るのはつらいよ』にも書かれていましたが、慣れない場所に「ただ居る」のって、誰にとってもしんどいことですよね。

 

だから、ひとまず何か役割をつくってあげるのが、とても大切で。「だいかい文庫」でいうなら、まずは「オーナー」「お店番」「お客さん」のどれかですね。最初にわかりやすい役割を明示してあげると、コミュニティに参加する敷居がグッと下がると思います。

 

一方で、役割を固定しすぎない方がいいとも感じていて。最終的には、それがなくても居心地よくいられるのがベストですから。役割は用意しつつも、それに縛られない環境をつくっていけるとよさそうです。

ただ、一緒にいる。そこから生まれて広がる、かけがえのないつながり

吉川

居場所づくりには、いろいろな関わり方ができる「関わりしろ」をつくっておくことが大切なんですね。とはいえ、そういった配慮があっても、最初の一歩が踏み出せず、なかなかコミュニティに入っていけない、という人もいませんか?

守本

そうですね。たしかに「最初は入りにくいお店かと思った」という声も、やっぱり聞くんです。「オシャレすぎて入れなかった」とおばあちゃんに言われちゃったり(笑)。

 

でも、そもそもの立地はすごくいいと思うんですよ。銭湯などもそうですが、コミュニティというのは「くらしの導線上」にあることが重要なので。その点、だいかい文庫は豊岡駅から歩いて10分くらいの商店街のにありますからね。「入ったことはないけれど、ちょっと気になっている」という方は多いと思うんです。

 

だから僕たちも、お店の前で入ろうか迷っている方がいたら、できるだけ声をかけたり、「だいかい文庫からのお便り」というしおりを配ったりしています。

吉川

そういった積み重ねによって、少しずつ認知を広げていっているんですね。

守本

あとは、積極的に地域に出向くようにも心がけていて。いま「だいかい文庫」でスタッフをしてくれている移住者の方がいるのですが、その方に週3くらいのペースで、地域のいろんなところを回ってもらっているんです。そうやって、地域のハブになれる人を、少しずつ増やしていければと思っています。

吉川

「最初の一歩のハードルの高さ」について、もう少し伺わせてください。たとえば、だいかい文庫の存在を知らなかったり、そもそも家から出たくないという人には、どのようにアプローチしようと考えていますか?

守本

うーん……そういう人といきなり直接つながるのは、現時点ではちょっと難しいと思います。でも、その人の周りの人は、すでに僕たちとつながっているかもしれないですよね。実際、奥さまを亡くされた男性が「友達にだいかい文庫をすすめられて」と訪れてくれたこともあったりしました。

 

そうやって孤立しそうになっている誰かを、再びコモンズにつないでくれる人の存在が、これからの地域には欠かせないものになると思います。イギリスだと医療と施設をつなぐ「リンクワーカー」という役職がありますが、だいかい文庫の周りでは、そういう役割を自発的に担っているような人、要するに「おせっかいな人」が増えている気がするんです。

吉川

そういう人が増えれば、地域全体が心地よい居場所になって、もっと住みやすくなりそうですね。私もそんな役割を担えたらいいなと思うのですが、リンクワーカー的に周りの人をつなげていくときに、気をつけるべきことはありますか?

守本

まずは自分のやっていることが「おせっかい」だと自覚することでしょうか。「地域の活動なんだから、絶対に参加しろ」みたいな、強制的なつなげ方はダメですよね。むしろ、誰かが何かを強制されているときに、「いやいや、あなたが本当にしたいことができる場所はここじゃない?」と紹介できるような人がリンクワーカーだと思うんです。

 

あとはやっぱり、何かを「してあげる」のではなく、「一緒にいる」ことから始めるのがいいのかなと思います。

吉川

ただ、一緒にいることから始めると。

守本

これが意外と難しいことですけどね。それでも可能な限り一緒にいることで、ようやく「支援する側」「支援される側」という関係を超えて、話ができるようになるんだと思うんです。その上で「こんなことをしたい」という声を聞けたら、それをサポートしてあげる。リンクワーカーの役割とは、そういうものだと感じています。

吉川

リンクワーカーの存在が、孤独という社会問題を解決するための大事なカギになりそうですね。そして、リンクワーカー的な思考や実践こそが、今いる街に居場所を見出していくための大きなヒントになると思いました。本日はいろいろとお話を聞かせてくださって、本当にありがとうございました!

どんな土地でも、ちょっとした「おせっかい」から居場所のいとぐちを

家族と住んでいても、近くに友達がたくさんいる環境にいても、関係性が深ければ深いほど本音を言えないこともありますそんなときに、利害関係のない少し顔見知りの適度な距離感の人とつながり、助け合えるような場所があればいいな……とぼんやり考えながらも、具体的にどうしたらいいかわからず、これまでなかなか行動に移せていませんでした。

 

守本さんにお話を伺ってから、身近な街だけでなく、出張や旅行などで訪れる街でも、地元の人たちが集まっていそうな図書館やカフェによく入るようになりました。そこでは初めて見かける私に話しかけてくれる人がいて、すでにコモンズのような場所ができ上がっていることにも気がきました。「またこの街に来たら、必ずここに寄ろう」と思える場所が増えることは、「どこに行っても誰かと関わり合える場所がある」という安心や、「今後どこに住んでも大丈夫そうだな」という自信にもつながっている気がします。

 

近くに頼れる人がいてほしいと思っても、地方のご近所さんとの密な関係はちょっと息苦しい……そんなふうに感じていましたが、今回の取材で「一緒にいるだけ、そこから始める」と教わって行動を変えることができて、孤独との向き合い方が少し上手になった気がしています。

 

時と場合にりますが、同じ場所に身を置く人への「おせっかい」的な言動を私のように待っている人がいるのかもしれない……私も街の中に自分にとっての、そして誰かのための居場所をつくるために、ちょっと勇気を出して、これからも人とつながってみようと思います。

皆さんの住んでいる街には「ここは私の居場所だな」と感じられるよりどころがありますか? それはどんな場所でしょうか? ぜひ、「#あしたどこでくらそう」をつけてツイートしてください。

Photo by 其田 有輝也

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