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住みたい街ランキングでは分からない、
自分の感性に合う「住みよい街」を探し出すには?

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住みたい街ランキングでは分からない、
自分の感性に合う「住みよい街」を探し出すには?

自分にとって最高に「住みよい街」を探したいけど、メディアに出回る「住みたい街ランキング」などを見ても、いまいちピンとこない。どうやったら街と自分との相性を的確に感じとることができるのだろうか——そんな問いの出口を探るべく、LIFULL HOME'S総研の島原万丈さんと対話をしました。

LIFULL HOME'S総研 所長
島原 万丈

愛媛県宇和島市出身。1989年株式会社リクルートに入社し、2005年よりリクルート住宅総研に配属。2013年株式会社LIFULL(旧:株式会社ネクスト)にてLIFULL HOME'S総研所長に就任。ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事している。一般社団法人リノベーション協議会設立発起人リノベーション・オブ・ザ・イヤー審査委員長を務めるほか、2022年には内閣府地方創生推進アドバイザーにも就任している。

q&d編集部
小山 卓郎

愛知県出身。大学院卒業後、2018年にパナソニック入社。以降、一貫して知的財産に関する業務に携わり、現在は知的財産部門におけるDXプロジェクトのリーダーを務める。最近は副業で新しい事業の立ち上げも模索。趣味は投資とアニソン。最近買った電子ピアノで、お気に入りの曲演奏できるように練習中。

目次

「自由に住む場所を選んでいい」と言われると、逆に迷ってしまう……

「言葉で説明しづらいんだけど、なんだか好きだな」と感じる街ってありませんか?

 

私は仕事の関係で何度か引っ越しをしているのですが、「あの街はよかったな、また住めるとしたら住みたいな」と思った場所がいくつかあります。ただ、それがなぜなのかを説明するのは難しいな」とも感じています。

 

ここ数年で、私の職場ではリモートで業務をする機会が増えてきました。今まではオフィスに通いやすい範囲で住む場所を選ぶことがほとんどでしたが、その縛りが少しずつ解消されつつある今、「住む場所を制限なく自由に選択できるようになったら、何を基準にして選んだらよいのだろうか?」と疑問が浮かんできました。

 

自分に合った街を選ぶためには、あの「なんだか好きだな」という感覚の正体が分かるとよいのかもしれない——そう思ってリサーチをして出合ったのが「センシュアス・シティ(官能都市)」という概念でした。なんでも、数値化しにくい感覚的な街のよさを指標化しようという考え方のようです。ネット上などでよく見かける「住みたい街ランキング」の指標にピンと来ていなかった私は、この概念にこそ「自分にとっての住みよい街」を見つけるヒントがあるのではないか、と感じました。

 

そんな思いから、センシュアス・シティの提唱者であるLIFULL HOME'S総研所長の島原万丈さんのもとを訪れました。数値では測りにくい街の魅力がどこから生まれるのか、それを感じとって自分にとっての最適な「住みよい街」を見つけるにはどうしたらよいのか、島原さんと一緒に考えていきます。

住む街を選ぶ基準に、「主観的」と切り捨てられてきた人間の感覚を取り戻そう

小山 卓郎(以下、小山)

島原さんは「センシュアス・シティ」という概念を2015年に示されていますね。この考え方はどのようなところから生まれたのでしょうか。

島原 万丈さん(以下、島原)

背景には、かなり個人的な原体験があって……私は、東京の武蔵小山という街がとても好きだったんですよね。小さい飲み屋がたくさんあって、すごく人情味のあるというか、居心地のよい街だなと感じていました。

小山

「好きだった」ということは、今は変わってしまったのですか?

島原

再開発で、飲み屋街が一斉に根こそぎ壊されてしまったんです。もちろん、街は整備されて、客観的に見れば以前よりきれいで防災的にも安全な街になったのだと思います。ただ、開発後の街にはどこにでもあるような風景が広がっていて、かつての魅力が失われてしまいました。

 

そして、これは武蔵小山に限った話ではありません。市街地の再開発の流れは全国に広がっていて、その結果生まれる「合理的な住みよい街」が、ほとんど似たような形になってきてしまっている。率直に言うと、私はそれが面白くなくて(笑)。「この違和感をなんとか世の中に共有しよう」と考え、さまざまな人に協力してもらってできたのが、このセンシュアス・シティなんです。

小山

島原さんは、従来のメディアで評価されていた「街の住みよさ」を測る指標を研究されて、基本的に「より大きく、より新しい建物や施設がたくさんある街がいい」という評価になっている、と分析されていましたね。

 

こうした従来の尺度で測れない「なんかいいよね」を捉えるために作ったセンシュアス・シティでは、一体どんな街の側面を評価しようとしているのでしょうか?

島原

街での生活における「関係性」と「身体性」の二つに焦点を当てた評価体系を作っています。すごくざっくりとした説明になりますが、前者は「その街に住むお互い出自もバラバラな不特定多数の人々といかに快適な関係を作れるか」、後者は「その街に住むことで、どれだけ五感で心地よさを得られるか」という観点で評価します。

小山

関係性と身体性……どちらも数値的にはなかなか測りづらそうな要素ですね。でも、どちらも街の住み心地に大きく影響していそうです。

島原

「なんかいいよね」という感覚的なよさを測るために、僕らが注目したのは「動詞」です。街の中で経験するいろいろなアクティビティを動詞として捉えて、その街でどんな動詞がよく発生しているのか、どんな動詞が多いと魅力的な街と言えるのか……こうしたことを調査を繰り返し、体系的にまとめていきました。

 

少し例を挙げると、身体性の評価の枠の一つに「街を感じられること」という指標があるのですが、その度合いを測る動詞として「街の風景をゆっくり眺めた」「商店街や飲食店からおいしそうな匂いが漂ってきた」など項目を設定しています。

小山

なるほど。特定の行動と感覚的なよさをひもづけることで、「なんかいいよね」を測定可能な形に落とし込んでいったのですね。これからの住まい選びの基準として、とても参考になりそうです。

LIFULL HOME'S 総研HPのレポートページ上では、調査対象となった全都市の「センシュアス・シティ8指標」の評価をレーダーチャートで確認できる

街の魅力の源泉は、多様な「遊び」。それを支えるのは……?

小山

2015年のレポートリリース以降もセンシュアス・シティの調査を継続されてきて、街における「なんかいいよね」という感覚がどこから来るのか、特にコロナ禍以降で何かアップデートされた要素などはありますか?

島原

センシュアス・シティ調査は2015年に発表して以来、2回目の調査は実施していません。でも、センシュアス・シティの尺度は人間のプリミティブな感覚や感情にひもづくものなので、コロナ禍によって評価体系が大きく変わるようなことはないと考えています。ただ、テレワークなどコロナ禍で生活様式が変化しましたので、地域の評価が変わることはあるかもしれません。

 

それよりも、その後に地方創生をテーマにして地方都市の調査を進めていく中で、都市や地域には「遊び」の要素がとても重要なのではないか、という仮説が浮かび上がってきました。地方と都会の人口流入の差も、この「遊び」の豊かさの差が色濃く反映されているように思えます。

小山

「遊び」の豊かさ、ですか。

島原

日本では、娯楽やレジャーはもとより文化的な趣味やスポーツまで、ほとんどの「遊び」の経験は市場経済に委ねられています。大都市に比べて人口規模が小さく所得も低い地方都市では「遊び」の市場が成立しにくい。そのため地方都市は、雇用や利便性だけでなく文化度や教養、健康といった点においても、大都市に比べて明らかに不利な状況にあります。

 

地元の経済力が落ち込んだエリアでは、人々の消費や娯楽が、広域の商圏から集客をする巨大なショッピングモールへの依存度を高めています。このことがさらに地域の「遊び」の豊かさが損なわれてしまう大きな要因になります。

小山

それはどうしてですか?

島原

ショッピングモールに入れるような大手の商業チェーン店は、多くがPOSデータで商品の売れ行きを管理しています。そうすると、どの店でも売れ筋のものしか置かなくなる。飲食やシネコンなどの上映ラインナップも同様ですね。

 

すると、「その街だからこそ」というような、土着的な文化に支えられていた個性的な要素が、街からどんどん消えていってしまうんです。そうやって地域のライフスタイルから多様性が失われ、全国どこでも同じように画一化していきます。

小山

たしかに、個性的な要素が街にたくさんあると、そこに住む人たちの行動も多様になって、「なんかいいよね」という雰囲気を感じやすくなる気がします。

島原

ただし、ショッピングモールやチェーン店があるとよくない……とは一概には言えません。センシュアス・シティで調査した134都市を、上位25%、中位50%、下位25%で仕分けして分析してみると、チェーン店の存在は上中下で差はなく、上位のエリアもチェーン店が数多く存在しています。

 

違いがあるのは、上位のグループはチェーン店と個人店が共存していて、雑多な多様性がある印象です。中位から下位のグループになると、チェーン店はあるけど個人店は少ないという傾向がはっきりします。

 

センシュアス・シティの上位10都市は東京や大阪などの大都市圏の街が大半を占めていますが、それ以外の地方都市では唯一、金沢市が8位に入っています。金沢は食事がおいしいですし、飲み屋も充実している。美術館や博物館も多く、アート系やクリエイター系の人も多くいます。

 

金沢は加賀百万石の時代からの歴史的な蓄積があって、行政も文化財の保全、文化的な活動への支援を重視しています。その土地、その街固有の文化がしっかりと温められているからこそ、多様な遊びの要素が街全体に散りばめられていて、それが街の感覚的なよさにつながっているのかなと、私は感じています。

「たまに行きたい街」と「住みたい街」の差、カギは住民のリスペクト?

小山

多様な「遊び」とマニアックな要素、それを支える文化の豊かさが、街の感覚的な魅力をひもとくカギになるのですね。そう考えると、金沢のほかにも「遊び」のポテンシャルが高い地方の街はたくさんあるようにも思えます。

島原

たしかにそうですね。特に、山や海・川などの自然環境は地方の強みですね。自然に触れたいがために、都市部から地方に出る人は多いです。でも、地方都市自身がその強みを自覚していないように思います。

 

私が携わった調査遊びからの地方創生~寛容と幸福の地方論Part2~では、東京に住む人たちの40%以上が、定期的にアウトドアレジャーを楽しんでいると回答しているのですが、この割合は地方都市の人々より高いんです。ただ、「遊び」には行くけど、そこに「住みたい」と思うかはまた別の話です。

小山

そうですね。一方で、特段目立ったレジャーがなくても「好きなアニメの聖地だから」という理由でファンが移住をする、という話も時折耳にします。とても興味深いポイントなのですが、「たまに行きたい観光地」と「なんかいい、住んでみたいと思う街」の違いって、どこに生まれるのでしょうか?

島原

それは、土地固有の文化として地域のライフスタイルにしっかりと浸透しているかどうか、の違いだと感じています。地元の人々が日頃からその文化に親しみ、心から愛着を持っていないと、単なる観光資源として利用されるような形になってしまう。

小山

なるほど。「この文化は人々に大事にされているな」って感覚は、多分街を歩いていても、雰囲気で分かる気がします。

島原

​​僕は昔、江の島近くに住んでいたんですけど、あの街ってアメリカ西海岸のサーファー的な文化がよく根づいているんですよね。住宅地でサーフボードを持って裸足で歩いているおじいさんをよく見かけたし、お店もナチュラルで開放的なデザインの所が多くて、地元の人たちで賑わっていました。

 

そういう風景があると「くらしに浸透しているんだな」と感じられます。私はサーファーではありませんが、そういう湘南のカジュアルなカルチャーは心地よいものでした。

小山

「まず観光ありき」ではなく、「文化があって、大事にする住民がいて、結果的にそこから多様な遊び≒コンテンツが生まれている」ような街が、感覚的にも魅力を感じられると……自分の中の街選びの基準が明瞭になってきました!

島原

細かいことなんですが、正確に言うと少順番が違うんです。人類の遊びと文化の関係を研究た歴史家ホイジンガは、「遊びは文化より古い」ということを発見た。つまり、遊びが文化を作るんです。遊び≒コンテンツが住民に大切にされライフスタイルの中に浸透することで、結果とて地域の文化・カルチャーになるということです。

街との相性をつかむには、「半分遊び」をくらしに散りばめて

小山

ここまでのお話で、街における「なんかいいよね」という感覚の正体が明瞭になってきました。最後にあらためて「多様な選択肢の中から、自分にぴったりと合った住みよい街を選ぶためのポイント」について、ぜひ島原さんからアドバイスをいただけたら嬉しいです。

島原

まず、通勤利便性とか子育て環境とかあるいは医療サービスの充実など、個人の属性やライフステージによって重要な環境条件はあると思います。それらを押さえつつ、センシュアス・シティの評価軸でもある「関係性」と「身体性」において、どれくらい自分と相性がよいかを体感した上で選べるといいのではないでしょうか。

 

そのためには、まず実際に街を歩いてみて「どんなコミュニティがあるか」を知ることから始めることをオススメします。街の文化や住む人たちの雰囲気を知るのにも、なんらかのコミュニティに接触するのは効果的な方法だと思います。

小山

コミュニティというと、何かの集会とかに顔を出したりするイメージでしょうか。ちょっとハードルが高そうな……。

島原

いきなり内部に入り込むようなことをしなくても大丈夫ですよ(笑)。僕はその街の雰囲気をつかみたいときには、よく銭湯に行ったりします。そこで誰かと話したりしなくても、その場にいることで感じられる街の空気感があるんですよね。あそこには沈黙の連帯があって、そこにいる人たちが醸す空気が心地よく感じられるかどうかは、住む街選びの参考になるんじゃないかなと。

小山

なるほど、銭湯も人が集まるゆるいコミュニティですね。そう思うと、地元の人たちで賑わっている飲み屋などに行くのもよさそうです。

島原

まさにそうですね。小さい個人経営のお店に足を運んで、できれば話しかけたりしてみてほしいです。付き合いを積極的に求めない人もいるかとは思いますが、その土地の人々とまったく関係性を持つ気がないとなると、そこに住む楽しさは半減してしまいます。「本名は知らないけど、あだ名では認知し合っている」くらいのゆるいつながりがあるだけで、街での居心地はもっとよくなるはずですから。

小山

人と会って街を楽しむためには、自分の感性を育てる必要もありそうです。そのためのトレーニングとして、何かできそうなことってあるでしょうか?

島原

特に若年層の方々には、今の身軽さを最大限に生かして、賃貸などでいろんな場所に住んでみてもらいたいなと思います。下町っぽい文化が好きなのか、都心のオシャレな雰囲気が好きなのか、郊外住宅地の清潔さが好きなのか……人によって「合う、合わない」の感覚は全然違いますからね。

 

自分にとっての「合う、合わない」を判断する感性を育てるためには、なるべく多くのサンプルがあったほうがよい。フットワークを軽くして、今のうちにたくさんの街を訪れて雰囲気を肌で感じ、できればちょっと滞在したり、住んでみたりする。それが一番のトレーニングになりそうです。大事なのは、家の中でスマホばかり触っていないで、外へ出て街を観察したり、人と出会ったりすることです。

 

あとは、「半分遊び」のような要素を、積極的にくらしに取り込んでいけるとよいかもしれません。

小山

半分遊び、ってどんなものでしょうか?

島原

例えば、駅から家までの帰り道でも、いつも決まった最短ルートを選ぶのではなく、賑やかな商店街やちょっと風情のある細道なんかを回り道して、あたりを見回しながらのんびり歩いてみるとか。

 

遊びが主目的ではない行動に、ちょっとした「遊び」が生まれそうな余白を取り入れてみる。こうした「半分遊び」を日常に散りばめていけると、いつものくらしはグッと鮮やかに色づきますし、街の魅力を感じとる感性も鍛えられると思います。ぜひ、意識してみてください。

自ら街の「遊び」を見つけに、そして楽しもう

島原さんのお話を聞いて、「なんかいいよな」という街の魅力とはやはり、数値化できるスペックではなく、そこに住む人たちが作る雰囲気から感じられるものなんだなと納得しました。言葉にすると当たり前のように感じられますが、合理的な都市開発が行き過ぎて、その当たり前が忘れられてきているからこそ、「センシュアス・シティ」という考え方が、私を含む多くの人々にインパクトを与えたのだと思います。

 

サーファーがいる街、写真家がいる街、アニメで有名な街、ニュータウンできれいな街……どういう雰囲気が合うのかは人それぞれ。では、自分にとって住みよい街をどう感じとったらよいのか? その大きなヒントは、今回のインタビューで何度も出てきた「遊び」と「楽しむ」という言葉にあるなと感じました。

 

「遊び」も「楽しむ」も、合理的なものと距離のあるところにこそ生まれる。理屈に削ぎ落とされてしまいそうな余白を守って、そこに遊びや楽しさを見出していく——そんなことを意識すると、今よりさらに街や人の魅力を感じられるとともに、住む街選びの感性がいっそう磨かれそうです。私も明日から、帰りはいつもと違う道を歩いて、家路を積極的に楽しんでみようと思います!

 

皆さんが「なんかいいよな、住んでみたいな」と感じる街には、どんな要素があると思いますか? ぜひ、「#あしたどこでくらそう」をつけてツイートしてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、LIFULL HOME‘S総研所長、島原万丈さんを訪ねたときのことを振り返りながら、自分にとっての最適な「住みよい街」の見つけ方について、改めて考えました。

Photo by 加藤 甫

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