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Life Explorer

「あしたどこでくらそう」特集に寄せて

q&d第7回目の特集では、私たちが掲げる11の問いのうちのひとつ「Life Explorer」をテーマとして、「住む場所の選択と、くらしの幸せの関係」について考えます。

minato
q&d編集部
湊 麻理子

兵庫県出身。一橋大学卒業後、パナソニックに入社。UK駐在、4泊5日で4カ国を回ってテレビを売り込むなどといった海外営業職を経て、2017年から未来創造研究所所属。デジタル、デザイン、コミュニケーションの交点をうろうろしてコミュニケーションの未来をつくることが仕事。疲れてくると息子を吸いがち。趣味は観劇。

目次

住みたいところに住める時代、近づいてきている?

「どこにでも住めるとしたら、どこに住んでみたいか?」——こう問いかけられたら、あなたはどんな空想を膨らませるでしょうか。

 

従来、住む場所を自由に選べる余地は、そこまで大きくありませんでした。「学生時代は家族と同居、会社に入ったら職場の近く、結婚して子どもができたら通勤可能な郊外で……」といった具合に、居住地は生まれた場所や家族との関係、職場などの条件によって、おおよそ限定されるものだったからです。

 

しかし昨今、そんな状況が少しずつ変化して、住む場所の自由が広がりつつあるように感じています。新型コロナウイルスの流行、それに伴う緊急事態宣言の影響などを受けて、さまざまな企業でリモートワーク導入の検討がされ始めました。

 

実施できる職種は限定的ではあるものの、今までは「出社しないとできない」と思われていた仕事の一部が場所の制約から解放されると共に、「会社の近くに住まなければいけない」という当たり前が所々で見直されつつあります。そんな背景もあってか、ここ数年で私の身の回りにも、会社員でいながら移住や多拠点生活をする人が増えています。

 

住む場所の自由が広がっていったら、これから私たちはどのように居住する土地と向き合うようになるのでしょうか。「住む場所」と「幸せ」は、私たちの心の中でどのように結びついていくのでしょうか——。

 

こうした問いと向き合うために、人々がいま居住地にまつわる変化をどのように感じ、実際はどんな行動を取っているのかを知ろうと思い、全国の18〜34歳の700人にアンケートを実施しました。

 

q&d第7回特集「あしたどこでくらそう」の巻頭企画となる本記事では、アンケートの結果を参照しながら、私たちが今いる場所、次にくらす場所を愛しつつ、心地よいくらしを送るためにはどんな要素がカギになるのかを考えてみました。

 

アンケートを踏まえ、より深めたいと感じた問いについてはインタビューを実施し、特集内の別記事にまとめていきます。本記事内にリンクを掲載するので、ぜひ併せてご覧ください。

居住地の自由を阻むのは、どんな要素?

はじめに、今回のアンケート調査の概要について、下の図にまとめました。

調査対象となった700名のうち、約3割が一人暮らし、残りの7割は家族、あるいは友人やパートナーと同居しています。また、仕事あるいは学業が「(度合い問わず)リモートで実施されている」と答えた人は35.1%に上りました。

 

続いて設問上で私たちが注目したのは、「若年層の皆さんは居住地の自由を求めているのか、そして居住地の選択は自由になっていると感じているかどうか」です。

「あなたの『自由に居住地(エリア)を選びたい』という気持ちの強さを教えてください」という設問に対して、「とても強い」「やや強い」と答えた人の割合は7割を超え、居住地の自由を求める気持ちがとても強いことが伺えます。

 

「『現在の社会は以前と比較して居住地(エリア)の選択の自由度が上がっている』と感じますか?」という設問についても、「とてもそう思う」「そう思う」と答えた人の割合が57.7%となりました。

 

一方で、「あなたが今住んでいる居住地(エリア)は、『自分で自由に選べた』と感じますか?」という設問に対して、「とてもそう思う」「そう思う」と答えた人の割合は4割程度でした。

 

これらの結果から「社会は居住地を自由に選べる方向へ変化していると認識しており、自分も選びたいと思っているが、その変化を自身には適用できていないと感じている人たち」が一定数いることが伺えます。このギャップは、何が要因で生まれているのでしょうか?

 

それを知るために、「『3年以内にあなたの住みたい居住地(エリア)に引っ越してください』と言われた場合、ハードルになるのはどんなことですか?(複数回答可能)」という質問をぶつけてみました。

「住居費(家賃や引越し代)など金銭的な制限」が大きなネックになっているのは想定していましたが、予想外に多かったのが、「引っ越しのわずらわしさ・所有物の量」「生活が変化することへの不安」を障害として挙げる人の割合でした。また、リモートワークが少しずつ浸透してきたとはいえ、やはり「仕事がネックになる」と答える人も3割に上りました。

 

これらのハードルをクリアしつつ、自分にとって心地よい居住地を自由に選ぶライフスタイルを実現するには、どうすればよいのでしょうか? 今回の特集では、多拠点生活のサブスクリプションサービスADDressの代表取締役である佐別当隆志さんにお話を聞き、「旅するように居住地を転々と変えていくライフスタイルはどのようにすれば可能になるか」という問いについて考える記事を掲載します。

自由に選びたいけど、いつかは定住したい?

「自由に居住地を選びたい」と考える人は多いようですが、これから人々は心赴くままに、短期間で居住地の移動を繰り返し続けることを好むようになるのでしょうか? それとも、いつかどこかに定住するスタイルは変わらず残っていくのでしょうか? そんな問いをひもとくヒントとなりそうなのが、下記の図にまとめたアンケート結果です。

「あなたの『自由に居住地(エリア)を選びたい』という気持ちの強さを教えてください」という設問と、「人生の中のどこかの時点で、定住することを望んでいますか?」という設問の答えを掛け合わせて分析したところ、居住地の自由を求める気持ちが強い人ほど「定住したい」という思いも強いという結果になりました。

 

これは、私たち編集部にとっては意外な結果でした。居住地の自由を求める人は、延々と移り住み続けるのではなく、居住地を転々としながら「“居場所“だと思える、安心して住める土地」を探し求める傾向にあるのかもしれません。

 

では、見知らぬ土地や、いま住んでいる土地を「安心できる居場所」にしていくためには、どんなことが必要になるでしょうか? この問いを探究するために、兵庫県豊岡市で医師をしながら地域をつなぐ活動をしている「だいかい文庫」の館長、守本陽一さんとお話をして考える記事を掲載します。

若年層のくらしにとって「愛着のある土地」の存在は重要なのか?

「居住地の自由」にまつわる人々の思いのほかにもう一点、私たちがこのアンケートを通して知りたいと思ったのは、「土地と愛着の関係」です。居住地の自由度が高まり、本人も自由を求める気持ちが強いと、「特定の土地にそもそも愛着を持たない」という可能性もあるのではないか……と考えました。そこで私たちは、アンケートの中で下記のような質問をしてみました。

今まで居住地(エリア)に対して特別な愛着を感じたことはありますか?」という設問に対しては「とてもそう思う」あるいは「そう思う」と答えた人の割合が53.7%でした。

 

続いて「あなたの人生にとって、『愛着のある土地がある』ということは重要ですか?」という質問をしてみたところ、「とてもそう思う」「そう思う」と答えた人の割合は61.78%でした。自由に移り住むことを求めつつも「愛着のある土地があること、いつかそれを見つけること」は、多くの若年層にとって、くらしの中で重要なことと言えそうです。

 

では、私たちはどのように土地を好きになるのでしょうか? いろいろな条件を複数選択可能にして聞いてみた結果を、下記の図にまとめました。

居住地に対して特別な感情を持つのは「周囲の環境/街への愛着」が理由である、と答える人が群を抜いて多いという結果になりました。

 

意外だったのは、進学や転勤などで引っ越し先を決める際に考えるような「職場、学校、金銭的な条件の良さ」といった、現実的な条件の合致を重視する人が、思いのほか少なかったことです。これからリモートワークの拡大が進んで、物理的な制約がさらに減っていくと仮定すれば、住まい選びにおける「街そのものへの愛着」の重要度はますます増していくのかもしれません。

 

こうした愛着のよりどころとなる「街の魅力」は、一体どのように育てていくものなのでしょうか。それを考えるために、街の魅力度を測る尺度として「センシュアス・シティ(官能都市)」という考え方を提唱しているLIFULL HOME' S総研所長の島原万丈さんと対話した記事を掲載します

これからの「愛着を持てる場所の見つけ方」って?

最後に、「若年層は『愛着のある土地』をどのように見つけていくのだろう」と気になったので、「住んだことがない場所だけど、旅行・出張などで訪れた場所で、特別な愛着を感じる場所に出会ったことはありますか?」という質問を投げかけてみました。下記が、その回答をまとめた図です。

回答を見ると、半数近くの方が「住んだことがない場所でも『愛着のある土地』を見つけた経験がある」と答えています。「愛着のある土地」というと、「自分が生まれた土地」や「かつて住んだことのある土地」という要素が不可欠のように思っていたのですが、若年層の皆さんは住んだことがあるかどうかにとらわれず、より柔軟に「土地への愛着」をとらえているようです。

 

さらに注目していただきたいのは、回答者の中でも18~19歳の回答者の間では、ほかの年齢層に比べて「はい」と答える人の割合が多かったことです。若ければ若いほど、土地への愛着の持ち方を柔軟にとらえているのかもしれません。

 

現状では成人前の若年層は、基本的に「家族と同居する」のが常識で、彼らの「ここでくらしたい」という思いは、叶いづらい状態にあると感じます。もし成人前でも自分の意志でくらす場所を選べたら、どんなことが起こるのか……そんな問いを突き詰めるために、「しまね留学」という制度を利用して親元を離れて寮生活を送りながら学校に通う、島根県立島根中央高等学校の学生と、それを見守る職員の方々に取材をした記事を掲載します

一方で、今回の調査では「どこに住むか?」という点にフォーカスしましたが、住まいのあり方を考える上では「誰と住むか?」という要素も重要になると感じます。「大切な人たちとなるべく一緒に住みたい」と願う人々にとって、単身赴任などで離れて住まなければならなくなることは、できれば避けたいと思うでしょう。

 

そうした状況――住む場所を制限され、大切な人たちとの距離が物理的に離れてしまうとき、私たちはどんな技術を取り入れ、どのようにコミュニケーションを取れば、その関係を維持できるのでしょうか。そんな問いについて、ロボット工学者の石黒浩さんにお話を聞きながら考える記事を掲載します。

あなたは「あしたくらす場所」を、どんなふうに考えていきますか?

住む場所に関する自由度は確かに高まっているように感じているけれど、必ずしも自分が自由に選べているとは感じていないこと。自由に居住地を選びたいと感じると同時に、いつかは定住したいと思っているし、愛着のある土地を持つことも重要だと思っていること。部分的に矛盾するような考えが同居しているように見えても、すべてがくらす場所についての偽らざる想いであること——。

 

今回の調査を通じて、さまざまな気づきがありました。そして「どこでくらすか」は多くの人にとって、とても重要な要素なのだと、あらためて感じさせられました。

 

私たちが心地よくくらすための場所はどうしたら探せるか、あるいは今住んでいる場所を居心地がよく、愛着が持てる土地にするにはどうすればよいか。この「#あしたどこでくらそう」特集での問いと対話をヒントにしながら、皆さんと一緒に考えていければと思います。

 

 

今回の記事を読んで感じたことを、ぜひ「#あしたどこでくらそう」 をつけてシェアしてみてください。皆さんとの対話を楽しみにしています。

q&d×note 投稿コンテスト「#どこでも住めるとしたら」開催しました!

 

もし、場所の制約がなくどこにでも住めるとしたら、どこに住んでどんな暮らしをしてみたいか。春、新生活を迎えるひとも多い季節を迎えるにあたって、たくさんのnoteを投稿していただきました。

 

▼コンテスト企画についてはこちら

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、インターネット上で実施したアンケートの結果を参照しながら、私たちが今いる場所、次にくらす場所を愛しつつ、心地よいくらしを送るためにはどんな要素がカギになるのかについて、改めて考えました。

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