入社時からリモートワークの私が未来のワークライフバランスを探求してみた
入社時からリモートワークの私が未来のワークライフバランスを探求してみた
仕事とくらしの垣根がより曖昧になってきている今、私たちはどのようにそれらのバランスをとっていけばよいのでしょうか? 入社以降からほぼ在宅勤務を続ける筆者が、同世代の会社員たちとの対話を通して、自分に合った「仕事とくらしの関係モデル」の探求を試みました。
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早稲田大学で建築・都市計画を学ぶ。桜島でのフィールドワークや車中泊者の生活調査を行うなど、生活者に深く迫りくらしの実践知を明らかにする研究に取り組む。2021年にパナソニックに入社し、未来創造研究所に所属。最近社交ダンスを始めた。
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職住“一体”の私たち――自分なりの仕事とくらしの関係は?
私は「出社」「出勤」という行為に、あまり馴染みがありません。なぜかと言えば、2021年4月に入社して約1年が過ぎようとしていますが、基本的に在宅勤務で、実際にオフィスへ行った回数は数える程度だからです。同世代の友人たちも出社頻度は少ないようで、こうした背景から、「オフィスに行って仕事をする」というワークスタイルを経験していない私たちは「リモートワークネイティブ」と言えるのだろうと感じています。
私は今、仕事とくらしが一体となった日々を過ごしています。朝起きたらダイニングテーブルのそばにあるデスクに座り、定年退職した両親が日々を過ごしているのと同じ空間で、黙々と仕事をしています。自分にとって仕事とくらしは混ざり合っていて、不可分なものであるように感じています。


一方で、これまで社会において「仕事とくらしの関係」がどのように捉えられてきたかを考えてみると、内閣府が「仕事と生活が調和した(ワークライフバランス)憲章」を発表したのが2008年のこと。また同年には、経済三団体のひとつ、経済同友会が提言書『21世紀の新しい働き方―「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して』を発表し、仕事とくらしの統合を意味する「ワークライフインテグレーション」という言葉も新たに登場しました。
近年、仕事とくらしの捉え方は「バランスを図る」から「人生の一部である」に発展してきているようですが、私は「ワークライフバランス」も「ワークライフインテグレーション」も、言葉としてはしっくりきていません。それは、仕事とくらしが混ざり合った状態で、私のキャリアがスタートしたからだと思います。
出社が当たり前だった頃に受け入れられていた従来の「仕事とくらし」の捉え方は、その働き方を知らない私には参考にしにくそうです。それならば、既存の概念に頼らずに自分らしい仕事とくらしの関係をイメージできたら、より良い人生の組み立て方が見えてくるのではないか……と考えました。
そんな動機から、仕事を「ワーク」、くらしを「ライフ」としてそれらの関係を図に描いてみたり、同世代の社会人にヒアリングするなどして、ポストワークライフバランス時代の新しい「ワークとライフの関係モデル」を探求してみました。そのプロセスを、本記事に記録していこうと思います。
ワークとライフの関係を図にしてみた
「私にとってワークとライフの関係性とは、どのようなものか?」という問いに向き合うにあたり、ワークとライフのイメージを図にしてみるのはどうだろうかと考えました。
いきなり言語化せず、まずビジュアルに落とすことで、曖昧さや不完全さを残しつつも、言葉で表現しきれない感覚やイメージを、より忠実に捉えられると思ったからです。ワークとライフの関係を図にしたものを、この記事では「ワークライフモデル」と呼ぶことにします。
ものは試しに、これまで、そして現在の社会で広く採用されてきたと思われるワークライフモデルを
①ワークライフバランス以前
②ワークライフセパレート
③ワークライフクロス
④ワークライフインテグレーション
の4タイプに分類して、それぞれをビジュアル化してみました。

「①ワークライフバランス以前(ワークライフバランスという言葉がなかった頃)」のモデルは、生涯雇用を前提としたワーク偏重時代の「バリバリ働く日本のサラリーマン」のくらしをイメージしました。プライベートの時間が少なく、くらしのほとんどが仕事に占められている人は、このモデルが当てはまるかもしれません。
「②ワークライフセパレート」は、ワークとライフを完全に切り離して別々のものとして捉えているタイプです。①の反動から、仕事と私生活のバランス、オンオフの切り替えを意識する傾向が強まりました。
「③ワークライフクロス」はワークとライフの比重が同程度で、重なり合う部分もあるタイプです。“仕事の自分”と“プライベートの自分”をはっきり切り分けることに違和感のある人は、このモデルであることが多いのではないでしょうか。「ワークライフバランス」という概念は、この③と②を合わせたものであるように感じます。
最後の「④ワークライフインテグレーション」は、ワークとライフがぴったりと重なっていて、文字通り両者の「統合」を志向しているタイプです。主観ですが、「自分の好きなこと、やりたいこと、人生を懸けて成し遂げたいことをそのまま仕事にしている状態」を指すモデルだと認識しています。
世間一般のイメージを自分なりに分析・整理しましたが、以上を踏まえて私自身のワークライフモデルを描いてみました。ここからは、既存のイメージと私のイメージを比較しながら、どのような違いがあるのか言語化していきたいと思います。
バランスでもインテグレートでもない、シームレスな「アメーバ型」
最初は、①〜④と同じようにワークとライフを円でイメージして、自分のワークライフモデルはどうなっているだろうかと考えてみましたが、どうもうまく描けません。表現を試行錯誤した結果、私のワークライフモデルは以下のような「アメーバ型」に落ち着きました。
ワークとライフが溶け合って1つになっています。1つになるという点では④の「ワークライフインテグレーション」のモデルと同様にワークとライフが1つに融け合うイメージも確かにあります。しかしその感覚は、キノコやカビが菌糸を伸ばしていくようにWorkとLifeのアメーバが互いに拡張し合いながら1つの生き物に溶け込んでいくイメージです。

私の場合、ワークとライフは動的で、互いを拡張し合いながら周辺世界を飲み込んで、知識や気付きを与えてくれます。ワークとライフが合わさって、社会や世界を解釈するネットワークを編み、最終的にアメーバの塊全体で「小山真由」という人間性を形成します。 ワークとライフに粘着性があり、癒着していくイメージです。だからこそ私の場合は「バランス」「インテグレート」というより、「シームレス」という表現の方がしっくりきます。
さて、ここまでワークライフモデルの分析を進めてみて、「同世代のリモートワークネイティブたちは、ワークとライフをどうイメージしているのだろう?」という疑問が浮かぶとともに、その答えへの興味が湧いてきました。私の「アメーバ型」と似ているのか、それとも全く異なるのでしょうか。
そこで、同世代の会社員5人にヒアリングを実施し、仕事とくらしの価値観について話してもらい、それぞれのワークライフモデルの作成を試みました。
協力してもらった5人は社会人1~3年目の会社員で、いずれも私の友人です。言語化しにくいワークとライフの価値観を語るには、「互いに気張らず、迷いながらでも本音で対話ができること」が重要です。近しい関係を対象としたのは、私との間にある程度の信頼関係が築かれているほうが、曖昧さを言葉に落とし込みやすいと考えたからです。
ヒアリングでは、「あなたは『ワーク』『ライフ』という言葉の意味を、どのように捉えている?」「理想的な働き方、くらしの形ってどんなイメージ?」「実際、どのようにして“働く時間”と“くらしの時間”の折り合いをつけている?」といった質問に答えてもらいました。
そうした質問を通じて、普段あまり意識することがないであろうワークとライフの認識の解像度を上げてもらい、その上で、それぞれのワークライフモデルを描いてもらっています。次の段落で、5人が考えるそれぞれのワークライフモデルを、解説を添えながら紹介していきます。

若手が考える多様な「ワークライフモデル」

Aさんは、ワークを「トランポリン台」、ライフはその上で飛んでいる球のようなイメージであると捉えているそうです。ワークとライフは現状では分かれていますが、最終的には「ライフ=ワークになるようなフィールド」を見つけるのが理想で、そんな場所を見つけるために「今はワークのフィールドで自分の足腰を鍛え、より高く、より遠くまで飛べるように訓練しているイメージ」と話してくれました。

Bさんは、ワークとライフは二段重ねの「ピラミッド」のような立体構造にあると捉えています。現状は「土台であるワークで稼いだお金が、ライフ≒やりたいことを支えている」状態で、今後はライフの範囲を拡張することで「好きなことをして稼げる、ライフがワークを包み込んでいる状態に近づけていきたい」と話してくれました。

Cさんは、ワークもライフも「自分ひとりの中で完結するものではない」と捉えていて、他者との関係の中に「ワークの循環」と「ライフの循環」がそれぞれ存在しているのではないか、と感じているそうです。ワークの半分は生きていくためのお金に還元して、残り半分は「市場経済では測れない、他者との関係を豊かにする価値(例えば、贈り物など)に換えていきたい」と語っていたのが印象的でした。

Dさんは、モデルの中にはっきりと時間軸を取り入れ、ワークとライフの位置関係が入れ替わりながら更新されていく様子を描きました。ワークの中でライフをアップデートするヒントを見つけ、それがライフの拡張につながり、拡張したライフの中で今度はワークをアップデートするヒントを見つけ……と、お互いが刺激し合いながら、らせん状に高みに向かっていくイメージだと語ります。

Eさんは、ライフを「身体にひもづく領域」、ワークを「頭から溢れ出すものの領域」と表現しました。彼の定義は独特で、ワークとは「プライベートも仕事も含めた(身体ではなく)脳みそが喜ぶ活動」、ライフとは「身体的な欲求/欲望を満たす活動」と捉えているそうです。仕事でもプライベートでも「自分のやりたいこと」と常に向き合えているからこそ、このような捉え方ができるのかなと感じました。
不確実性の高い世の中で、自分が生きやすくなるモデルを見つけていこう
ヒアリングを通じて、ワークとライフの関係について私自身も、より柔軟に考えられるようになりました。なかでも印象的だったのが、友人のひとりが「今、楽しいと思った興味や業務に夢中で取り組む。そうすると、それが積み重なった先で、自分は何者になれている気がする。そういう手応えがある」と語っていたことです。私も、この考えには共感しています。
定型を決めず、その場その場での興味や柔軟性を重視する――こうした考え方は、短絡的で行き当たりばったりだと思われるかもしれません。ただ私は、即興性や柔軟性こそが、不確実性の高い世界を生き抜くための処世術だと感じています。そして、この感覚がおおむね間違っていないという確信を、同世代に話を聴くことで得られた気がします。
これを読んでいる皆さんにも、ぜひ自分の「ワークライフモデル」を描いてみていただきたいです。きっと、描きながらさまざまな発見があるはずです。今回、実験的にやってみて、「こうして実践すると、取り組みやすそう」と感じたポイントがありました。以下の3点を意識して取り組んでみてください。
<ワークライフモデルを描く時の3つのポイント>
①ワークとライフの捉え方について、友人と雑談をしてから描く
私はひとりでうんうんと悩みながらモデルを描きましたが、友人たちにヒアリング調査を実施してみて「人とワークとライフについて話し、互いに思考し、刺激し合いながら描いたほうが、確実に描きやすい」ということが分かりました。ぜひ、この記事を友人と読み、お互いに「どう思う?」などと感想を言い合った後で描いてみてください。
②定型に縛られず「変化を含む表現をしてよい」という前提を持つこと
私を含め、今回の調査対象者は皆「ワークとライフの関係は流動的で常に更新し続けるもの」と捉えていました。可変的なものだという前提を持つと、より表現が自由になり、自分にしっくりくるモデルが描きやすくなるはず。可能であれば、絵よりもアニメーションで表現できたほうが、自分の本当の気持ちにより近づけるかもしれません。
③他者の存在、他者との関係を念頭に置くこと
モデルに「他者」の存在がはっきりと描かれたのはCさんだけでしたが、会話の中で、どの調査対象者も「他者の存在、他者との関係」を念頭に置いた価値観を持っていると感じました。ワークとライフを「自分だけのもの、閉じたもの」として捉えず、「身近な家族や友人たちとの関係を踏まえ、彼らとどんなくらしを営んでいきたいか」と考えると、より自分の実態に近いモデルが描けると思います。

今回の特集企画を通して、あらためて「ワークとライフの捉え方は本当に人それぞれ異なるのだな」と実感しました。サンプルは少ないのですが、モデルのイメージが既存の4つにぴたりと当てはまる人は誰もおらず、これだけ揺らぎのあるものをいくつかの定型に押し込めて考えるのは、やはり限界があると感じました。
ワークライフバランスも然りですが、私はこれまで、世間で“一般的”とされる仕事観や生活観になかなか馴染めない自分のことを「すごく不出来な人間なのではないか?」と感じていました。けれども、今回のヒアリングにより、定型に収まらない自分らしい視点や定義を、これまで以上に肯定できるようになりました。やってよかったなと、心から思えています。
皆さんは、ワークとライフの関係をどのようなイメージで捉えていますか? ぜひ、自分なりのワークライフモデルを描いてみて、#ポストワークライフバランス を添えてシェアしてもらえたら嬉しいです。
『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、仕事とくらしの関係性をモデル化してみた時のことを振り返りながらワークライフバランスについて、改めて考えました。
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