QUESTION & DIALOG QUESTION & DIALOG
My Theory on Life

「こだわり」は私を支えるもの?縛るもの?
くらしを振り返って考えてみた

「あなたのこだわりは何ですか?」――ぱっと思い浮かばなくても、当たり前になっている習慣や、無意識でやっていることなど、一人ひとり独自の「こだわり」があると思います。そもそも「こだわり」とは何なのか、私たちのくらしに何をもたらしてくれるのか……そんな問いについて、20代前半の学生・社会人3名と対話してみました。

q&d編集部
石田 暁基

福岡県出身。九州大学芸術工学府卒。パナソニックに入社後、UXデザイナーとして社会課題に向き合う。q&d編集部の若者研究担当として活動中。アナログレコードをこよなく愛している。

目次

「全集中」は、意外と癒やし?

――今回の特集「かけがえのないあなたの、取るにたらないこだわり」では、他人から見たらどうでもよく見える「こだわり」こそが、くらしを豊かにするカギになるのではないか……という仮説を持って、問いと対話を深めていこうと思います。まずは、皆さんにとっての「こだわり」がどんなものかを教えてください。

針谷 爽さん(パナソニック入社5年目。電車での移動中にはアプリで数独に没頭して癒やされている。以下、針谷)

僕にとってのこだわりは「時間をぜいたくに使うこと」かなと感じています。

――「時間をぜいたくに使う」って、具体的にどんなことが挙げられますか?

針谷

数年前から定期的にデッサン教室に通っていて、毎回目の前に置かれた花や彫像とひたすら向き合って、3〜4時間かけて絵を描いています。本当にただの趣味で、とくに何かを生み出しているわけではないから「わざわざ手間を買っているようで、効率の悪い時間の使い方だなぁ」とは思うんですけど、そこに不思議と心が満たされるような「ぜいたくさ」を感じますね。

 

それと、ほかのことに脇目もふらずに、ただ目の前のことに集中している状況って、雑念が消えて頭がスッキリする感覚があるんですよ。いつも見ているスマホも、全然気にならなくなるし。

 

だから、僕にとってのこだわりは「リフレッシュにつながる」という要素も大きいかな、と。楽器演奏やランニング、銭湯に行くことにも、デッサンと似たような充実感があるなと思っています。

田中 理那さん(都内の大学生。映画を観ながら割った茶わんの金継ぎをするのが最近のマイブーム。以下、田中)

「目の前のことに集中できる時間が大切」という感覚は、とても共感します。私はインスタグラムに投稿するのが好きで、1つの画像の編集に3時間くらいかけちゃうんです。

 

インスタの投稿画面をデモで見れるアプリを使いながら、写真を組み替えたり、色味を揃えたり……自分でも「無駄にこだわりすぎだよな」と思うんですけど、楽しくてやめられません(笑)。それを編集している時間や、投稿した画像を一覧にして眺めている時間が、自分にとっての癒やしになっている気がします。

――針谷さんのデッサンも、田中さんの画像編集も、セルフケアのような効果をもたらしてくれているのですね。田中さんは、ほかに「こだわり」から連想されるものってありますか?

田中

そうですね……「丁寧だと思うこと」「豊かで穏やかなこと」「自分を保ってくれるもの」というイメージがあります。

 

たとえば、私は夜寝る前に、スキンケアしながら日記を書くことを10年以上続けていて。スキンケアは自分を丁寧に労ることですし、日記を書くのは私にとっての「豊かで穏やかな時間」に繋がっているのかな、と。たとえ深夜2時に帰ってきたとしても1〜2時間かけてやってますね。

――すごいですね! 面倒になったりはしないんですか?

田中

やっておかないと、次の日の自分の機嫌がめちゃくちゃ悪くなるんですよ(笑)。努力とかじゃなくて、歯磨きとかと同じような習慣として日常に組み込まれている感じです。

 

スキンケアも日記も、やらないとすごく困るものではないけど……それを蔑ろにしてしまうと自分が少しずつすり減っちゃうような感覚があるんです。自分を満足させるため、自分を確立するためにこだわってるというか。私が私であるためのルーティーンだと思うと「アイデンティティを支えてくれている行為」とも言えるかもしれません。

無意味な「秘密」が味方になる

――中川さんはいかがでしょうか?

中川 未紀さん(都内の大学生。机の上には写真立てを置いていて、お気に入りの絵を定期的に入れ替えながら飾っている。以下、中川)

 

 

私のこだわりを考えたときに、真っ先に浮かんだのは「服を選ぶこと」でした。服だけではなく、アクセサリーや香りにもこだわっているんですけど……いま、おふたりの話を聞きながらあらためて考えてみると、私にとって重要なのは、服そのものではなく「主体的に選ぶ」という行為自体なのかな、と感じています。

 

しかも、「ただ選べばいい」というわけでもなくて。その日の気分に合わせて選ぶことが大事なので、前日に着る服を決められないんです。だからよく遅刻しそうになるんですけど(笑)、当日に自分の感情と向き合って決めるからこそ「今日も私らしいな」と充実感を感じながら一日を過ごせるんですよね。

田中

私も服にはこだわるほうですが、中川さんのこだわり方とはちょっと違うかも。その日ごとに変えるより、時期ごとに着る服の系統自体がコロコロと変わる感じで。服を通して「あ、私って今こんなのが好きなんだ」と自分の好みの変化に気づくことも多いんです。

――一概に「服にこだわってます」と言っても、人によってポイントが違うのが面白いですね。

中川

あと、最近ひそかなこだわりがあって……それが「足の爪のネイル」なんです。バイトや内定先での仕事の関係で手のネイルは自由にできないんですけど、足の爪にちょっと派手な色のネイルをしています。誰からも見られないけど、自分だけの秘密みたいで楽しいんです。

 

そう考えると、「秘密」とこだわりってちょっと似ている気がします。どちらも、ほかの人にとっては無意味だけど、だからこそ自分にとっての意味は大きくて、大切にしたいものだなって。

針谷

自分だけの秘密のこだわりを持つって、なんだか気分がよさそうですね。他者と分かち合うことで豊かさが広がるこだわりもあれば、他者に左右されない、侵されないからこそよさが際立つこだわりもたくさんありそうです。

あなたの「こだわりのキャパ」は、どれくらい?

――皆さんが話してくれた具体的なエピソードから、「リフレッシュ」「アイデンティティ」「主体的な選択」「秘密」といった、こだわりを語る上でのキーワードがいくつか見えてきたように感じています。

 

さて、ここからは「そもそも、こだわりとは何か?」について考察を深めていきたいのですが、その足がかりとして、皆さんのこだわりをタイプ分けしていこうと思います。

 

今回、事前に若年層の方々にアンケートなどを実施したり、過去のq&dの記事の内容を参考にしたりながら、編集部で「こんなふうに分類したら、こだわりの整理がしやすいのでは?」という仮説を立てて、表にしてみました。ここに皆さんが挙げてくれた「こだわり」を貼り付けながら、あらためて考えたこと、感じたことを聞かせてください。

q&d編集部が作成した「こだわり」の分類表。横軸は「こだわりの向く対象」、縦軸は「こだわりの性質」を示している
田中

私は全体的にこだわりが強いほうだと思っていたけど、この表で整理してみると「場所」に対する執着は意外と薄いんだな、と気付きました。

中川

たしかに! 私のこだわりも「場所」や「モノ」に対するものはほとんどなくて、「自分・人間関係」に集中しています。こだわりと聞くと「モノ」のイメージが強かったので、あらためて印象が変わりました。

田中

針谷さんは「自分・人間関係」「モノ」「場所」にバランスよくこだわりが散らばっていますね。ちょっとうらやましいです。

針谷

まったく意識してなかったけれど、言われてみるとそうですね。こうやって表に当てはめて比較してみると、「対象は同じでも性質がまったく違うこだわり」もあれば「対象は違っていても同質性の高いこだわり」もあって、それがすごく面白いなと。

中川

そうですね。私の「『いただきます』『ごちそうさま』を言う」と、針谷さんの「お店選びは時間をかけて吟味する」は違う対象だけど、実はどちらも「自分にフィットするしないの感性で選ぶ」こだわりだった、とか。

――この枠組みに沿って考えてみて、湧き上がってきた疑問やモヤモヤなどはありますか?

田中

表の空いているところは、まだまだ新しいこだわりが生まれてくるポイントなのかもと思って、ワクワクしました。ただ一方で、こだわりって生きているうちは際限なく増えていくものなのかな……って少し不安になりました。それはそれで大変そうだなと。

中川

こだわる対象が増えていくと、お金も時間もめちゃくちゃかかりますよね。

針谷

たぶん、人によって「こだわりのキャパシティ」があるんじゃないかな。上限に近くなってくると、こだわりを捨てたり手放したりするようになる気がします。

田中

上限ってあるのかな……私は今のところなさそうだし、手放し方も分からなくて、そのうちこだわりまみれになりそうで怖いです(笑)。

――そう思うと、こだわりにも選択というか「断捨離」が必要になる瞬間があるのかもしれないですね。

今回の特集では『人生を変える断捨離』などの著者である著作家のやましたひでこさんにお話を聞き、「自分らしさを阻害するネガティブなこだわりの断捨離の仕方」について考える記事を掲載しました。

分かち合う喜びと、競ってしまうしんどさと

針谷

そもそも、自分なりにこだわりの定義について考えたときに「時間やお金をかけることを厭わない」っていう要素があるのかなと思っていて。好きだったら、時間もお金も惜しみなく出すことってあるじゃないですか。一方で「時間とお金をどれくらいかけたか」で、こだわりの度合いを判断されるのはモヤモヤするんですよね。

田中

その気持ち、めっちゃ分かります! 私、昔から米津玄師さんのファンで、アルバムは全部買ってるんですけど、ほかのグッズは買ったことなくて。「タオルとかTシャツとか買っても使わないしなぁ」って思っちゃうんです。

 

でも、高校生のときに周りのファン友だちはみんな、いろんなグッズを買い揃えていて……その様子を見て、密かに後ろめたさというか、「私はファン失格だな」みたいな罪悪感を覚えていました。

針谷

自分よりも時間やお金をかけている人を見てしまうと「自分のはこだわりって言えないのでは?」と思っちゃいますよね。コレクションの数やかけたお金、費やした時間などはとても分かりやすい比較対象だからこそ、こだわりの基準として見なされがちだなと。

中川

「私はこだわりっているぞ!」と周りに証明したい人にとっては、数値化できて比べやすいステータスって大事なのかも。こだわりって本来は周りと張り合わなくていいものなのに、ついつい周りのことも気になっちゃうから、バランスを取るのが難しいですね……。

今回の特集では、民藝の研究者である哲学者の鞍田崇さんにお話を聞き、「知識や経験の量で他人と比較しない、すこやかなこだわりの在り方」について考える記事を掲載しました。 

田中

人と張り合わなかったとしても、「誰かとこだわりを共有する」って難しいなと感じる瞬間もありませんか? たとえば、私がシンプルに「好きだ」と思って買おうとした靴に対して、自分より靴のこだわりが強い友人から「こっちのほうがレアで、それはどこでも買えるよ」とか言われたら、ちょっとすねそう(笑)。

――それは、自分のためのこだわりが他人に侵されるような感覚ですか?

田中

そうですね。私がこだわりたい軸は別にあるのに、それを否定して別の評価軸を提示されてるように感じます。知識としては正しいのかもしれないけど「べつに知らなくてもよかったな〜」って思う気がする。

中川

同じ対象にこだわりがあると、価値観の衝突が起きやすくなるのかも。逆に、自分が全然こだわっていないものについてだったら、「新しい知識が増えた」とポジティブに受け取れそうです。

針谷

そのあたりは伝え方にもよりますよね。自分のこだわりについて、目をキラキラさせながら話されたら素直に受け取れそうですが、上から目線で諭されるように言われたらイラっとするかもしれない(笑)。

――一人ひとり独自のこだわりがあるなかで、それをどう共有したり、譲り合ったりすればいいのか……これも多くの人が悩んでいるポイントかもしれませんね。

今回の特集では、脚本家・演出家の枝優花さんにお話を聞き、「一人ひとりそれぞれこだわりを持つ中で、いかに他者とバランスよく共存していくか?」にという問いについて考える記事を掲載しました。

満たす、支える、表現する。アイデンティティの土台たれ

――ここまでの対話を通して、皆さんにとっての「こだわり」とは何なのか、あらためて言葉にしてみてもらえますか?

針谷

僕は「自分の心や感性を満足させる軸」かなと。忙しくてもデッサンや楽器演奏、銭湯などに時間をかけることが、自分を保つ軸になっている気がします。外界の影響を減らし、何かに没頭することで、他者に左右されない「私らしさ」を回復しているのかもしれません。

中川

「私が私でいるための選択であり、自己表現」だと思います。服やアクセサリー、香りを選ぶのも、密かに足の爪のネイルを楽しむのも、ほかの人に侵されない「私らしさ」を守っている行為なんだなと、今日あらためて実感しました。

田中

私にとっては「ありたい自分でいるための行為」ですね。自己表現と言える部分もあるけど、中川さんのように「私らしさ」を守るというより、自分の理想に近づくための自己実現に近いかも。インスタの投稿にこだわるのも、スキンケアや日記も、自分のためにやっているので。

――こだわりって「楽しんでやっている」イメージが強かったので、「ちょっと苦労したり、大変だったりするこだわりもある」というのは新鮮な発見でした。

中川

私の毎日の服選びもそうかも。面倒だなと思うときもあるけど、やらないと気持ちのいい自分でいられないんですよね。

針谷

あと、こだわりは必ずしもぶれないものではなくて、変化していくものなのかも。誰かの影響で好きになったことや始めたことでも、気がつくと誰に言われるでもなく続けていることってあると思うし。

田中

そう思うと、こだわりって最初は外から入ってきて、それが続くことで自分のものになって、最後はアイデンティティの一部として定着する……といった変遷をたどるものが多いのかも、って感じました。

中川

今日こだわりについて話してみて、あらためて自分がこだわりに支えられている、助けられている部分って大きいんだな、と気付かされました。変化したり手放したりするものも出てくるかもしれないけど、これからも一つひとつのこだわりを、大事に育てていきたいです。

私が私であるために――こだわりの探求はまだまだ続く

今回の座談会を通して、こだわりをひもとくキーワードがたくさん見えてきました。対話を振り返って感じられたのは、こだわりは非効率的だったり、他者から理解されにくかったりするものだということ。だからこそ、ほかの誰でもない、私が私であるという「自分らしさ」のよりどころになり得るのだ……という発見がありました。

 

この座談会で見つかった気付きや新たなモヤモヤを参考にしつつ、本特集ではここから続く記事を通して、さらに「くらしを豊かにするこだわり」について、さまざまな角度から問いを立てて、探求していきたいと思います。

 

▼「こだわり」という言葉から浮かぶイメージについて、 パナソニックブランド公式Xでアンケートを取ってみました!

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photo by 須古 恵

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