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「ぶれ続ける自分」のまま、この世界を旅しよう——
アーティスト・コムアイさんと考える、自分と世界の“つくり”方

Be True to Yourself

「ぶれ続ける自分」のまま、この世界を旅しよう——
アーティスト・コムアイさんと考える、自分と世界の“つくり”方

日々さまざまなものから影響を受け、変わっていく私たち。新たな自分との出会いは楽しいものである一方、どれが「本当の自分」なのかわからなくなるときがあります。そんな私たちが自分の選択に自信を持つためにはどうすればいいのでしょうか?アーティスト・コムアイさんと考えます。

アーティスト
コムアイさん

1992年生まれ、神奈川県出身。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演。2021年9月に「水曜日のカンパネラ」を脱退。現在は音楽活動の他にも、ファッションやアートなど幅広い分野で活動している。

q&d編集部
井村 円香

1995年生まれ、茨城県出身。大学では医工学を専攻し、2020年にパナソニックに入社。車載部品の機構設計を担当し、2023年10月から事業企画に異動。社内複業でDEIの推進にも取り組む。幼少期から音楽に触れ、12歳から始めたコントラバスを今も弾き続けている。どんな環境にも馴染めるタイプ。

目次

「本当の自分」はどこにいる?

「君は一体、どうなりたいの?」——私はこの質問が苦手です。

 

私は好奇心が旺盛で、社交的である一方、感受性が強く、人の言葉を気にしすぎてしまう繊細な一面も持っています。そのため、いろいろなことに興味があるものの、その時々で感情がぶれてしまい、「自分が本当にやりたいこと」を見失ってしまうこともしばしば。また、強い意志を持って始めたことでも、周囲からの評価や言葉が気になってしまい、「やっぱり向いていないのかもしれない」と考えてしまうことも少なくありません。

 

多様性を尊重する風潮が広がり、入手できる情報も増えたことによって、人生の選択肢もどんどん広がっています。しかし、そんな時代の変化の中でも「何を選ぶか」は自分次第であることは変わらず、感受性の強い自分にとっては「何者にもなれない不安」を感じてしまう、苦しい環境だと思います。

 

そんな私が大学に入学して一人暮らしをし始めた頃、テレビに映るある人に目を奪われました。当時、音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」の一員として活動していた、アーティストのコムアイさんです。「この人は私にはない何かを持っている」。そう直感し、コムアイさんのさまざまな活動を追いかけるうちに、気がつけばすっかり魅了されていました。

 

ジャンルや国境を越えて多様な文化と人に携わり、幅広い活動を展開するコムアイさんは、いかにしてさまざまな選択をしてきたのでしょうか。自分の道を進み続けるコムアイさんと対話をすることで、私が自分の欠点だと感じる「感受性の強さ」とうまく付き合いながら、自分の選択に自信を持つためのヒントを探っていきます。

「『自分の親友』としての自分」と語り合ってみる

ドキドキしながらその到着を待つ私の視界にコムアイさんが入ってきた途端、周りの空気が、ぱあっと軽く、明るくなったのを鮮明に覚えています。憧れのその人はとても柔らかい雰囲気をお持ちで、どんな思いもクッションのようにやさしく受け止めてくれそうだと感じた私は、ずっと抱えていた少し重たい悩みを、いきなり打ち明けてみることにしました。

 

「どこに『本当の自分』がいるのかわからなくなってしまい、それがわからない自分のことを嫌になってしまう」。そんな悩みをぶつけると、はっきりとした答えが返ってきました。

コムアイさん(以下、コムアイ)

私も「自分のこの面が好き」「この面は嫌だ」と思いがちなんですが、どれが本当の自分なのかっていうのは答えがないというか、あまり意味のない問いだと思うんです。それって、いずれかの自分を「自分じゃない」と決めつけてしまうことだから。

本当の自分を探すことばかり考えていた私は、はっとさせられました。「本当の自分」を探すことに必死になりすぎて、バラバラな“自分たち”それぞれを、自分として認めてあげられていないということに気づいたのです。では、“すべての自分”を否定せず、認めてあげるにはどうしたらいいのでしょうか。

コムアイ

私は自らに向き合うとき、「『自分の親友』としての自分」を設定するようにしています。というのも、親友に対してはやさしくなれる人が多いと思うんですよね。親友にダメなところがあっても、その一面を「それはあなたらしくないね」と言うことはあっても「それはあなたじゃない」と決めつけることはしないし、変える必要があれば、どう変えていくかを一緒に考えようとするじゃないですか。言葉のナイフを親友に向ける人っていないと思うんです。

 

だけど、なぜかその向き合う対象が自分になった途端、私たちは急に言葉のナイフを取り出してしまう。できないことがあったり、つまずいたりしたときに「親友として自分のことを見てあげる」という意識を持つようにすると、必要以上に自分のことを責めることはなくなると思います。どんな自分も責める必要なんてないんですよ。みんな完璧では面白くないし。

できないことばかりを指摘されて頑張れる人はいません。そもそも「できる」「できない」は、多くの場合、その人の主観的な判断にすぎません。自分が自分の良きパートナーであるためには、自分に愛情を持ち、育てるように接することが大事なのだと気づかせてもらいました。

自分が生きる世界は、自分でつくるからこそ楽しい

自分で自分を認める。それができるようになっても、どうしても気になってしまうのが「他者の声」です。「自己評価」と「他者評価」、どちらも大事だけど、その間でバランスを取ることは意外と難しい。他人からの評価を気にしすぎて、本当はやりたくて始めたことでも、「向いていないかもしれない」と自信を無くしてしまった経験がある人も少なくないと思います。

 

アーティストとして多様な作品を発表し続けているコムアイさんのもとには、さまざまな声が届いていることでしょう。コムアイさんは、そんなさまざまな声にどう対峙してきたのでしょうか。これまでのご経験から、「他者の声」との向き合い方についてアドバイスをいただきました。 

コムアイ

たしかに、アーティストとして活動しているといろんな人の、さまざまな声が聞こえてきます。もちろん、すべての人や意見を尊重したいと思っていますし、多様な声を自分の中に取り入れ、考えを深めるきっかけにすることもあります。

でも、自分を守るためには「耳をふさぐ」という選択をすることも大事だと思うんです。ときには「他者の声」に気づかないふりをしちゃってもいいと思っています。何よりも大事なのは、誰かに自分の輝きとか生命力を奪わせないことです。

「聞く声を選ぶこと」などを通して、「自分が生きる“世界”は、ある程度自分でコントロールできると考えている」というコムアイさん。そう考えるようになったきっかけは旅だと言います。

コムアイ

外国で何ヶ月も過ごしていると、日本でどういう世界で仕事をしていて、どういう感覚で生きていたか、わからなくなってくるんです。もちろん、日本からどれだけ遠く離れた場所だとしても、たしかにそこは同じ「世界」の一部です。でも、そこにいるときの私はまったく別の「生」を生きている。旅に出ると「どんな“世界”で、どんな自分を生きるか」は、ある程度自分で決められるのだと感じるんですよね。

そして、「『自分が生きる世界』は、誰かに与えられるのを待つのではなく、自分でつくっていかなければならないと感じているんです」とコムアイさんは重ねます。「自分が生きる世界を、自分でつくること」の重要性を教えてくれたのは、あるとき見た夢だったそうです。

コムアイ

一度、そこにいる人たち全員が信頼できるし、心を許せる、まさにユートピアと言える場所で生きている夢を見たことがあって。でも、その場所は自分たちでつくったわけではないという感覚があったんです。そのとき、「何か面白みに欠けるな」と思って。そういう場所が理想だということは否定できないのだけれど、いきなり理想の場所に置かれたら、それで幸せになるわけでないのだと、私はその夢を通して学んだんです。

 

たしかに、私たちがいま生きている世界は完璧ではないし、目を背けたくなるようなこともたくさん起こります。だから、この世界がずっとこのままでいいとは思わない。けれど、誰かに「理想の世界」を与えてもらえば幸せになれるのかと言えば、そうではない。この完璧ではない世界を、私たちの力で少しでも良くすることができたとき、私たちは喜びを感じるんじゃないかって思ったんですよね。

これはあくまでも「夢の話」です。現実的には誰かの力によって、突然ユートピアがもたらされることはないでしょう。でも、「誰かがつくった理想の世界ではなく、『自分がつくる完璧ではない世界』でこそ、私たちは幸せを感じられる」という感覚はなんとなくわかる気がしていますし、その感覚はとても大切なもののように感じました。

一人ではなく、誰かと「進むべき道」を見極める

そんなコムアイさんでも、自分一人だと「何を選択すべきか」がわからなくなってしまうこともあるそうです。だからこそ、「パートナー」の存在を大切にしてきたと言います。その重要性を感じたきっかけは、高校3年生の頃、同学年の友人と海外であるプロジェクトを遂行したとき。自分のやる気に波があり、友人の強力な推進力がなければ形にならなかったと感じたことがあったのだそうです。

コムアイ

プロジェクトを誰かと進めるときって、自分とはちょっと違うタイプの人と一緒に組むのが楽しいですよね。それと同じように、人生にもそれぞれの足りない部分を、互いに埋め合えるパートナーの存在が必要だと気づいたんです。 

 

それに、本当に自分のすべてをさらけ出せているパートナーがいると、精神的にもかなり楽ですよね。一緒にいると、自分の良い状態が拡張されるような、より強力になるような感じがする人の存在はすごく大事で、そういう人と一緒にいることで安定する気がします。

人生の節目節目でパートナーの存在に恵まれてきたというコムアイさん。そんなパートナーがいたからこそ、変化を恐れずにさまざまなチャレンジをすることができたのだと言います。

 

とはいえ、何かを始めて「あれ?これは違うな」と思ったとき、それをやめるには勇気が必要です。「自分が始めたのだから、やり切らなければならない」と感じたことがある人も少なくないでしょう。「もうちょっとやればできるようになるのかもしれないけれど、気持ちはあまり前に進まない」「やめたいけど、やめていいのかわからない」……そんな時、コムアイさんはどう考えるのでしょうか。

コムアイ

何か新しい物事に触れたとき、自分がどう反応するかを観察するようにしています。そして、何となく合わないなと思ったら、その理由を考えるようにしていますね。

 

井村さんと同じように、私も順応しやすいタイプなんですよ。いろんな場所に行ったらそこに順応できちゃう。でも、「あまり居心地が良くないな」と感じるときもあるんです。その違和感には気をつけたほうがいいと思います。そして、その違和感の原因を考えてみる。そういった行動を積み重ねることで、だんだんと自分の勘が研ぎ澄まされていくのだと思います。

 

何か新しいチャレンジをしなければ、自分に「合う/合わない」を判断する感性は磨かれないと思うんですよね。だから、気になったらチャレンジして、もし続けられなくなったとしても、これは感性を磨くためのステップだったのだととらえればいいのだと思います。

それでも、「やり切ること」も大事

「でも、たしかに一つのことをやり切ることでしか得られないこともある」とコムアイさんは言います。なぜなら、「今日ここに呼んでもらったことも、私が一つのことをやり切った結果だと思うから」。

コムアイ

水曜日のカンパネラを始めた当初、ライブをやってもまったくお客さんが集まらなかったんです。手応えが感じられずつらいと思ったこともあるし、これが何につながるのかもわかっていませんでした。ライブをやりたいのかすらよくわからなかった。でも、千本ノックのようにとにかくステージに飛び込み続けていたんですよね。そうすると、いつの間にかアーティストとしての自分の「色」ができてきた。「専門性」と言ってもいいかもしれません。それを感じたときに、「もしかして、これって面白いことなのかも」と思ったんです。

 

先が見えているわけではないけれど、とにかく一つのことをやり続けていると、自分のアイデンティティになるほどの専門性が磨かれることがある。「違和感を持ったら勇気を持ってやめる」ことも大事ですが、この「やり切ってみる経験」もとても大事だなと思うんです。

 

そうして磨かれた専門性を持っていると、他の技術や経験と掛け合わせることによって、「できること」の幅が広がる感覚があって。一人の人間が持っている素質ってたくさんあると思うんです。近くにいる人の声も参考にしながら、んな機会を通して、そのどれを磨いていくかを判断することが大事なんじゃないかな。

先の見えないことや、嫌だなと思うことを続けるには、忍耐が要ります。それでも、続けることで、自分の興味だけでは気づけなかった、自分の素質が見えてくるかもしれません。「やってみなければわからない」とよく言われますが、「やり続けなければわからない」こともあるのかもしれません。

コムアイ

5年続けてみるって期間を決めてもいいし、自分だけでやるのが難しければ、続ける力がある人と一緒にやってみるのもいいかもしれない。続けられるかどうかはタイミングによるだろうし、たとえば、「それをやらなきゃどうしようもない」と思うタイミングで始めてみると、どんなことでも意外と長続きするかもしれません。もちろん心身には負荷がかかるし、しんどいことも少なくないと思います。でも、ストレスやしんどさは、毒になるだけではないから。

変わりゆく自分を認め、楽しんでみる

「自分が発する言葉や考え方が、変わっていくことが面白い」。そう笑顔で語るコムアイさんのお話はどれも、私にとってはとても新鮮なものでした。変化を楽しめるようになれば、感受性の強さはポジティブなものになるのだと、コムアイさんとの対話を通して気づくことができました。

 

コムアイさんは、自分を変化させるために最も有効な手段は旅だと言います。しかし、なかなか長旅に出ることが難しい人もいるでしょう。私もその一人です。「自分の世界」をこり固まらせず、どんどんアップデートしていくために、私たちには何ができるのでしょうか。日常の中で実践できる“旅”を教えてもらいました。

コムアイ

私は明治神宮の森が好きで、よく歩きに行きます。自然の中にいると、気づいたら動物や植物の視点に立って、世界がどんな風に見えているのかを考えていることってありませんか?それって人間の持つとても豊かな感性だと思うんですよね。そういった感性を発動させることそのものが、「異なる世界」とつながる“旅”になると思っています。

 

自分の今、目の前にあるトピックから距離を取ってみると、長いと思っていた自分の人生も、いろんな生命がワーって生きてきた中の、ほんの一部に過ぎないと気づく。そうしたら、自分が楽しいように生きないともったいないなって思います。

できないことはできなくていい。ダメなところはダメでいい。まずは、どんな自分も自分として認めてあげる。そして、今を生きる自分が思うこと、感じることに素直になる。それが変わっていってもいい。

 

これからの自分が生きる世界には、何が必要なのだろう。どんなものがあると楽しいのだろう。まずは今、この記事を書いている自分と向き合って、話をしてみたいと思います。

皆さんは、自分の中の「ぶれ」とどのように向き合っていますか?ぜひ、記事の感想と共に、「#ヘルシーな自己愛」をつけてツイートしてみてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、アーティストのコムアイさんとお話ししたときのことを振り返りながら、日々変わっていく自分に向き合い、その選択に自信をもつ方法について、改めて考えました。

photo by 川島 彩水

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