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誰かの役に立っていないと安心できない?
自分を抑えがちな私のための「本当の自分」の見つけ方

Be True to Yourself

誰かの役に立っていないと安心できない?
自分を抑えがちな私のための「本当の自分」の見つけ方

その場ごとに求められそうな役割やキャラを引き受けながら、周りとうまく折り合いをつけてきた。けれども、相手に合わせることに慣れすぎて、自分の本心がよく分からなくなってしまった……そんなモヤモヤと向き合って「本当の自分」を見つけるために『ザ・メンタルモデル』の著者である由佐美加子さんにお話を伺いました。

合同会社CCC代表
由佐 美加子(ゆさ みかこ)

野村総合研究所、リクルートで勤務した後、グローバル企業の人事部マネジャーを経て、2014年に合同会社CCCを設立。個人や組織の覚醒と進化をさまざまな形で支援している。著書に『ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー』(内外出版社、2019年。天外伺朗氏との共著)、『お金の不安と恐れから自由になる! - 人生が100%変わるパラダイムシフト-』(ワニブックス、2022年)など。

q&d編集部
桒野 勇太(くわの ゆうた)

神奈川県出身。1998年生まれ、いわゆるZ世代。創価大学とThe University of Buckinghamの2大学を卒業。2020年にパナソニックへ入社し、工場経理として勤務。入社前から希望していた「“ものをつくる前に人をつくる”人事」を目指して、職種転換を希望。2023年1月からグループ全体の組織・人材開発分野に従事。趣味は友人との長電話とうどん屋巡り。

目次

「誰かのため、皆のため」と振る舞い続けて、“本当の自分”が迷子に

今年で25歳になり、社会人生活も4年目を迎えた今、僕はあらためて「本当の自分って何だろう?」という漠然とした問いと向き合うべきなのかもしれない……と感じています。

 

これまでの人生を振り返ってみると、学校や会社など、さまざまなコミュニティごとに必要とされそうな役割を見つけ、自分を合わせていっていました。そこにいる皆がうまくやっていけるよう、歯車がかみ合うように調整していく「潤滑油」的な役割を担うことが、自分の性格にも合っているし、心地よい生き方だと思ってきました。

 

けれども最近ふと「周りに合わせてばかりいて、自身の純粋な願望や主張が、自分でもよく分からなくなっているのでは?」という、漠然とした不安を覚えることが増えてきました。日常で不便を感じることはないけれど、「あなたが本当にやりたいことは?」と問われるとちょっと口ごもってしまうような、そんな小さなモヤモヤをずいぶん長く抱えてきた気がします。

 

「相手に求められるキャラに自分を近づける」

「人と人との間を取り持つ、潤滑油のような存在でいる」

「そういう立場を引き受け続けてきた結果、“本当の自分”がよく分からない」

 

こうした不安、モヤモヤとどのように向き合っていけばよいのか。どういう糸口から“本当の自分”を見つけていけばよいのか――そんな問いと向き合うべく、『ザ・メンタルモデル』の著者であり、主催する講座やワークショップを通して多くの人たちに「自分の内面との向き合い方」のレクチャーをしてきた由佐美加子さんにお話を聞きました。取材というよりも、コーチングを受けているような温かな場となった対話の様子を、柔らかで可愛らしいマンガと共にお届けします。

安全になった社会、だからこそ生存本能が「不安」を生み出す?

上が由佐さん、下が桒野さん。取材はオンラインで実施しました
桒野 勇太(以下、桒野)

由佐さん、今日はよろしくお願いします!

由佐 美加子さん(以下、由佐)

はい、よろしくお願いします。今日は親しみを込めて「くわちゃん」と呼ばせてもらいますね。

桒野

僕は今まで、周りのニーズをうまく汲み取って、その場その場で必要とされそうな役割を引き受けるような振る舞いをすることで、うまく生きてこられた気がしています。

 

ただ、最近ふと「今の自分は、本当の自分と言えるんだろうか?」「ありのままの自分って何だろう?」という、漠然とした不安に襲われることが度々あって。こうした不安とどう向き合っていけばよいか、ぜひ由佐さんと対話しながら考えていきたいと思っています。

由佐

私もこれまでいろんな人の心の内面と向き合ってきたけれど、くわちゃんと同じように「周りに合わせすぎて、自分の本音や本心がよく分からなくなっている人」は、今とても多いように感じています。

 

でも、それは別にダメなことではなくて。現代社会で生きていくための生存本能が正常に働いているからこそ、そうなりがちだとも言えるんです。

取材の内容を元に作成したマンガです。本文のメッセージをなぞりながらお楽しみください
桒野

生存本能、ですか?

由佐

人間には本能的に、今いる環境下でなるべく危険がないよう、怖い思いをしないように、自分にとって安心・安全な状態を確保しようとする機能があって。この生存本能の働き方が、昔と今では少し変わってきているんです。

 

昔はそれこそ、自然や外敵からの脅威を跳ね除けたり、明日生きるための食料を手に入れたりするので精一杯だった。そこから人間は少しずつ生存しやすい環境を整えてきて、いま日本にいる私たちの多くは、物理的な安全が確保された社会でらせていますよね。

 

そうなると、次に生存本能はどういうところに働くと思う?

桒野

身の安全が確保できているから……心の平穏とか、でしょうか。

由佐

そうそう。社会が豊かになって安全になったからこそ、今は多くの人が身の危険よりも「精神的に安心できるかどうか」に関心を持つようになった。この変化は人類の歴史から見ればとてもポジティブなものなんだけれど、一方で多くの人たちの根幹に、とある意識を植え付けてしまったの。

桒野

それはどんな……?

由佐

「“ただ生きている、ただいる”だけではダメだ」って意識です。程度の差はあるけれど、現代人の大半は持っているんじゃないかな。「ここにいてもいい」って思いたくて、周りの役に立って必要とされる自分であろうとする。くわちゃんもそうじゃない?

桒野

まさにその通りです。

由佐

もちろん、人の役に立とうとするのは素敵な考えです。ただ「周りに必要とされること」が、「自分が安心していられる条件」と強く結びついていると、ちょっとしんどさが出てくる。

 

それって裏を返せば「周りに必要とされない自分には価値がない、ありのままの自分はここにいてはいけない」と思っているのと同じなんですよね。もう少し言い方を変えると、「自分の存在価値を、他者の評価に委ねてしまっている」とも表現できる。生きる上で、あまりすこやかとは言えない状態じゃないかな。

桒野

たしかにそうですね……。誰かと一緒にいるとき、相手の役に立っている実感がないと不安になることは、今までも結構ありました。

由佐

役に立って相手に喜んでもらえると、ホッとするよね。けれども、相手の評価に依存してしまっていたら、そこで得られるのは束の間の安心だけなんです。自分の内側から湧き上がってくる「本当にここにいていいのか?」という不安感は拭えない。それを払拭するためには、「価値がないとダメだ」と思い込んでいる自分の内面と、じっくり向き合っていく必要があるんです。

社会を生き抜くための知恵が、時に自分らしさを縛ることも

桒野

由佐さんのお話を聞きながら、自分の不安の正体が少しずつクリアになってきた気がしています。先ほど「“いる”だけではダメだ」と思っている現代人は多いとおっしゃっていましたが、それはなぜなのでしょうか?

由佐

いろんな要因があるけれど、ざっくりと要点をまとめて言ってしまうと「社会にそういう価値観を刷り込まれてきたから」だと、私は思っています。

 

生まれた瞬間の私たちって、周りの人たちから存在自体をピュアに肯定されていることがほとんどだったはず。でも、成長するにつれて、今の世の中では否応がなしに「他者との比較による評価」が待ち受けている。たとえば学校では、成績や偏差値で自分に価値がついたり、その優劣で存在が脅かされたりしますよね。

桒野

たしかに学校の成績って、自分の「価値」を明確に意識させられる体験だったかもしれません。大学受験から就活にかけても、ずっと他者と比較され、他者に評価されることの連続だったなと。

由佐

もっと言うと「他者との比較による評価」は、家庭内から始まっていることも多いんです。話していて思ったんだけど、くわちゃん、家の中でも家族みんなのバランスを取るようなポジションを取ってたりしない? 兄弟が多かったりして。

桒野

ちょっとビックリしました、その通りです! 3人兄妹の真ん中で、家族の中ではムードメーカーです。両親は僕らのことを分け隔てなく気にかけてくれていたし、多分これは僕の考えすぎなのですが……兄や妹と比べたときに、家族の中での自分の役割が薄いような意識はあって。「自分はどうしたらいいだろう?」と考えてバランスを取るようになった節は、たしかにある気がします。

由佐

「家族」って小さい単位だけど、人が最初に向き合う社会なんだよね。だからこそ、その関係の中で生きていくために、いろんな不安が生まれるのは当然のこと。とくに兄弟姉妹の真ん中の人は、構造上くわちゃんみたいな悩みを持ちやすいの。

 

兄妹がいる中、どうしたら自分が安心できる居場所を確保できるか。いろいろと試行錯誤した結果、皆の関係を取り持つ「潤滑油」的な振る舞いのスキルを獲得したと。そこでの成功体験を、外のもっと大きなコミュニティでも繰り返してきたのかもしれない。

桒野

なるほど、これまでのいろんな行動の理由が腹に落ちていく心地がしています……!

由佐

つまり、「周りに合わせて、必要な役割を引き受ける」というスタイルは、くわちゃんが「必要に応じて身につけた生き方」であって、「本当に望んで選んだ生き方」ではないと言えるんです。

 

もちろん、そういう生き方がダメだったわけでは全然なくて。そこで培えた能力もあるし、得られた絆もあるから。でも、だからといって「僕は潤滑油になるべくしてなったんだ、そうあることが唯一の正解で幸せなんだ」というわけでもない。生存するためにそうなっちゃっただけ、って認識を持てるといいと思います。

モヤモヤは「アップデート」のシグナル。変化のきっかけは、必ず向こうからやってくる

由佐

それで、くわちゃんは最近「本当の自分って何だろう?」ってモヤモヤし始めているのよね。

桒野

はい、そんなことをふと考える機会が増えてきました。

由佐

それはきっと、本心があなたに「変わりどき」のシグナルを出しているんじゃないかな。ここらで自分のOSにアップデートをかけておくといいですよって。

 

たとえば、現実でちょっとした問題が起きても、少しやり方を変えて解決することであれば、そこまでモヤモヤしないでしょう。現状何か大きな問題にぶち当たっているわけでもないのに「自分はこのままでいいのか?」って思い始めているってことは、心が本望と現実のズレを捉えて「変化が必要だ」って知らせてくれているのかもしれない。

桒野

だとすると、僕はこれから、周りに合わせて調整役ばかり担っていた自分をどんなふうに変えていったらいいんでしょうか? 「本当の自分」に近づくために、何か意識したり行動したりするべきことってありますか?

由佐

大丈夫。焦って何かをする必要はないです。「何もしなくていいのか」って逆に不安になるかもしれないけど、無理やり変えようとして変わるものではないから、自分って。

 

多分遅かれ早かれ、今までのくわちゃんのままではうまくいかないことが増えてくると思う(笑)。それは小手先の変化では立ち行かないものだけれど、だからこそ、それを乗り越えようとする過程であなたは自然と「違う自分」に出会えるはずです。

桒野

違う自分、ですか。

由佐

さっき「変わりどき」とは言ったけど、全人格がまるっと変わるわけではなくて。やさしくて調和的で、人に合わせるのが上手な側面は、確かなくわちゃんらしさの一部ではある。

 

けれども、あなたの“らしさ”って、それだけじゃなくて。その裏側ではもっと情熱的で頑固で、自分のやりたいことをぶっちぎるようなくわちゃんが「そろそろ出してくれ!」って叫んでいるのかもしれない。

 

そういう「違う自分」を解放するタイミングが近づいてきているからこそ、今あなたはモヤモヤしているんだと思う。「今の自分のままじゃダメだ、ここは調和じゃなくて譲れない何かがある」って着火ポイントがね。

桒野

譲れない何か……現状だとちょっと想像がつかないな……。

由佐

ひとりの人間の中には、相反するようなものも含めて、いろんな“らしさ”があるものです。明るい面もあれば、暗い面もある。むしろ、両方あって当然だし、「そのすべてが本当の自分だ」ということは、忘れないでいて。これまでとは全然違う自分の声が内側から聞こえてきても、否定しないで大切にしてあげてね。

Don't think, feel――素直な体の声を聴け

桒野

先ほど「違う自分の声が聞こえてくるはず」との話がありましたが、そういった「心の本音」を聞き漏らさないようにするためには、どうしたらいいでしょうか? 今まで「違う自分の声」に注意を払ったことがなかったので、そこに耳を澄ますためのコツなどがあったら、ぜひ知りたいです。

由佐

大事にしてほしいのは「自分がどう感じているのか」を把握しようとすること、かな。「感じていること」を正確につかむのって、意外と難しいの。人間って、すぐに「考える」が働いちゃうから。

桒野

「感じる」と「考える」……うまく区別が付けられていないかもしれません。

由佐

たとえば、くわちゃんが誰かから「ちょっとイヤだな、面倒だな」と思うことを頼まれたとする。その「イヤだな、面倒だな」っていう最初の感覚が、まさに「感じる」ことだね。

 

でも、きっとくわちゃんは瞬時に「拒否するほどイヤじゃないな」「相手が喜ぶならやったほうが調和が取れるな」「それは自分にとっても喜ばしいことだ」って算段をして、引き受けたりする。これが「考える」のほうです。

 

つまり、体で「感じる」は常に「考える」のにあるもの。なんだけど、「考えグセ」がつきすぎていると、さっきのケースだと「僕は『相手が自分を頼ってくれて嬉しい』と感じている」と錯覚しちゃったりするの。

桒野

今のたとえ話、すごく心当たりがあります……。だからこそ「考えるよりも先に、まず何を感じたのか?」ってところに意識を持っていくのが大事だと。

由佐

そうそう。本当の自分の声は「考える」じゃなくて、「感じる」のほうにひもづいているものだからね。

桒野

「感じていること」を上手につかむために、何か日常のくらしで実践できることって、あったりしますか?

由佐

日々の何気ないシーンでモヤっとしたり、心の揺れを察知したりしたときに、体のどこでもいいから手を当ててみて。服の上からでもOKです。触れることで自分の肉体に意識が向くと、不思議と「感じる」のほうに心のピントが合いやすくなると思うよ。

桒野

なるほど。ネガティブな感情になると体がこわばったりするから、触るとそういう変化を感じやすくなるのかもしれないですね。

由佐

あとは、呼吸に意識を向けるのもオススメです。考えること、すなわち頭に意識が集中しているときって、呼吸が浅くなりがちなの。お腹が動いているのが自分でも分かるくらいの深呼吸を何度かしてみると、ふっと心が落ち着いて、「考える」と「感じる」を切り分けやすくなるはずだから。

桒野

由佐さんにお話を聞けて、不安の種だった自分へのモヤモヤが、新しい自分につながっていく期待に変わっていきそうです。本当にありがとうございました!

世界の見方が変わったら、モヤモヤがワクワクになった

今まで「自分らしさ」だと思っていたものが、実はサバイバルのために身につけたスキルだったこと。心の奥底に「自分には価値がないから、相手の役に立っていないとダメだ」という恐れがあったこと――それらに気づけたことで、「本当の自分」は余計に分からなくなりましたが(笑)、視界がパッと開けたような気持ちになっています。

 

取材の中で由佐さんは「変わりどきは現実が教えてくれる」と話してくれたのですが、そういう前提で身の周りで起きている出来事と向き合ってみると「あ、これはきっとお知らせだな」と感じられる瞬間がどんどん見つかるようになりました。そんなふうに“見える世界、感じ取れる世界”が変わり始めたことが、今回の対話で得られた大きな財産だなと感じています。

 

必要な変化の機会はすでに向こうからやってきていて、うまくいかなくてむしゃくしゃすることも順調に増えています。どう変わっていくのか、自分でも想像がつきませんが、「イヤだな」と感じることも一つひとつ素直に大事に受け止めながら、これから見えてくる別の自分を、温かく迎え入れていきたいなと思います。

 

皆さんは、自分の心の中にどんな「別の自分」が隠れていると思いますか? ぜひ、記事の感想と共に「#ヘルシーな自己愛」をつけてツイートしてみてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、『ザ・メンタルモデル』の著者、由佐美加子さんを訪ねたときのことを振り返りながら、相手に合わせることに慣れすぎた自分の、本心の見つけ方を改めて考えました。

Illustrarion by 清家正悟

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