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インド発!「できない自分」との向き合い方
——いつの間にかたどり着いたその場所で、自分を好きでい続けるために

Be True to Yourself

インド発!「できない自分」との向き合い方
——いつの間にかたどり着いたその場所で、自分を好きでい続けるために

仕事で失敗したとき、自分で立てた目標を達成できなかったとき、「私はなんてダメなんだろう」と自分を責めてしまう人は少なくないと思います。私たちは「できない自分」といかに向き合い、そんな自分をどのように受け入れるべきなのでしょうか。日本とインドにルーツを持つ、元プロサッカー選手の和泉新さんと考えます。

Reliance Foundation Young Champs U19監督
和泉 新さん

1982年生まれ、山口県出身。インド人の父と日本人の母との間に生まれ、幼少期からサッカーにのめり込む。高校を休学した後、プロを志し新潟へ。アルビレックス新潟シンガポールから、2006年にインドのイースト・ベンガルへ移籍。その後、マヒンドラ・ユナイテッドFCを経て、プネーFCなどに在籍した。 2012年にインド国籍を取得し、2013年にはサッカーインド代表に選出された。現在、Reliance Foundation Young Champs U19監督を務める。

q&d編集部
大寺 初奈

東京都出身。東京外国語大学在学中に、憧れの海外学生生活を送るため、オーストラリアに留学。留学先で再エネに興味を持ち、パナソニックに入社。太陽光パネルの営業企画を経て、現在はインドに駐在し、マーケティング担当を務める。Be True to Yourselfはライフテーマ。幼いころから弾いているバイオリンが、やっと趣味と言えるくらい、時間を忘れて弾いて大好きになったのが最近のアップデート。

目次

インドの人々は「常に自分の味方」をする?

私は毎年プライベートでも仕事においても目標を立て、その達成に向けて走り続けることが好きです。チャレンジしているときの失敗は「しょうがない」と前を向ける一方、日常の何気ないタイミングで自分が「できる」と思っていた事ができなかった際は、必要以上に自分を責め、卑下してしまっていることがあります。「自信喪失につながるような反省ならばしない方がいいのではないか」と思いながらも、自分を追い込みすぎてしまうことがあるのです。

 

そんな私に、インドへの赴任という転機が訪れたのは昨年のこと。文化や価値観など、さまざまな違いの存在に驚かされる日々を送る中で、特に興味を持ったのはインドの人々の、「常に自分の味方でいる」精神です。

 

インド人の同僚たちは、仕事の中で自分が苦しい状況に置かれたとしても、「自分の味方」となり続ける、言い換えると「自己防衛をしっかりする」スタンスを持っていると感じています。いかなる状況に置かれたとしても、自らの能力や「正しさ」を信じるスタンスは、自分を追い込みすぎずに生きる上では不可欠だと感じ、見習いたいと思うようになりました。   

私たちはどうすれば「できない自分」も受け入れられるのでしょうか。インドと日本にルーツを持ち、かつてサッカー選手としてインド代表に選ばれた経験を持つ、和泉新さんと考えます。お話は、お互いがインドで経験した「This is India」な出来事から始まり、コンプレックスとの向き合い方へと展開していきました。

「決して自分のせいにしない」というカルチャーショック

大寺 初奈 (以下、大寺)

ご無沙汰しております! 今日は私や新さんがインドで経験したことも踏まえながら「自分に味方し続けるためのマインド」と「コンプレックスとの向き合い方」について、考えてみたいと思っています。

和泉 新さん(以下、和泉)

面白いですね。僕も昔はコンプレックスに悩まされましたよ。大寺さんはどんなコンプレックスがあるんですか?

大寺

克服しつつはあるのですが、以前はいわゆる「地頭」が良くないことがコンプレックスだったんですよね。普段はあまり意識していなかったのですが、仕事をする中で自分が理想とする立ち振る舞いができなかったとき、よく「ダサいな」と自分を責めてしまっていました。

 

でも、インドに転勤してインド人たちと仕事するようになってから考えが変わってきたんです。たとえば、インドの方々って何か頼まれたら必ず「ノープロブレム!」「2 minutes(=すぐやるよ)! 」って言うじゃないですか。

和泉

たしかに、インドの人たちはどんな依頼でも「ノープロブレム」って言うよね。

大寺

それ自体は特に驚きはしないんですけど、「ノープロブレム」と言って請け負った依頼を終えられていなかったとしても、本人たちはまるで気にしていなそうで。

和泉

全員がそうだとは言いませんが、経験上、そういう方は多い気がしますね。実際、最近も似たようなことがありました。日本で開催されるサッカーの大会に参加するための準備を同僚のインド人に任せたのですが、「やってるよ!」と言うから安心していたら、本当にぎりぎりになって何もやっていないことがわかって。その後、僕も手伝ってなんとか大会には参加できましたが、危なかったですよ(笑)。

大寺

私はどうしても「期限内に終わらせなきゃ!」と思ってしまいますし、間に合わなかったら落ち込んでしまうのですが、インドの方々はそうではない。一つのタスクを完了させることに躍起にならず、肩の力を抜きながら働くそのスタンスに、皮肉ではなく感動を覚えたんですよね。

自らを変えるために、「一歩踏み出す」勇気を振り絞る

大寺

新さんも「昔はコンプレックスに悩まされた」とのことですが、どのようなコンプレックスを抱えていたのでしょうか?

和泉

僕はインド人の父と日本人の母の間に生まれ、小さい時は山口県で暮らしていたのですが、周りの子たちと見た目が違うことに強いコンプレックスを感じていました。バスに乗っていると、けっこうきつい言葉が聞こえてくることもあって、だんだんと引っ込み思案になっていったんです。

大寺

今の新さんからは想像もつかないですね……。

和泉

転機は高校を休学し、サッカーの専門学校であるJAPANサッカーカレッジに入学したことですね。引っ込み思案でシャイな自分を変えたいと思って、あえてかなり明るい校風の学校を選び、そこで出会った人には自分から積極的に「よう!」と声を掛けるようにしたんです。そうすると、自然に周囲に溶け込めるようになりましたし、いつの間にかコンプレックスに感じていた「周囲との差」も全く気にならなくなった。

大寺

新さんの場合は環境を変えることによって、自らを変えたわけですね。

和泉

環境を変えることもそうですが、何よりも大事なのは「一歩踏み出すこと」だと思います。僕がこれまでの経験を通して感じているのは、周囲との違いを「個性」ととらえ、その個性を輝かせられる場所を選ぶことの大切さです。どう頑張っても自分の個性がマイナスにしか働かない場所には、居続けるべきではないと思います。

 

たとえば、運動能力が著しく劣っている人がいたとしましょう。繰り返しにはなりますが、それはあくまでも他者との「違い」であり、「個性」です。しかし、仮にその人が「プロサッカー選手になる」という夢を持っていた場合、その夢を追う上では“マイナス”になり得ます。

 

小さいころに抱いた夢を実現させるために、学生時代はサッカーに明け暮れたものの、部活で試合に出ることすら叶わなかった。この人がその後、プロサッカー選手になれるかと言えば、現実的にはかなり厳しいと言わざるを得ません。

 

いくつになっても夢を実現させるために努力すること自体は大事なことです。しかし、自らの個性がマイナスにしか働かない環境で、いつまでも夢にしがみついていては自分の時間を無駄にすることになりかねません。

「できない自分」を受け入れることで、新たな道がひらかれる

大寺

自分が活躍できるフィールドを選ばなければならない?

和泉

そういうことです。「元々追いかけていた夢を諦める」ということは、「負け」ではないと僕は思っています。むしろ賢い選択です。最終的に自分の輝ける場所にたどり着ければいいんですから。もちろん、「初めから身の丈に合わない夢を追いかけるべきではない」と言いたいのではありません。

 

僕自身、小さなころからJリーガーになりたいと思ってサッカーを頑張っていましたが、高校生のときその夢を諦めたんですよね。でもその後、ある人の言葉がきっかけで海外でプロになる道を模索し始めました。その結果、シンガポールやインドでプロサッカー選手としてプレーすることができ、インド代表にも選んでもらいました。

 

Jリーガーになることはできなかったけれど、日本に残って「Jリーガーになるための努力」を続けていたら海外で素晴らしい仲間たちにも出会えなかったしたくさんの貴重な経験もできなかったでしょう。たどり着いたのは目指していた場所ではなかったけれど、当時「できない自分」を受け入れ、新たな道を模索したことで自分が輝ける場所を見つけられたのだと思っています。

大寺

私自身、「人生の全てはご縁だ」と考えているので、すごく共感します。一生懸命に努力をした結果、導かれた道で会うべき人に会って、人生が豊かになる。常に私はここに来るべくして来たのだと考えています。

和泉

「目標を達成すること」だけを良しとしていたら、「目標が達成できなそうな自分」に気付いたとき、それを受け入れられなくなってしまうと思うんですよ。大事なことは、「目標に向かって努力している自分」を好きになること。それができれば、最終的にたどり着いた場所がどこであれ、自分を受け入れることができると思います。

大寺

昔からそんな風に考えていたのですか?

和泉

いや、「これでよかったのだ」と、自分を受け入れられるようになったのは最近のことですよ。そう思えるようになったのは、インドという環境の影響が大きいかもしれませんね。ここに来たからこそたくさんの素晴らしい体験ができましたし、いつだって「ノープロブレム!」なインド人たちに感化された部分もある気がしますね。

とはいえ、「一歩踏み出す勇気」を持つのは難しい?

大寺

でも、何かの目標に向かって本気で取り組んでいるときって、その道が自分に合っているのかどうか判断しづらいと思うんですよね。「この道じゃないな」と感じたとしても、それを受け入れるのは難しい気がして。

和泉

そういうときは、周囲の人の意見を参考にするといいと思います。特に子どもの場合、周りの大人が「こっちではなく、あっちの道もいいのでは?」と気付かせてあげることも重要です。

大寺

「できない自分」を受け入れるために、周囲の声の影響は大きいと思っています。私が「自分のここが嫌だな」と思っている部分に対して、「いやいや、そこはあなたのいいところだよ」と言ってくれる他者の存在が、コンプレックスをやわらげてくれたこともありました。

 

私は周囲の方々に恵まれましたが、すべての人が身の回りに自らの「できなさ」も含めて受け入れてくれる人がいるわけではないと思っています。そのような人に出会うためにはどうしたらいいと思いますか?

和泉

受動的になっていてはいけないと思います。出会いを待つのではなく、自ら積極的に行動しなければならない。では、どう行動すればいいかというと、身の回りの人に「自分の嫌いなところ」を開示してみるとよいのではないでしょうか。

 

誰かがコンプレックスに気付いてくれることなんて、ほとんどないと思うんです。だから、「こういうところがコンプレックスなんだよね」と思い切って口に出してみることが大事なのではないかと。

 

このことをパートナーに話したら「それって新だからできることなんじゃないの?」と言われて、「たしかに」と思ってしまいました(笑)。でも、何かを変えるための最初の一歩は、やはり「勇気を出してみること」なのだと僕は信じています。簡単ではないし、一歩踏み出すにはかなり勇気が必要だけれど、やはり僕としては「勇気を出して欲しい」と答えるしかないんですよね。

大寺

「受け入れられなかったらどうしよう」と、失敗を想像して尻込みしてしまう人もいるのではないかと想像するのですが。

和泉

絶対に失敗はするんです。10人の人に自己開示して、10人に受け入れてもらえることなんてないと思います。「9人がNoでも、1人にYesと言ってもらえたらそれでいい」。そう考えて、一歩踏み出すしかないと思います。

大寺

自分のことを思い返すと、環境が変わることが多かったので、その分たくさんの人と出会う機会があったんです。出会いの絶対数が多かったから「受け入れてくれそう」と思える人に出会いやすかったのかもしれない。そう思うと、コンプレックスを受け入れる上ではラッキーなパターンなのかもしれないですね。

和泉

でも、誰かにコンプレックスを含めて自己開示をしたとして、「いや、大寺さんはそのままでいいと思うよ」と言ってもらったとしても、その言葉をそのまま受け入れるのって簡単ではないと思うんです。きっと「受け入れてもらった自分」を信じるためにも、あるいは「そのままでいい」と思うためにも、勇気が大事なのだと思っています。

大寺

たしかに、そうかもしれないですね。今日は私がインドで経験したカルチャーショックからお話を始めさせてもらいましたが、最終的に「自分を受け入れること」の神髄をお聞きできたような気がしています。本日は本当にありがとうございました!

一人ひとりが、自らの人生の主人公になるために

大変僭越ながら「私も新さんとすごく似た考えを持っていた」と、喜ばしく感じた取材でした。特に自分のコンプレックスを受け入れ、自分を好きでいられるフィールドを探す大切さと、努力を続けていれば最初に意図した形とは異なったとしても、人生を楽しめるというお話には大きな共感を覚えます。

 

「インド人の『自分に味方をするマインド』はどこから来るのか」という問いからスタートした本企画でしたが、「なりたい自分」を貪欲に追求することと、「自分を受け入れ、一歩踏み出す勇気」の大切さを教えていただくことになりました。

 

私のコンプレックスが生まれたのは、おそらく学生時代です。しかしその後、多様なバックグラウンドを持つ友人たちに恵まれ、さまざまな価値観に触れたことで次第にコンプレックスは薄れていきました。

 

学生の間は、学校という決して広いとは言えない世界の中で生きることになるので、視野が狭くなってしまうこともあるでしょう。能力や容姿など、さまざまなコンプレックスを抱いた経験がある一人として、この記事がみなさんに新たな視点を提供し、いざというときの心のよりどころになってくれればいいなと思っています。

 

一人でも多くの人が、主人公として自らの人生を楽しんでくれることを願います。

 「自分の味方」でいるために、みなさんが心がけていることはありますか? 記事の感想とともに、ぜひ「#ヘルシーな自己愛」をつけてシェアしてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、日本とインドにルーツを持つ元プロサッカー選手、和泉新さんを訪ねたときのことを振り返りながら、「できない自分」を受け入れ、常に自分の見方であり続ける方法を、改めて考えました。

photo by Vishal

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