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「ありのままが美しい」時代が終わり、「美しい自分をつくる」時代が始まった?
——美容整形文化から考える、私たちの「外見」のいま

Be True to Yourself

「ありのままが美しい」時代が終わり、「美しい自分をつくる」時代が始まった?
——美容整形文化から考える、私たちの「外見」のいま

ここ数年間で「ボディポジティブ」「ルッキズム批判」など、「ありのまま」の美しさを賛美する声が大きくなっているように感じます。一方で、画像共有SNSなど外見が際立ちやすいツールの台頭もあり、「外見の良し悪しで人は判断され、外見が良ければ得をする社会だ」と感じさせられることも少なくありません。いま、私たちは自らの「外見」といかに向き合うべきなのでしょうか。美容整形などを通した文化研究に取り組む、谷本奈穂さんと考えます。

関西大学総合情報学部教授
谷本 奈穂さん

大阪大学人間科学部卒業、同大学院修了、博士(人間科学)。

主な単著に『恋愛の社会学』(2008年、青弓社)『美容整形と化粧の社会学』(2008年、新曜社)『美容整形というコミュニケーション』(2018年、花伝社)編著に『博覧の世紀』(福間良明・難波功士と共編)(2009年、梓出版社)『メディア文化を社会学する』(高井昌吏と共編)(2009年、世界思想社)『身体化するメディア/メディア化する身体』(西山哲郎と共編)(2018年、風塵社)がある。

minato
q&d編集部
湊 麻理子

兵庫県出身。一橋大学卒業後、パナソニックに入社。UK駐在、4泊5日で4カ国を回ってテレビを売り込むなどといった海外営業職を経て、2017年から未来創造研究所所属。デジタル、デザイン、コミュニケーションの交点をうろうろしてコミュニケーションの未来をつくることが仕事。疲れてくると息子を吸いがち。趣味は観劇。

目次

私たちは自らの「外見」とどう向き合うべきか

みなさんは自分の「外見」に対して、どんな感情を持っているでしょうか? 「大好き」「気に入っている」という人もいれば、「あまり好きではない」「できることなら、変えたてしまいたい」という人も少なくないでしょう。

 

「Be True to Yourself 欠点を含めた自分を受け入れたい」という特集を組むことになったとき、「自分の外見にどう向き合うか」というテーマから目を背けてはならないと思いました。

 

そういった考えから、「(外見に関する)欠点を含めて自分と向き合う」とはどういうことかについて、周りにいる若いメンバーたちと話してみたところ、私たちの世代との違いに気がつきました。それは、「『ありのまま』ではなくてもいい」という価値観を持つ人が多いこと、言い換えれば「美容整形などの手段を使って、自らの外見を変化させること」へのハードルの低さでした。

 

「整形を公表している芸能人やインフルエンサーには前向きさを感じる」「自らの好みに合わせて外見を加工すればよい」「盛れるアプリ教えましょうか?」などの声が聞かれました。話を聞いた若いメンバーたちと、私が同じ年齢だったころ、そのような意見を持つ人は少なかったのではないかと思うのです。

 

ありのままの外見を受け入れるにしても、化粧や整形、テクノロジーを駆使してアップデートするにしても、どうすれば自らの「外見」と心地よく付き合うことができるのでしょうか。美容整形などを通した文化研究を行う谷本さんを訪ね、自らの「外見」との向き合い方について聞きました。

「ありのままが美しい」は、もう古い?

湊 麻理子(以下、湊)

私は1985年生まれなのですが、「外見はありのままでなければならない」というメッセージを受けて来たように感じています。美容整形などによって、自身の外見を変えてしまうことをタブー視するような空気があったのではないかと。ただ、若い世代の方々のSNSでの発信など見ていると、「外見を変えること」に対する抵抗感がなくなってきているように感じるんですよね。

谷本 奈穂さん(以下、谷本)

外見はありのままでなければならない」という考え方は、かなり昔から日本に根付いています。私が美容整形に関する聞き取り調査を始めたのは、20年くらい前なのですが、インタビューに答えてくれる方を探すだけでも一苦労でした。実際に施術を受けた人が少なかったことも理由の一つですが、やはり「ありのままの姿を変えた」ことへの引け目を感じている方が多かったのでしょうね。

 

しかし、特にいまの若い層では「外見を変える」ことへの抵抗がほとんどない人も多いように感じます。実際に整形をしている学生は多いですし、「私、来週整形するんですよ」とどこかに遊びに行くようなテンションで報告してくれる子もいるくらいです。

かなり身近な行為になっているわけですね。

谷本

さらに興味深いのは、整形を受ける理由です。2013年から2019年にかけて私が実施した調査では、「美容整形を希望する理由」であれ「実際に行った理由」であれ、「自己満足のため」という回答がもっとも多く(谷本 2019)、この結果は驚きをもって受け入れられました。従来、美容整形は「劣等感を解消するため」か「モテるため」に受けるものだと考えられていたからです。

私もコンプレックスの解消や、モテるために整形を受ける方が多いのだと思っていました。

谷本

調査結果は、その「劣等感仮説」と「モテたい仮説」を覆すことになったんです。でも、いまの学生たちからすると「何を当たり前のことを言っているんだろう」という感じだと思いますよ。若年層に限らず、多くの方が「自己満足のため」に、気軽に外見を変える時代になっているわけです。

たった20年の間に大きな変化があったのですね。なぜ、このような変化が生じたのでしょうか。

谷本

テレビや雑誌などのマスメディアが美容整形をポジティブに取り上げるようになったということもあるでしょうが、もっとも大きな要因は医療機器の進化でしょう。日本の美容整形の特徴は、メスを使わずにレーザーを使うことにあります。90年代以降、美容整形に用いられるレーザー機器が大きく進化を遂げ、一気に症例数が増えたんです。

そうなんですね! とはいえ、技術の進化は人々の美容整形に対する意識までをも変えるわけではありませんよね?

谷本

はい。「引け目を感じる」という意識を変えた直接的な要因は、「多くの人が美容整形を受けている」という事実だと思います。たとえば、かつて「髪を染めること=不良」と考えられていた時期がありました。でも、いまやそんなイメージはありませんよね。

 

そういったイメージの変化が起こった理由は、「たくさんの人が髪を染めるようになったから」に他なりません。美容整形も同じですよね。いままさに、美容整形は「特別な行為」の壁を越え、一般的な行為になろうとしているのだと思っています。

「SNSは劣等感を抱かせる」という誤解

過去と現在を比較してみると、外見を磨くための情報が圧倒的に増えたことも大きな変化なのではないかと思っています。SNSなどを見ていると、美容整形の情報はもちろん、メイクやファッションに関するものなど、美しくなるための情報が溢れていますよね。

谷本

2018年に15から55歳の女性を対象に実施した調査では、76.5%の方がメイクやファッションなども含めた「外見を整える」ための情報を、インターネットから得ていることがわかりました(谷本 2018)。その中でも、やはり若年層に対するインターネットの影響力は特に大きい。美容整形に限定すれば、20代の約半数がインターネットを介して何らかの情報にアクセスしていました。

 

そして、特徴的なのは美容整形に関する情報の捉え方です。また別の調査なのですが、アンケートに回答してもらった男女4,126名のうち、インターネット上で美容整形の情報に触れたことがある人は867名で、そのうち47.3%が「美容整形に関心が湧いた」と回答した一方、「関心がなくなった」は16.6%。

 

また、18.8%の方が「(美容整形に関する情報の)投稿者に好感を持った」と回答したのに対し、「反感を持った」は2.7%にとどまりました。ここからも、美容整形に対する社会的なイメージが変化していることが読み取れるのではないでしょうか。

美容整形がポジティブなものとして受け入れられていることがわかりますね。一方で、インターネット、とりわけSNSが普及したことによる弊害もあるのではないかと思っていまして。というのも、私が高校生だったときを思い返すと、外見を比べるのって身近な人に限られていたんですよね。

 

もちろん、テレビをつければ美しい芸能人が映っていましたが、芸能人は「特別な人」であり、比較しようとすら思わなかった。では、「一般人」である私がリアルな羨望の眼差しを向けていたのが誰だったのかといえば、学年、あるいは学校内で「美人」とされている子でした。その子たちに対する劣等感は持っていましたが、あくまでもそれは学校という狭い世界に閉じた、小さな劣等感だったように思います。

 

しかし、物心が付いたころからSNSに慣れている世代は、世界中に自らよりも美しい「一般人」がたくさんいることを否が応でも知ることになりますよね。このことが、外見に関する強い劣等感を抱くことにつながるのではないかと想像しているんです。

谷本

これまでたくさんの若年層に美容整形や外見に関するお話をうかがってきた経験からいえば、「世界には自らよりも美しい人がたくさんいる」という事実が、むしろポジティブな影響を与える可能性を指摘できます。

 

「なぜ自分はこの人のように美しくないのだろう……」としょんぼりすることもありますが、「この人みたいに美しくなりたい!」というモチベーションになっている場合もたくさん見受けられました。SNSで見た誰かと同じ服を買ってみたり、メイク動画を見て真似をしてみたり、どちらかといえば、SNS上の「自らよりも美しい存在」を、前向きなアクションにつなげている人が多いのかもしれません。

 

SNSが与える影響に関する細かな調査はこれからという段階なので、確信を持って言えるわけではありませんが、若い子たちはSNS上のさまざまな美に関する情報を、明るく、あっけらかんと受け取っている可能性があるんですよね。

「SNSがあるから、外見に対する劣等感を抱きやすくなり、美容整形を受ける」という考え方もあるのではと思っていたのですが、そういうわけではない?

谷本

もちろんSNSを見ることによって劣等感を抱き、美容整形をした人もいると思います。いずれにせよ調査前に一般化することは避けなければなりませんが、現段階ではSNSはポジティブに「背中を押す」存在になっている側面もあると感じています。

「本当の自分」は無数に存在する

若い世代はSNSとあわせて、カメラアプリや画像加工ツールなどをうまく使いこなしていますよね。そのようなテクノロジーが、「外見」の捉え方を変えることもあるのではないかと思っているのですが、谷本さんはどのように感じていますか?

谷本

これまで深く調査できていない分野ですので、確たることは言えないのですが、自らが写った画像を加工することが簡単に、当たり前になったことによって、自己認識にも影響が出ているのではないかと想像しています。「加工された自分の姿」もまた、一つのアイデンティティになっているといえるのではないでしょうか。つまり、画像加工アプリなどによって「盛った自分」もまた、「本当の自分」の一部になっている。

加工が施された画像に写る自分は「『本当の自分』ではない」という考え方もあると思うのですが、そうとは限らないと

谷本

そもそも「本当の自分」あるいは「ありのままの自分」という存在自体が幻想なのではないでしょうか。突き詰めて考えれば、「ありのまま」なんてあり得ないと思うんです。朝起きて、洗顔しただけでも「ありのまま」ではなくなるわけですからね。

 

唯一無二の「本当の自分」なんてものは存在せず、その時々の状況や環境、自身の内部と外部の相互作用によって絶えず「自分」は変化し続ける。そして、そのどれもが「本当の自分」なのだと思います。

なるほど。確かに、「たった一つのありのままの自分、ありのままの自分の外見がある」ということが幻想なのかもしれませんね。そう考えると、私たちは画像加工アプリのようなテクノロジーを駆使して、「本当の自分の新しい一面」を生み出し続けているのかも。

谷本

そうですね。私たちにとってテクノロジーとは、「本当の自分」を分離させたり、収れんさせたり、拡大したりするためのツールといえるかもしれません。

「美しさ」をめぐって、私たちが取り得る3つの方策

これまでのお話を通して、「外見」を取り巻く環境が変化し続けていることを感じました。社会全体にダイバーシティが求められるようになり、多様な「美しさ」が認められるようになりつつあると感じている一方、まだまだ自らの外見に悩んでいる人がいるのも事実だと思います。私たちは自らの、あるいは身の回りの誰かの外見といかに向き合うべきなのでしょうか。

谷本

まず、すべての個人が社会や他者からの評価から解放され「それぞれの美しさ」を追求できるかといえば、それはノーでしょう。なぜならば、「独自の美」は成立しえないからです。

どういうことでしょう?

谷本

「外見」というのは、その外見の持ち主と、その人を取り巻く社会とのちょうど間にあるものです。そして「美」というのは、あくまでも社会やそれを構成する多くの人が「美しい」と認識するから成立するものであって、個人の思いや考えによって完全に独自につくられるものではありません。つまり、「美しさ」を規定するのは社会なんです。

 

だから、「100人いれば、100通りの『美しさ』がある」と考えることは大事なことですし、言葉としては綺麗かもしれませんが、現実としてはあり得ないんですよね。あくまでも、その時代時代の社会が規定する要素を備えているものだけが「美しい」わけですから。

その時代における「美しさ」は個人的な思いではなく、社会的なコンセンサスが決定づけるものだと。

谷本

そうです。ただ、多様性が求められる時代になり、間違いなく「美しさ」の物差しは増えてきています。つまり、唯一絶対の物差しで一方的に測られることはなくなりつつあり、自らに合った「美しさ」を追求するという選択肢も生まれているわけです。

 

もちろん、「『美しさ』を追求する道を外れること」も選択肢の一つでしょう。どのような「美しさ」も追い求めないという選択もあっていいはずです。また、まだ社会的には認められていない「新しい美しさ」を生み出すための行動を起こすことも、私たちが取り得る選択の一つでしょう。

 

「すでにある『美しさ』の中から、自らに合ったものを追求する」「『美しさ』を追い求めることをやめる」「新たな美しさを生み出す」、この3つの選択肢から、自らが心地よいと感じる「美しさ」との向き合い方を選び取るべきなのだと思います。そして、何より大事なのは、このいずれの選択肢を選んだとしたとしても、非難されることがない社会をつくることでしょう。結局は、それぞれが心地よいと思う方法を選ぶと同時に、自らとは異なる選択をした人を尊重する気持ちを持ち続けることが大事なのだと思います。

上の世代がつくる、“かわいそうな”若者像

谷本さんの著書でも紹介されているように、多くの化粧品メーカーの宣伝では「肌本来の美しさ」といった言葉が使われています。この背景には「ありのままで美しいのが一番良い」という価値観が存在するのでしょう。その価値観に賛同する声は、いまも根強く存在しています。

 

「ありのまま」を愛するのか、「自分の好きにつくり変える」のか、そのどちらを選ぶかも、本来は個人の判断に委ねられるべきものではないか、そして人それぞれの選択を周囲は否定せず見守る視点を持つことができれば、より心地よくくらすことができるのではないか。谷本さんとのお話を経て、そのように感じるようになりましたそして多くの若者が美容整形を受けたことを周囲と気軽に話しているということは若年層の間ではすでにそのような行動が一般的になっているのだなと、とても頼もしい印象を受けました

 

そして、もう一つ印象的だったのは、「SNSからポジティブな影響を受けている若年層が多いのではないか」という谷本さんの発言です。若年層を通り過ぎた私が同世代の同僚と話すと、いまの若者たちは息苦しそう生まれたときからSNSがあって、常に理想の自分を演出しないといけないみたいで」という話になることが多くあります。もちろん、弊害がないわけではないと思うのですが、現代を生きる若者たちの多くは、私たちが想像している以上にこの状況に適応し「いま」をうまく乗りこなしているのかもしれない、「かわいそう」と感じるのは自分の勝手なバイアスだったのかも。それも大きな発見でした。

 

美容整形や「外見」というテーマから見えてきたのは、明るく、あっけらかんと、この時代をしなやかに生きる若者たちの姿でした。いま、の世代に求められているのは、若者たちに「教えてあげること」でもなければ、「なんとかしてあげること」でもなく、「フラットに対話し、学び合う」ことだけなのかもしれない。そのような関係をもっとつくっていきたいと思います。

みなさんは「自分好みの外見をつくること」に対して、どのようなイメージを持っていますか? 記事の感想とともに、ぜひ「#ヘルシーな自己愛」を付けてシェアしてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、美容整形などを通した文化研究に取り組む、谷本奈穂さんを訪ねたときのことを振り返りながら、自らの「外見」と心地よく付き合っていくにはどうすれば良いのか、改めて考えました。

photo by 進士 三紗

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