欠点を受け入れるの、難しすぎない?
大学生・若手社会人と対話して見つけた4種のモヤモヤ
欠点を受け入れるの、難しすぎない?
大学生・若手社会人と対話して見つけた4種のモヤモヤ
どんなコンプレックスがあっても、私は私。いつでも無理なく、ありのままの自分を愛していたいけど、なかなかうまく自分を認めてあげられない。実現できたらいいと頭でわかっていても、実践は難しいものです。欠点を含めて自身を受け入れていく上で、どんな要素がハードルになっているのか、若者のリアルな声を聞いて、その傾向を探りました。

愛知県出身。大学在学中にフリーペーパー制作とドイツ留学を経験。名古屋大学文学部を卒業後パナソニックに入社し、様々なイベント、セミナー企画に携わる。子どもの頃から食分野に興味あり。週末にはパンを焼く。
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捉えどころのない4タイプのモヤモヤに向き合うために
「欠点やコンプレックスを受け入れ、ありのままの自分の存在をただただ認め、できることなら愛したい」。これは、多くの人に共通する欲求ではないでしょうか。弱さを受容し、自分らしく、すこやかにくらすために、私たちはどんな問いと向き合うべきでしょうか――。
そんな思いを背景に持ちつつ、q&d第9回特集「ヘルシーな自己愛をさがして」では、11のくらしの欲求の中のひとつ「Be True to Yourself 欠点含めて自分自身を受け入れたい」をテーマとして扱っていきます。

取り繕わないTrueな自分を、過度に否定も肯定もせず、すこやかに愛せる。そんな「ヘルシーな自己愛」を持てれば、私たちのくらしは、より素敵なものになるはず……けれども、現実ではさまざまな要因がそれを阻んでいると思います。
q&dとして本特集で考えるべき“問い”を明らかにするためにも、私たちが「ヘルシーな自己愛」を手に入れる過程でどんなことが壁になり得るのか、とくに若年層が自分の弱さやコンプレックスについてどんな割り切れなさを抱えているのかを知るべく、q&d編集部メンバーの身近にいる10〜20代の男女十数名と対話をしてみました。
今回の「特集に寄せて」では、それによって見えてきた「ヘルシーな自己愛を阻む4タイプ、12パターンのモヤモヤシチュエーション(以下、モヤシチュ)」をイメージしたイラストカードと一緒に、特集内の各記事をご紹介していきます。
自分の内面について、何もとっかかりのないところから考えるのは、なかなか難しいものです。これからお見せする「少し抽象的だけど、どこか身に覚えのある状況」を描いたイラストと他者のリアルな悩みは、読者の皆さんが自分と深く向き合い、心の奥底に隠れているモヤモヤを見つけるための道しるべになると思います。
4タイプのモヤモヤの中で、皆さんが最も共感するものはどれでしょうか? ぜひ、この「特集に寄せて」や各記事を読みながら、自分なりのモヤシチュとの向き合い方を考えて、日々のくらしに生かしてもらえたらうれしいです。
モヤモヤタイプA:周りに合わせすぎて『Trueな自分』がわからなくなってしまう
まず1つ目は「うまく周りに合わせられるがゆえに『Trueな自分』の実態があやふやになってしまう」といったモヤモヤです。
具体的にどんなシチュエーションでそのようなモヤモヤを感じるのか、詳しく聞いていくと、以下の3つの傾向が見えてきました。印象的だったコメントと共に、ご紹介していきます。

【モヤシチュ1】
ありのままの私よりも、他人に承認される自分を優先しちゃう
「いま就活中なのですが、相手の評価を気にしすぎて、ついつい本音よりも相手が求めていそうな返答を優先して話してしまいます。『評価されるため、好かれるための自分』と、『ありのままの自分』にはギャップがあるのはわかりつつ、それをどう埋めればいいか悩んでいます」(21歳・女性)
【モヤシチュ2】
本音を話したいけど、受け入れられるかわからなくてためらっちゃう
「友人間でなかなか本音が話せなくてモヤモヤしています。正直に話したほうがお互いのためになるとは思いつつも、『変なことを言ってその場の空気を悪くしたらイヤだな、嫌われたくないな』という恐れがそれを邪魔してくる場面は、これまで何度もありました」(25歳・女性)
【モヤシチュ3】
ありのままの私は矛盾だらけでイヤな面もあるから、相手や社会に好ましくないと思われる部分は隠したくなっちゃう
「自分はあまり愛想がよくなくて、それを『ありのまま』と言ってさらけ出すのは、社会であまり歓迎されない気がする。周りにとって受け入れがたそうな自分の性質は、あまり見せるべきではないと感じてしまう」(22歳・男性)
そのような経験をした覚えがある方も多いのではないでしょうか。迷子になってしまった「ありのままの自分」を探すには、何かしらの指針が必要になってきそうです。
今回の特集では、上記のような「周りとの折り合いをつけすぎて、ありのままの自分がよくわからなくなってしまうモヤモヤ」との向き合い方を探るべく、『ザ・メンタルモデル』などの著書を通して、自己の痛みや望みを深く感じ取る術を追究している由佐美加子さんと対話した記事を掲載します。タイプAのモヤモヤに共感した方は、ぜひご覧になってみてください。
モヤモヤタイプB:情報が多様すぎて価値観が揺らぎやすく、自分の判断軸に自信を持てない
特徴的な4タイプの悩み、2つ目は「目や耳に入ってくる情報が多様すぎて、自分の価値観が揺らぎやすく、ありのままの自分の判断軸に自信を持てない」といったモヤモヤです。選択肢の幅が増え、それぞれの選択を尊重する風潮が高まりつつありますが、その影で人知れずモヤモヤしている声が、今回の調査では目立ちました。

【モヤシチュ4】
コンプレックスも含めたありのままの自分を「いい」と思えるのは、社会に認められた一部の人だけだと思っちゃう
「芸能人にはコンプレックスをうまく個性として見せているような人もいるけれど、それは今のステータスがあるからこそで、一般人である自分には真似できないな……と、うらやましく思ってしまうことがあります」(21歳・女性)
【モヤシチュ5】
好きなことを仕事にして「夢」を実現できる時代だけど、それが逆につらいと感じちゃう
「YouTubeなどのさまざまなメディアで『好きなことで生きていく人たち』を見かけるたびに、そこまで打ち込める対象や熱意がない自分に嫌気が差してしまう」(24歳・男性)
【モヤシチュ6】
多様性はもちろん大切だけど、「みんな違ってみんないい」だと自分の道をどう進めばいいのか迷っちゃう
「『唯一の正解はない』というのは理解しているし、それは素晴らしいと思うけれども、個人的には何かやるときに『正解』が見えていないと不安。多様な選択肢が目に入り、参考が多すぎるからこそ、答えが欲しくなってしまう」(24歳・女性)
「多様さ、選択肢の多さが見えるからこその不安」は、デジタルネイティブである若年層の傾向として、ほかの世代よりもかなり大きそうだなと感じます。さまざまな種類の芝の青さが、隣でなくとも間近で見えすぎてしまうからこそのモヤモヤと向き合っていく術は、現代をすこやかに生きていくために、重要なスキルのひとつだと言えるのではないでしょうか。
今回の特集では、上記のような「いろいろなことに興味はあるものの、多様な世界の中で自分は本当に何がしたいのかわからなくなってしまう」といったモヤモヤと対峙しながら、何を軸にして「ありのままの私らしさ」を形作っていけばよいのか、アーティストのコムアイさんと一緒に考える記事を制作しています。タイプBのモヤモヤに共感した方は、ぜひご覧ください。
モヤモヤタイプC:自信が持てず、自虐的な言動をしてしまいがち
3つ目のタイプは、「自らの欠点ばかりに目がいってしまって、自信が持てず、自虐的な言動を取ってしまう」といったモヤモヤです。自分に優しくしたいけど、必要以上に卑下したり、ついつい自虐的な言動を取ってしまったりして、なかなかできない……私は思い当たる節が多々ありましたが、皆さんはいかがでしょうか。

【モヤシチュ7】
「何者かにならなければならない」というプレッシャーが強い、そして努力したってSNSで上には上がいると思い知らされる
「どんな活動においても、そのジャンルでもっとすごいことをしている人がすぐ目に入ってしまう。自分がやっていることに意味なんてあるのかな、と自信をなくしてしまうことが多い」(21歳・女性)
【モヤシチュ8】
「ありのままでいい」という言葉を受け入れると自分に甘くなってしまいそうで、つい自分に厳しくしちゃう
「このままじゃダメだと感じるマイナス要素が、自分を突き動かすエネルギーになることは多々あったので、『全部ありのままでいい』と思ってしまうと、それ以上成長できなくなってしまうのでは……と少し不安になります」(25歳・女性)
【モヤシチュ9】
誰が見ているかわからないし晒されたら詰む……だから「欠点」や「失敗」なんて人に見せられないと感じちゃう
「今はそこまで思っていないけれど、学生時代は『弱みを見せたらつけ込まれそう』『ダメキャラが定着したら絶対にイヤだ』と感じていて、自分の弱さに対して過度に厳しくしすぎていた。気を張り詰めていたから、結構しんどかった」(26歳・男性)
こうした「自分の欠点に厳しすぎるモヤモヤ」については、「自分はそうでもないけど、周りにそういう人がいる」「昔はそうだったけど、今は違う」という意見が多かったのも印象的でした。
欠点がある自分を認めつつも、それに対するフラストレーションを自己変革のエネルギーに変えていくのは、とても生産的な営みだと思います。しかし、いま自分のいる足場が安定していなければ、なかなか自分を変えようという気持ちも起きないし、踏ん張れないものです。そういった足場の有無によって、このタイプのモヤモヤへの共感度は、大きく変わってくるのだろうなと想像しています。
今回の特集では、上記のような「自らの欠点ばかりに意識がいってしまって、ついつい自虐的な言動を取ってしまいがちな自分とどう向き合えば、心穏やかに生きていけるか」という問いについて、精神科医の斎藤環さんと一緒に考える記事を掲載します。
また、「ダメな自分、できない自分」との向き合い方について、かつてサッカー選手としてインド代表に選ばれた経験を持つ、元プロサッカー選手の和泉新さんと対話する記事も掲載します。タイプCのモヤモヤに共感された方は、ぜひご覧ください。
モヤモヤタイプD:容姿や服装で他者から一方的に評価・判断されたくない
4つ目のタイプは、「容姿や服装で他者から評価・判断されること」にまつわるモヤモヤです。コンプレックスや不満につながりやすい外見について、Z世代の皆さんは比較的柔軟な価値観を持っているように感じられましたが、その一方でまだまだ受容しがたい要素もあるようです。

【モヤシチュ10】
建前ではみんな「ありのままの個性が素敵」と言うけど、結局外見がいい人が評価されるし得をする社会だと感じちゃう
「『外見のよさによって得をする』というのは、仕方のないことというか、ひとつの能力でもあると感じている。ただ、外見によって誰かが不当に貶められていたり、不本意なキャラを押し付けられていたりする状況を見かけると、やるせなく思う」(25歳・女性)
【モヤシチュ11】
外見は生まれ持ったものしか「ありのまま」とは言えないの? 「ありのまま=自然のまま」を受け入れなければいけないの?
「なりたい自分になるために、どうしても外見のよさが必要になるのであれば、むしろ『整形をしてなりたい自分に近づくこと』のほうが、そのままでいるより“ありのまま”だと言えるはず。そんな意味合いでの整形は、もっとカジュアルに受け入れられてもいいと思う」(22歳・男性)
【モヤシチュ12】
装いを含めて自分の好きな外見でいたいけど、「素行の悪さ」や「礼儀のなさ」と結びつけられてしまうのが怖くてためらっちゃう
「知人の結婚式に出るときに好きな赤い着物を着ようとしていたら、母から『主役じゃないんだから、落ち着いた色にしなさい』とたしなめられたことがあります。8割方はTPOの理解不足を反省したのですが、2割くらい『好きな色の服を着て、気分を上げてお祝いしたかったな』というモヤモヤが残りました」(24歳・女性)
良し悪しにかかわらず、外見や服装がその人のキャラや評価に大きく影響を及ぼすことがある、という点は共通認識のようです。中でも、整形について言及していたコメントは複数あり、おおむね「才能だからどうにもならない」と諦められてきた外見を、ある種の努力で変えていく手段のひとつとして、フラットに捉えられているのが印象的でした。
外見にまつわるコメントの背景には「同世代的には問題にならないけど、上の世代や社会の風潮との認識のズレからモヤモヤが生まれがち」といった傾向も見て取れました。結婚式の服装にまつわるエピソードがありましたが、時代の変化に応じて「その常識、ドレスコードは本当にこのままでいいのか?」といった議論は、もっといろいろなシーンでなされていくべきだと感じます。
今回の特集では、私たちが容姿や服装をどのように捉えれば、他者や社会からの評価に頼らずに「これが自分だ」と居心地よくくらせるのかを、関西大学総合情報学部教授の谷本奈穂さんと一緒に考える記事を掲載します。タイプDのモヤモヤに共感された方は、ぜひご覧ください。
欠点のある私を、そのまま受け入れて愛してあげるために
Z世代との対話から見えてきた「ありのままの自分を受け入れること」を阻む4タイプのモヤモヤで、皆さんは特にどの項目に共感したでしょうか。その中には、人間にとって普遍的な悩みである要素は多分に含まれつつも、インターネットやスマートフォンがインフラとなり、SNSがライフスタイルに組み込まれた現代だからこそ、顕著に出てきている傾向もあったように感じられました。
欠点やコンプレックスは誰にでもあるもので、きっとどんなに克服しようとしても、完全に消えることはないでしょう。自分らしく、すこやかにくらしを紡いでいくためには、それらとの上手な付き合い方を学ぶ必要がある――そんな思いを胸に、本特集ではこれからさまざまな問いと真摯に向き合っていきたいと思います。
皆さんはどのような要素が「欠点を受け入れ、ありのまま自分を愛する」上での障壁になっていると感じますか? 本記事の感想と共に、ぜひ「#ヘルシーな自己愛」を添えて投稿していただけたらうれしいです。
moya moya card Illustrarion by 大津萌乃
key visual Illustrarion by UESATSU
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