どうすれば多様な価値観を受け入れ、変化できる?
パナソニック社員の問いから生まれた、若者との対話の場
0
どうすれば多様な価値観を受け入れ、変化できる?
パナソニック社員の問いから生まれた、若者との対話の場
2021年秋、学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校(以下、N高)、S高等学校、N中等部が企画する職業体験プログラムが開催されました。「家族」をテーマにした同プログラムに参加した生徒は、新たな価値観と出会い、自らの家族観が変化したようです。
実は、このプログラムのテーマを「家族」に決めた背景には、企画に携わったパナソニック社員の強い思いがありました。家族をテーマに選んだ理由はなんだったのか、生徒たちの対話から何を感じたのか。企画に関わった白鳥と東江の2人に話を聞きました。
- KEYWORD

多摩美術大学を卒業後、人間が使いやすいもの/環境を作りたいと思いパナソニックへ入社。FUTURE LIFE FACTORYにて”性”と”生”を考え普通を問い直すYOUR NORMALを主宰。プロダクトデザイナーとして照明を考えつつ、「自分のバイアスを自覚しオプションを増やす」ことがモットー。

沖縄県出身。千葉大学在学中に英・仏留学や、日本文化を学び発信するプロジェクトに参加。パナソニック入社後、普通を問い直しひとりひとりの”性”と”生”を考えるYOUR NORMALプロジェクトを主宰。普段はUI/UX系のデザイナー。趣味は陶芸と中国茶。
- 目次
-
「今の中高生たちの家族観は?」という問いがきっかけに
職業体験プログラムに講師として参加することになったのは、なにがきっかけだったのでしょうか。
N高さんから「学園にて実施している職業体験に講師として登壇してもらえないか」とご相談をいただいたのがきっかけですね。私たちが取り組んでいる「YOUR NORMAL」という活動のなかでN高さんとのつながりがあり、その縁でご相談があったんです。
お二人が取り組んでいるYOUR NORMALとはどのような活動なのでしょうか。
YOUR NORMALは、生物学的な性差やセクシュアリティにとどまらず、ジェンダーロール、安全、健康、人と人との関係性など「性」を広く捉え、考えていく取り組みです。元々は、パナソニックの中にある「これからの豊かな暮らしとは何か」を問い直し、モノ・コト問わず具現化していくデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」の活動の一環として始まりました。
この活動のなかで「家族」というテーマに触れることが多く、いろんな疑問を抱いていたんです。それでN高さんからプログラムのご相談があった際に、家族をテーマにできないかと考えました。
家族について抱いていた疑問とは、どのようなものだったんですか?
一人ひとりの性に関する価値観を形成する要因として、家族の影響もあるのではないかと考えていました。一方、YOUR NORMALの活動で出会う10代の若い人たちは、学生時代の自分たちと比べて、SNSなどを通じて多様な価値観に触れていると感じたんです。
出会う価値観が多様になっているとしたら、今の若い人たちは自分たちと異なる考えの人が存在することを当たり前のように受け入れているのではないか、という仮説を持つようになりました。

YOUR NORMALを通じて、自分たちの記憶にある学生時代とは異なる、現代の学生たちの姿を目の当たりにして、「自分たちと今の10代とではどれだけ価値観が違うのか」が気になって。「今の中高生たちの家族観を知りたい」という思いから、プログラムのテーマを家族に決めました。
多様性をまっすぐに受け入れることで選択肢を広げていく
実際にプログラムに参加する生徒たちの様子を見ていて、印象に残っている場面などありますか?
私はチーム内の生徒の親御さんを参考にしてペルソナに設定していたチームが印象に残っています。その親御さんはパート勤務をしながら大学に通われているそうです。実際に話を聞きに行って、その方がどんな気持ちで生活しているのか、深く捉えようとしていた姿が素晴らしいと思いました。

私は俳優が二人で同居しているというペルソナを設定していたチームが印象に残っています。私も子どものころは、将来、仲の良い友達と一緒に暮らしたいと考えていたな、と思い出しました。生徒たちが議論する様子を見ていて、世間の当たり前に囚われず、純粋に「友達と家族になりたい」という理想を抱くのもいいなと改めて感じましたね。
その他、議論や発表を聞いていて考えたこと、感じたことはありますか?
生徒たちにとっては、一緒に生活しているから家族というわけではなく、着かず離れずの距離感で一緒にいることを良しとするような価値観がある程度共通していたんです。あれは、新鮮でしたね。「同居・シェアハウスと、家族の線引きはどこなんだろう」という新たな疑問も生まれました。
「共感できることが大事」というある生徒の意見に対して「惰性的な共感や傷をなめ合うような関係は嫌だ」と主張する生徒もいましたね。ウェットな関係を求めない価値観の生徒からは、「自分は自分、他人は他人」という意見もありました。他者との関係は自分のためにある、という考えに触れられたのは発見でした。
若者は新しいものに対する受容力が高い?
プログラムに参加する生徒の様子を見ていて、当初二人が抱いていた問いや仮説に変化はありましたか?
もともと、YOUR NORMALの活動を通じて、若い人たちの見識が自分たちが10代のときよりもずっと広がっているのではないかという仮説を持っていたんです。ですが、生徒たちの議論を聞いたあとは、思っていたよりも自分たちの価値観とギャップがないのではないかと考え直しました。
私たちが10代だった当時そうであったように、価値観の形成に影響を与えているのは普段所属しているコミュニティのようでした。ほとんどの生徒にとって、そのコミュニティは広がったり、増えたりしているわけでもなく、SNSを活用してどんどん自分の価値観の幅を広げている層ばかりではないというのは大事な気づきでしたね。

一方で、今の若い人たちのほうが、新しいものに対する受容力は高まっている気がします。これまで自分の頭になかった家族像も「確かに良いから取り入れたい」と選択肢を広げていく様子を見れたのは発見でした。
受容力が高いがゆえに、選択肢が増えてしまい、葛藤していたチームもいました。新しい価値観に触れて、葛藤を重ねていくことが自分にとっての理想を考える上では大切なのかもしれません。
新しい価値観を受容していくためには、異なる価値観や意見を持った人との出会いや対話が必要になりそうですね。そこには葛藤も生じるけれど、それも踏まえて向き合っていくことが大切になる。q&d編集部も、対話のきっかけを作り出すことで人々が価値観を広げていく手助けをしたいと、改めて思いました。お二人とも、今回はありがとうございました!
プログラムを振り返って
今回、パナソニックの社員が講師として登壇することから、プログラムの存在を知り、取材を通じて生徒の価値観が変化していく様子を垣間見ることができました。
こうした取り組みの他にも、パナソニックの中にはくらしについて真剣に考え、活動している人々がいます。
q&d編集部は、社会だけでなく、社内の情報も紹介しながら、くらしについて問い、対話する様子を伝えていきたいと思います。
- KEYWORD
記事へのコメント