「ネットの高校」として2016年4月に開校して以来、さまざまな新しい教育活動に取り組んできた学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校(以下、N高)。N高は、生徒が将来の「自分の居場所」を社会のなかで見つけるヒントになるように課外学習を角川ドワンゴ学園S高等学校、N中等部とともに実施しており、その取り組みのひとつに職業体験プログラムがあります。
2021年の秋に開催された職業体験プログラムのテーマは、q&dの特集「理想の家族ってなんだろう?」とも強く関係する「理想の家族」でした。家族の実態は多様化しているのでは?と考えて特集を企画した編集部にとって、現代の中高生の家族観は大きな関心ごとです。
このプログラムにパナソニックの社員が講師として登壇した関係もあり、「理想の家族」というテーマに生徒がどう向き合ったのか、参加者の梁川瑠璃さんにお話を伺いました。
梁川 瑠璃さん
S高等学校1年生。中学2年生でN中等部に入学し、S高等学校に進学。両親と3人で生活している。ピアノを弾くことと、絵や動画を見たり作ったりすることが趣味。将来は友人たちとのシェアハウスを考えている。
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自分の「家族像」を揺さぶる新たな価値観との出会い
職業体験プログラムは、前半でリサーチを行った上でペルソナを設定し、後半でペルソナのニーズにあった製品を選んで、価値を伝えるための広告アイデアを考えるというものでした。梁川さんは、どんなことを期待して参加したのでしょうか?
中学生のときから広告の仕事に興味をもっていて、今回の職業体験プログラムに興味を持ちました。仕事自体への関心に加えて、他の人の家族観を聞くことで、自分の価値観を広げられるのではという期待もありました。
プログラムでは、最初にペルソナを考えるために「自分が良いなと思う家族をもっている人」「将来こういう家族になりたいと思える人」を探してもらいました。リサーチしていくなかで梁川さんご自身が「こんな関係を築きたい」と感じた家族はありましたか?
「ソーシャルアパートメント」で生活している人たちの関係に惹かれました。ソーシャルアパートメントは、「シェアハウスに惹かれるけれど、自分の時間や空間はマンションのように確保したい」という方のための住居。個人の部屋以外にもラウンジのような共有スペースがあり、住民同士の交流を楽しめるようになっています。
ソーシャルアパートメントでくらす方々に関する記事で読んで、純粋に楽しそうだなと感じました。記事からは、互いの違いを尊重する、関係の心地よさも感じられました。完全に相手を理解することは難しいかもれないけれど、互いに心地よい距離感や関係性を築けているのが素敵だなと。
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各チームはそれぞれ身近な人物やメディアに出ている人物などを挙げ、集まった人物たちをオンラインホワイトボード上で共有しながら、「なぜこの人を選んだのか」「どこが良いと思ったのか」を言語化。ポイントを出したあとは、近いキーワードをグルーピングして自分たちが良いと思っている家族の要素を整理しました
他のチームのリサーチでも、互いを尊重することや、素の自分でいられることが、家族である上では重要なのではという意見が出ていましたよね。家族の要素を整理した後は、ペルソナの設定に取り組みましたが、梁川さんのチームのペルソナはどのようなものになりましたか?
私たちのチームが設定したペルソナは、3人でシェアハウスをしている20代前半の女性です。個人的に一番惹かれたポイントは、もともと大学時代から仲がよかった3人が、将来を考えたり、仕事で落ち込んだりしても、お互いを励まして、くらしていること。「自分たちが家族だと思ったら家族になる」という点は、自分にとって新しく感じました。

設定したペルソナがどのようにくらしているかについては、どうやって想像を膨らませていったんでしょうか?
もともとチームのみんなで素敵だなと思った記事があったので、その記事を何度も読み込み、想像を膨らませました。生活の様子がわかる写真も掲載されていたので、ペルソナがどういったくらしをしているのかを写真からも想像していきました。時間をかけて調べてみたのですが、ペルソナのくらしを想像する上で参考になる資料がその記事しか見つけられなかったので、そこは大変でした。
リサーチのなかで印象に残っている要素はどのようなものでしたか?
例えば、記事では3人がやりとりをする伝言ノートの写真が紹介されていて、生活費など金銭に関わる重要な内容もノートでやりとりしている様子が写っていました。こんな情報までシェアするのか、と驚きましたね。
他にも、卒業旅行で買ったお皿をシェアハウスで大事にしていたり、誰かが仕事で疲れていたら労いの言葉をかけあったり、洗濯物を畳んでくれたらアイスを渡して「ありがとう」と伝えたりという様子が記事では紹介されていました。
1つの記事から3人が同居人としてどんな関係性で、どんな生活を送っているのかのヒントをつかみ、広告を考えるためのアイデアに反映したいと思いました。
想像を重ねて新しい価値観を自分ごと化する
ペルソナのイメージを具体化した後、ペルソナのニーズを想定し、そのニーズを満たすための製品を選んでもらいました。梁川さんはどんな製品を選びましたか?
3人が互いを励ます際の力になれる商品を選びたいと考えました。3人は食べることが好きな設定だったので、キッチンや食に関わる家電を探しました。それで冷蔵庫の中にあるものの残り数がスマホで確認できる製品を見つけたんです。

この製品があれば、シェアハウスの冷蔵庫に足りないものをすぐに把握して帰宅ついでに買えるし、買うものが他の人と被らないようにすることもできます。「家に何があったかな」「足りないものは何だっけ」とチェックしてから、買って帰れたら便利だろうなと。
他にも、その製品には誰かが食べ物や飲み物を買ってきたことが通知される機能があることも選んだポイントです。例えば、落ち込んだ帰り道に「ビールが補充されました」みたいなメッセージが飛んできたら、お互いを思いやる気持ちが伝わるんじゃないかと思いました。

最後のステップである広告のアイデアを考えることも大変ではありましたが、どう表現するかを考える過程を通じて、「こういう表現に触れたら、どう感じるだろうか」とペルソナの解像度も上がっていきました。
プログラム全体を振り返って、梁川さんの中で家族に対する認識の変化はありましたか?
ペルソナを考えるためにリサーチした際に触れた家族像のなかには、「互いに家族だと思えば家族になれる」という考え方のものも多く、関係の深さによらないという見方もあるのだと驚きました。当初、私の家族に対する認識は、血縁や親友など深く近い関係に限定されたものだったからです。
リサーチや他の参加者とペルソナについての議論を重ねていき、だんだん自分も家族の捉え方が柔軟になっていきました。プログラムが終わった今では「互いに家族だと思っている関係」も素敵だと感じています。
メッセージ開発を通じて多様な家族のくらしを想像する
他のチームが設定したペルソナは、バーチャルシンガーと結婚した男性から、長年の友人と2人でルームシェアする男性たち、大規模シェアハウスに住む夫婦とその子ども、フィリピンのNGOで働きながら現地の家族とくらす女性など、多様でした。今回のプログラムを通じて、他の参加者も梁川さんのように家族に関する価値観が広げられていたら、素晴らしいことだと思います。
今回のプログラムには、「メッセージを届けたい相手がどんなくらしを望んでいるのか」「どんな課題を抱えているのか」を考えるプロセスを通じて、生徒たちに「理想の家族」について解像度を高めてもらおうとする狙いもあったそうです。後編では、今回のプログラムにおけるテーマ設定に関わったパナソニック社員の思いをお伝えしていきます。
『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、東江麻祐さんをゲストに迎え、角川ドワンゴ学園 N高等学校でワークショップを行った時のことを振り返りながら、理想の家族について改めて考えました。
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