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社会が変わる前に自分たちが変わる
——家族と共につくる“自分らしい”生き方

Better Relationships
q&d編集部 松島 茜
内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員、渋谷区男女平等推進会議委員、プラチナ構想ネットワーク特別会員
田中 俊之 博士(社会学)

1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授。男性学を主な研究分野とする。著書『男性学の新展開』青弓社、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』KADOKAWA、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』イースト新書、『男が働かない、いいじゃないか!』講談社プラスα新書、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』祥伝社新書、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』イースト新書、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』岩波ジュニア新書。日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。

q&d編集部
松島 茜

愛知県出身。大学在学中にフリーペーパー制作とドイツ留学を経験。名古屋大学文学部を卒業後パナソニックに入社し、様々なイベント、セミナー企画に携わる。子どもの頃から食分野に興味あり。週末にはパンを焼く。

子どもの頃から、自分も両親と同じように結婚して子どもを授かるものだと、漠然と思っていました。しかし、社会人になって一人の時間やくらしを見つけていくにつれて、「自分が妻になり親になったとき、今のくらしや自分らしさはどう変化していくのだろう?」と不安を抱くようになりました。

 

昔に比べれば、生涯未婚やDINKs(子どもをもたない共働き夫婦)の割合も増えています。多様な生き方があるのは喜ばしいことですが、その選択にはプレッシャーも伴います。家族に向き合うこと、自分のキャリアや挑戦を追求すること、そのどちらも納得する形で実現することはとても高い目標に感じられます。

 

この目標に向かっていくためには、共に過ごすパートナーとの相互理解や協力が不可欠です。育った環境や年齢が異なれば、相手は自分と異なる目線で悩みや葛藤を抱えているかもしれません。もしパートナーが異性である場合には、相手の性別がもつ課題を理解することも、対話する上で重要だと考えます。

 

そんな思いを胸に、q&d編集部の松島が、男性学の研究者である田中俊之さんにお話を伺ってきました。男性が生きる上で直面しやすい課題とはどういうものか。そして、パートナーとの相互理解を深めながら「家族と共に自分らしく生きる」には何が必要か。田中さんの言葉を受け取りつつ、じっくり考えてみたいと思います。

 

格差の構造に向き合うことはそれぞれの生き方を拡げる

松島 茜(以下、松島)

本日はよろしくお願いします。まず、田中さんが研究されている男性学についてお伺いします。男性学とは、どのようなことを研究する学問なのでしょうか。

田中 俊之(以下、田中)

男性学は女性学の影響を受けて成立しました。女性学とは、女性の視点から既存の社会やアカデミズムのあり方を見直そうとする学問の総称で、結婚・出産とキャリアの問題など、女性ならではの悩みや葛藤などを研究対象にしています。男性学はその男性版、つまり男性だからこそ抱えてしまう諸問題を研究する学問分野です。

 

例えば日本のように、「男性が学校を卒業した直後から定年まで延々と働き続ける」という社会って、世界の中では珍しいんですね。そうした男性と仕事との結び付きの強さから、日本では働きすぎや過労死といった問題が男性に起こりやすい傾向にあります。

松島

その点は私も疑問に思っていました。女性はキャリアを積む上で多くの制約を抱えています。一方で男性は、「働いていて当然」という価値観を周囲から押しつけられやすく、仕事以外の領域で生きる選択肢が限られているのではないか。男性のほうが女性より自由に見えて、実は不自由さもあるのではないか……などと感じることがあります。

田中

男性が働きすぎてしまう根本的な原因は、価値観だけではなく、男女間の賃金格差が依然として大きい社会構造にあると考えています。 国際機関であるOECD(経済協力開発機構)の統計によると、2020年時点の日本の男女間賃金格差は22.5%となっています。同じような環境で同じような業務にフルタイムであたっても、女性は男性の8割程度の給与しかもらえていないというのが日本の現状なんです。

OECDデータ 男女賃金格差
https://data.oecd.org/chart/6vdx

この状況では、共働きする夫婦が増えても「夫が時短勤務をする」という話にはなかなかなりません。なぜなら、妻が育児休業や時短勤務をして夫の勤務時間を確保したほうが、家計全体は安定するからです。こうした背景を踏まると、現在の日本の社会は、男性が「働くこと」から降りにくい構造だと言えます。

松島

男性の働きすぎ問題は、個人の価値観を変えていけばいいという話ではなく、「男性が働くほうが経済的合理性が高い」という社会構造が変化しない限り、解決が難しいのですね。こうした男女間の格差の問題は、 男性学の視点での議論が少ないようにも思います。格差によって男女が共に課題を抱えていることを認識し、この問題について双方の視点から議論していくことがとても重要だと感じました。

社会はこうだが、ウチはこう——独立性こそ家族の魅力

松島

今では「家事・育児は女性だけのものではない」という認識が当たり前のものになりつつあります。それでも、男性が主夫になることや、男性が家事・育児の多くを担うことに対して特別視する傾向は、いまだ根強いようにも思います。人々の「こうするべきだよね」という意識と実際の行動には、まだまだギャップがあると感じていますが、その一番の要因は何だと思われますか?

田中

これも価値観や意識というより、社会構造の問題が大きく影響していると考えられます。男性の家事・育児参加に対しては、社会や企業の後押しが十分になされていません。家事や育児に参加するよう促されたとしても、そこに積極的に参加できるような余白を生むために、現状の働き方を変えられるようなシステムがあるかといえば、ほとんどの会社がまだそこまで整っていません。

女性の働き方は時代とともに、主婦、パート、時短勤務と変わってきました。一方で、男性は一貫してフルタイムで働き続けている。そういった働き方を男性に期待している会社であれば、いくら会社として制度を用意しても、男性が育児休業をとることに抵抗は強いでしょう。これでは、「家事・育児に参加しよう」という真っ当な男性ほど、仕事のやり方や量の調整がきかないまま頑張りすぎて、どんどん疲弊してしまいます。

松島

イメージや個人の意識が変わっても、社会構造が変わらなければ実態が伴わない、ということでしょうか。

田中

そうですね。変化を促すには、社会構造、働き方のシステムを変えていくことが不可欠です。とはいえ、「家事・育児は男女が協力して行うもの」という意識が社会に十分に浸透しているわけではないので、社会全体の「家事に対するイメージ」が変わるよう訴えかけていくことも大切だと思います。

 

少し前に放映されていたパナソニックさんの家電のCMでは、俳優の西島秀俊さんが台所に立つシーンを積極的に使用していて、「家事は女性がするもの」というイメージを変えようと努力をされていましたよね。

 

イメージ以外にも変えられる部分はあると思っています。例えば、パナソニックさんはガスコンロが横に3つ並んだシステムキッチンを作られていますね。この配置は、複数人が同時に料理をしやすい構造です。大人2人が並んで立ちやすいキッチンならば、夫婦で一緒に料理をする機会も増えやすくなるでしょう。

ガスコンロの形態を変えるのは少し大がかりな例ではありますが、「環境や道具の工夫を凝らしながら、夫婦で家事を行うことへのハードルをどう下げていくか」を考えることは、とても重要だと思います。

松島

社会構造が根本の課題ではありますが、社会を構成する集団である私たちのイメージを少しずつ上書きしていく、というアプローチもある。さらに、スケールを落としていくと、家族の工夫で解決できる部分もあるということですね。

田中

「社会がこうだから」という理由で生き方を決めていたら、家族を形成する意味がないと思うんです。わざわざ家族をつくることの魅力は、「社会はこうだけど、うちの家族はこうだ!」というように独立性をつくれるところにあると思うんですよね。

身近な人の支えを自信に変えて、既存の「男らしさ・女らしさ」を超えていけ

松島

世間一般で当たり前とされている「男らしさ」や「女らしさ」に従うことは、社会に認められやすいという意味で、人生の充実につながる場合があります。しかし、それに従った結果、本来の自分らしさを遠ざけてしまうこともあると思います。「自分らしさ」を育むためには、既存のステレオタイプ的な男らしさ・女らしさとどのように向き合うべきだと思いますか?

田中

本来、「らしい」というのは褒め言葉なんですよ。「ようやく会社員らしくなってきたね」などと、相手を褒めるときに使います。ジェンダーに関するステレオタイプをなくそうという意識が世の中に広がっていますが、現実の私たちの行動として見ると、まだギャップがあります。

 

うちの5歳の子どもの周りでも、泣いている男の子にお父さんが「男なんだから泣くんじゃない」と平気で叱る場面を見かけます。僕らは、画一的な男らしさ・女らしさが存在する社会をいまだに生きていて、われわれ自身が子どもに“しつけ”と称して価値観の押しつけをしてしまっている部分もあります。

松島

今の自分の価値観が、このまま下の世代に引き継がせてよいものなのか、と自問し続けることが大切ですね。そして、確かに「~らしい」というのは本来ポジティブな意味の言葉なんだなと気づきました。それなのに、既存の「男らしい」「女らしい」という表現には、どうして違和感があるのでしょうか。

田中

既存の男らしさ・女らしさを見直す必要があると考える理由の一つは、男女平等の観点からです。これまで信じられてきた男らしさ・女らしさには、「男性が主で、女性が従」という価値観が内包されている場合も多いのです。それを採用し続けていれば、これまで通り女性の社会的な地位は向上せず、男女の格差は解消されないままになってしまいます。

 

もう一つは、既存の男らしさ・女らしさが、人の自由な選択を阻害している要因になっていることです。差別をなくしていくことで発言や行動が窮屈になると考える人もいますが、それは大きな誤解です。スポーツ、芸術、どんな分野においても「性別によってやりたいことがやれない」というのはおかしいですよね。

松島

おっしゃる通りです。私の子どもの頃も、女の子と男の子では習い事の種類に違いがありました。思い返せば不自然なことだと思います。

田中

うちの長男はかわいいキャラクターが好きなんですよ。特に、ピューロランドではしゃぐくらいサンリオ系がお気に入りで、保育園に行くときに持っていくリュックにもポムポムプリンのキーホルダーを付けていました。けれどもある日、帰ってきたらそのキーホルダーを外していたことがあって。「どうしたの?」と聞いても、「外したいから」の一点張りでした。

 

なぜあんなに気に入っていたキーホルダーを突然外したのか……。憶測ですが、きっと保育園でほかの子に言われたんだと思うんですよね。「それは女が付けるキャラクターだよ」って。僕ら大人が「男はこう、女はこうとされている社会を生きていて、それを知らぬ間に子どもたちにも刷り込んでいるから、保育園児でさえそういうことを言ってしまう。悲しい現実だなと感じました。

 

人間の平等を達成するためには、個人の自由を阻む男らしさ・女らしさは変えていかなければなりません。そのために大事なのは、まず自分がやっていること、自分の考えや趣向に自信を持つことだと思います。

松島

自信を持つのは確かに重要だと思います。しかし、周囲から「おかしい」と言われたときに、それを跳ね返せない人も多いのではないでしょうか。

田中

そうですね。自信というのは、自分だけで持てるものではありません。だからこそ、家族や身近な人が、本人の選択を肯定してあげるべきだと思います。

 

女性がバリバリ働くことに妻が不安を感じていたら、夫はそれを支えてあげたらいい。育児休業を取得した夫が会社で否定的に扱われたとすれば、妻がその気持ちをどうサポートするかを考えたらいい。「あなたはあなたの思うままでいい、自信を持っていいんだよ」と言葉にして伝え、認め合い、支え合う。一番身近な家族が、そんな関係でいられたら素敵ですね。

自分らしさを支えるのは“正しい”プライド

松島

家族の存在が、自信を得ることをサポートするというのは、家族との関わりを考える上でとても大切な視点だと思います。一方で、家族の影響で自分らしさが失われることに不安を感じる人も多いのではないでしょうか。仕事をしながら育児にも取り組んでおられる田中さんにとって、人生における「仕事」と「家庭」の位置づけはどのようなものでしょうか。また、その中で自分らしく生きるための工夫や考え方についても、ぜひ教えてください。

田中

自分らしく生きるために重要なのは、「正しい意味でのプライドを持つこと」です。

松島

正しい意味でのプライド、というと?

田中

男性は「他人との競争に勝つことに価値を見出す傾向がある」と言われていて、これが「プライド」と誤解されることが多々あります。この背景には、高度経済成長期以降の学歴社会の中で、より高い収入、より良い生活を手に入れることが男性の価値であると信じられてきたことの影響があります。つまり、男性の競争心は「社会構造の中で男性が持たされがちな傾向」であって、本来的な性質ではないとも言えるのです。

一般論として、男性はプライドが高いと思われがちですが、他人との競争や比較から生まれるのはプライドではなく、見栄です。自分なりの仕事のやり方や家族の在り方に自信を持ち、その価値観を大事にできる状態が、本当の意味で「プライドがある」ということだと思います。自分らしい生き方を選ぶことには困難も伴いますが、自分自身が納得するまで、失敗しながら試行錯誤することが必要でしょう。

松島

他人と比較してしまうという点は、女性である私も共感します。田中さんはどのようにご自身のプライドを確立されたのでしょうか。

田中

僕は確かに育児にも時間を割いています。育児をしていない同業者に比べれば、仕事の時間が短いから業績も少ないし、研究者としては評価されにくくなります。でも、僕はそれらについて、本当に何とも思わないんです。同世代の僕と同じぐらいの研究者の人が、僕よりいい本を書こうが、いい論文書こうが、学会で褒められようが、気にしません。

 

とにかく今は家族が大事で、僕はそのことにプライドを持って取り組んでいます。仕事に譲れないプライドがあって、それについて家族の同意が取れるなら、仕事一辺倒な人がいても別にいいと思います。問題なのは、同意なく、「そのやり方が自分と家族にとってベストだ」と勝手に思い込んでしまうこと。せっかく家族がいるんだから、家族みんなで価値観を共有していくべきではないでしょうか。

松島

特定のワークスタイルや家族のあり方が良いということではなく、家族みんなが互いの考えを理解し、同意しているのが大事ということですね。田中さんは、家族間での理解を深めるために、どのような工夫をされているのでしょうか。

田中

相手の立場や苦労は、体験してみないと分からないこともあります。僕の場合は、子どもが1歳半くらいになったとき、妻に旅行を楽しんできてもらいました。子どもと僕しかいない状況をつくって、子どもの世話をすべて自分でやることの大変さを味わったんです。

 

仕事をしているときは自分の好きなときにトイレも行けるし、自分のペースでご飯も食べられる。けれども、1歳ぐらいの子どもが足にまとわりついていたら、トイレも自由に行けないし、寝たい時間にも寝られません。こんなふうに、仕事だけの毎日では見えてこない苦労、そして誰かの努力が、社会やくらしの中にはたくさんあると思うんです。

松島

夫婦の役割が切り離されていると、相手の苦労はなかなか理解できないと思います。どちらにとっても、課題を共有しながら相手の立場に立つことが必要ですね。

家族という言葉の意味を拡大していく

松島

ここまでのお話の文脈を踏まえつつ、最後にお聞かせください。田中さんにとって「理想の家族」とはどのようなものでしょうか。

田中

この答えはとても大事であると同時に、とても難しいと思います。かつては、「法律婚している異性愛者に子どもがいる」という、その一つのグループが家族だというイメージが一般的でした。今は、家族という言葉自体が大きく変わってきています。「理想はこうです」と定義してしまえば、そこに入らない人たちが排除されてしまう。家族という言葉は、その意味を狭めていくのではなく、これから拡大していかなければいけないと思うんです。

 

「理想の家族はどういうものか」を定めるよりも、いろいろな形の家族が、後ろ指を差されたり負い目を感じたりすることなく共存できる。そんな社会をみんなで目指していくことが、それぞれの家族にとって理想的なのではないでしょうか。

松島

「家族」の意味を拡大していく。これは社会にとって、とても重要なことですね。

 

田中さんとの対話を通じて、今後自分の家族のあり方を考える上での一つの道筋が見つかったような気がします。誰かと家族になることは自分らしさを犠牲にすることではなく、新たな自分らしさを見つけ出し、自分だけのプライドへと変えていく試みなのだと感じました。共にいることで一人よりも自由になれる、そんな関係性になれたら理想だなと思います。

田中

そうですね。僕の場合もそうですが、家族と向き合うからこそ得られる充足感や、見えてくることが、たくさんあると思っています。

松島

本日は素敵なお話をきかせていただきました。ありがとうございました。

Photo by 加藤 甫

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