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Better Relationships

理想の結婚ってなんだろう?
“婚活”から考えるこれからのパートナーシップ

相模女子大学大学院 特任教授
白河 桃子

東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、住友商事などを経て執筆活動に入る。2020 年 9 月、中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。内閣官房「働き方改革 実現会議」有識者議員などを務める。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする ミド ル人材活躍のための処方箋』(PHP 新書)など 25 冊以上がある。

q&d編集長
橘 匠実

奈良県出身。横浜国立大学卒業後、パナソニックへ入社。調達・宣伝業務に携わった後、2017年より同社の北米本社に駐在。2019年より現職。一児の父。TEDxKobe 2015-16 スピーチキュレーター。趣味は料理。

目次

信頼できるパートナーと結婚し、他人から家族になる。

 

「理想の家族」をつくる最初の一歩として、私は幼い頃から、そんな光景をイメージしていました。

 

しかし年月が経ち、なんとなく結婚を想定していた年齢に近づき、リアルに結婚について考えるようになると、漠然と「婚活しなくちゃ」という意識が芽生えてきました。そして、自分が本当に望んでいるのかもわからないまま、アプリやパーティーなどを通じて、パートナー探しを続けた――このような経験、焦燥感に心当たりのある方は、私以外にもいるのではないでしょうか。


 

今回の記事では、この「婚活」という言葉が過去10年間で社会にどのような影響を与えたのか。また結婚が当たり前でなくなる社会に、パートナーシップの形はどう変わるのか——これらの問いについて、じっくりと考えてみたいと思います。

「婚活」に明け暮れた1年を振り返って

今は結婚し、2歳になる娘もいる筆者ですが、かつて婚活に明け暮れていたことがあります。根拠なく「30歳までには結婚したいな」と思っていたことや、周りが結婚していくのを見て、寂しさや置いていかれるような感覚を覚えたことなどが影響して、結婚への焦燥感が芽生えたのだと思います。

 

「結婚したいなら、結婚するための努力が必要なのだ」と思い、婚活アプリを利用したり、婚活パーティに参加したりしました。焦りの気持ちからスタートしたものの、実際に始めてみると自分でも意外なほど婚活は長続きしました。

 

特にアプリは少しでも好条件のマッチングができるよう、プロフィール文章を何度も推敲したり、自分の顔写真をABテストで選んだりして、相手のリアクションを見ながら自己紹介ページのアップデートを重ねていきました。アプリの設計が良かったからか、更新するごとに様々な反応が返ってきて、仕事に疲れた自己の承認欲求が満たされていくのを感じました。

容姿・趣味・社会的立場などが良いとされる、好条件の相手とマッチングしたら食事に行き、合わなければまたアプリで相手探しを継続する……。持ち前のマメさも相まって、このような期間が1年以上続きました。

 

幾度となくプロフィールを更新し、チャットを続け、食事までこぎつける機会にはそれなりに恵まれたものの、結局ピタリとハマるような相手にはめぐり会えませんでした。

その後、友人の紹介で何となく出会った今のパートナーと結婚し、唐突に婚活への挑戦は終了したのでした。

 

婚活に明け暮れた時期から4年以上経った今、当時を振り返ってみると、「そもそも自分はなぜそこまで結婚したかったのだろう?」と思うことがあります。あえて言うなら、何となく仕事がうまくいかず、周りの友人が次々と結婚し、子どもを持つようになる中で、退屈な人生に何か変化をつけたくて、世間で注目される流行りに乗ったのではないかなと思います。

 

婚活とはなんだったのか?
なぜ婚活に熱中したのか?
そもそも自分は結婚がしたかったのか?

 

時間が経った今、こうした疑問を丁寧に振り返ることで、婚活、ひいては結婚、家族の姿について改めて考える機会にできるのではないかと考えました。この振り返りや調査を通して得た筆者の気づきが、 読者の方が自分にとっての理想のパートナーシップについて考えるきっかけになれば嬉しいと思っています。

そもそも婚活とはなんだったのか?

では、まず婚活という言葉の誕生から調べてみましょう。この言葉が誕生したのは、さかのぼること2008年。白河桃子さん、山田昌弘さんの共著『「婚活」時代』において、「結婚活動」の略称として、「婚活」という言葉が提唱されました。

 

同書では、「かつてのお見合い結婚にあったような結婚相手の選択における制約がなくなり、自動的に結婚できない時代が出現した」、「就職活動と同じように結婚相手を見つけるための“結婚活動=婚活”をしないと、結婚自体が難しい時代に突入している」といった論旨が、データと共に紹介されています。

事前に読み込んだ白河先生の著書『「婚活」時代』

この言葉は社会に強烈に受け入れられ、バズワードとして世間に定着。2009年には月9ドラマ『婚カツ!』が放映され、社会現象となりました。こうした背景から婚活は、当事者以外の多くの人も知る言葉となっていきました。

 

しかし、婚活について調べていくと、ブームの中でいつしか「婚活」という言葉は誤解されてきた、という事実が浮き彫りになってきました。では、本来伝えたかった意味とは一体どのようなものだったのか。

 

提唱者の白河桃子さん、山田昌弘さんは、その後の著書『「婚活」症候群」 』の中で、婚活の概念が提唱された2008年当時、女性は自分から結婚相手を探していることを宣言しづらい社会だったと指摘しています。

 

こうした状況に対し、著者たちは「婚活」という言葉を投げ入れることで、女性が主体的にパートナーを探していると打ち明けて良い社会をつくり、男性と対等に家族関係をつくれる社会に変化していくことを期待していました。さらに、関係性が対等になることで男性の収入だけを期待する昭和的結婚観を抜け出し、夫婦が両輪となって家計を築いていく新しい家族観を提案するきっかけにもつなげたい、という思いも込められていたそうです。

 

そのような想いとは裏腹に、婚活は「結婚というゴールに向けた競争」、また「好条件の異性の争奪戦」といった形で、社会に伝わってしまっていたことがわかってきました。

 

白河さんたちの著作を読み進めるにつれ、「婚活」という言葉が発案者の意図を離れ、勝手に解釈されて社会に広がっていった背景を知ることができました。何となく社会の空気に乗って婚活した私にとって、その空気自体が誤解をもとに広がっていったものだということに、少なからず戸惑いを感じました。

 

婚活の発案者である白河さんは、当時その様子をどのように感じていたのか。また、そこから10年以上が経ち、今の社会におけるパートナーシップをどのように捉えているのか。本人から直接話を聞くことで、これからの家族のかたちについて考えるヒントを得られるのではないかと思い、インタビューをお願いしました。

婚活は当たり前になった。でも結婚はもう当たり前じゃない

白河さんにインタビューを受けていただけることになり、改めて著書を読み込み、伺いたいことを整理して、事前に何度も質問内容を見返しながら準備をし、緊張しながら当日を迎えました。

 

どのお話から聞こうか悩みましたが、まずはかつて婚活という言葉を提唱したあと、それがどのように社会に広がったのかについて、白河さんの視点からどのように見えていたのかをうかがいました。

今回お話しいただいた白河桃子さん
白河 桃子さん(以下、白河)

婚活という言葉が生まれ、また誤解された当時、女性には高収入の男性に期待せざるを得ない社会的側面も多かったのです。例えば企業の時短勤務制度が定着しておらず、子供を産んだらフルタイムの仕事を辞めざるを得ないような状態がある中で、ダブルインカムで育児も仕事も、というのは正直難しかった。だから、婚活という言葉が、私たちの思惑通りに社会に定着しなかった背景も理解できます。提唱するには少し早すぎたのだな、と。

 

しかし今は、当事者達からの要請を受けて企業も変わってきていて、時短勤務制度は措置義務化となり、男性育休も徐々に実現しつつあります。社会は確実に、男女ともに働きながら子育てできる環境づくりにむけて動いていると思います。

当時は言葉の提唱で若者の価値観や行動は変わったが、それが望ましい方向に向かうには、まだまだ社会や制度が追いついていなかった。10年経ってそこもまた変わってきているということは、白河さんたちの願った、男女の対等な家族関係は実現に向かいつつあるのだな、と感じました。

白河

ただ、実は私、そもそも最近あまり婚活の話はしていなくて。なぜなら婚活の流行から10年以上が経ち、今はもはや結婚は当たり前ではなくなっているからです。有名な結婚雑誌のキャッチコピーにも、「結婚しなくても幸せになれる時代に、私はあなたと結婚したいんです。」というフレーズがありましたよね。

白河

「婚活」という言葉を提唱した2008年当時は、お見合いから職場恋愛、そして婚活へ     と、結婚相手を求める場所の変化が起きていました。けれども今は、そもそも結婚しない人も多いですし、海外を見渡すと同性婚、事実婚、拡張家族といった、多様なパートナーシップのあり方が広がっています。

 

そんな状況を踏まえると、もう「結婚しないでも幸せになれる社会」になってきているんですよね。しかし女性にとってジェンダー格差が大きな社会であることは事実。今は、環境整備としての働き方改革やジェンダーバイアスの解消などの様々な社会課題に取り組んでいます。

インタビューでは婚活の話を深掘りしたいと思っていたので、「実は婚活の話を今はしていない」と伺って、少し驚きました。しかし、男女の生涯未婚率が2割を超え、結婚が当たり前ではなくなっている事実がある中で、どのように結婚するかを追い求める「婚活」という概念自体が今の社会にそぐわなくなってきている……という白河さんの見解については、確かにそうかもしれないなと思いました。

「もう結婚が前提の社会ではなく、自分がなりたい姿に対する多様な選択肢が広がっている」と白河さんは続けて強調しました。確かにそれは自由で素敵な世の中です。その一方で、どう生きるのが正解かわからず、全てを自分が決めなくてはいけない、不明瞭な世の中であるようにも感じました。少なくとも私は結婚するまで、そもそも家族とは自分にとってどういうもので、どんな姿が理想なのか、考えるきっかけさえありませんでした。

誰かから与えられる「理想の家族」なんてない。ただ多様なパートナーシップがあるだけ

もし、私がぼーっと20年、30年と生きてきて、ある日これからどうしようかな?と思った時に「あなたには無限の可能性が広がっている!好きな生き方を選んでいいのだよ!」と言われても、何をどうすれば良いかわからず、困ってしまうのではないかと感じました。

 

自分のなりたいように、自由に決められるという状況は、希望であるようで、恐怖や困惑など感情も伴うものなのではないでしょうか。自分に芽生えた、なにかにすがりたい、すがれる目印がほしい想いをそのまま、「理想の家族はどうしたらつくれるのでしょうか?」という問いかけに乗せて、白河さんにぶつけてみました。

白河

その質問にお答えするなら、理想の家族はもうないのではないかと思います。データで見ても、50代の約2割は現在も未婚です。単身生活者は年々増加しているし、そもそも恋人の作り方が分からず私に相談してくる学生もいます。

 

間違いなくパートナーシップや家族の形は変化しており、結婚するのが当たり前の社会は、過去のものとなりつつあります。一人で生きても良いし、結婚しても良い。パートナーと結婚以外の関係を築いても良い。大切なのは、SNSやメディアが押し付けてくる、誰かにとっての理想を鵜呑みにしないことです。

思えば私が婚活を始めた時に感じていた閉塞感も、誰かが決めた幸せと自分の現状を比べたことで生まれたものであったように思います。数十年前に作られた当たり前の家族像がとっくに無くなり、その一方でもっと自由なパートナーシップの形があると気づけていれば、焦って婚活を始めることもなかったのかもしれません。

 

では、誰かによってつくられた理想像から離れ、自分が大切にしたい友人やパートナーを思いやり、心地よい関係を作っていくにはどう行動すればいいでしょうか。なにか大きな変化がないとそのような意識変革は起きづらいのではないかと思い、伺いました。

白河

社会が大きく変わる時期には、意識の変容も起こりやすいものです。例えば、いま社会変化の最大要因は、コロナウイルスでしょう。ステイホームが2年にわたって続く現在は、すべての人にとって我慢の期間であると共に、これまでの忙しい暮らしの中で十分に考えることができなかった家族やパートナー、友人について振り返ることができる期間であるようにも思います。

 

内閣府のデータでは「テレワークを経験して家族や周囲を大切にできるようになった」と回答している人が、そうでない人の2倍存在するなど、確かな変化も起きています。このステイホームが明けた後、誰に会いたいか、その人とどんな関係を築いていきたいか。今は自由に人に会えない時期がだからこそ、そういったことを一度落ち着いて考えてみるところから始めてはどうでしょうか。

自分たちにとっての心地よい関係ってなんだろう

婚活に明け暮れた1年は、いま思い返すと遠い過去のようで、自分にとっては思い出すことに恥ずかしさもありました。婚活の言葉の意味を調べ、白河さんにお話を伺いながら、当時を振り返る中で、なぜ自分にそういった感情が生まれていたのかも客観視できたように思います。

 

その背景には、誰かと自分の幸せを比べて劣等感を感じていたこと、また幸せの形が多様化する中で、自分にとっての幸せを考えられるだけの材料が無かったことがあったのかもしれないと感じました。

 

この記事を読んでくださった方には、ぜひ今回の特集テーマ「理想の家族ってなんだろう?」を、「私はどんな風に周囲の他者と向き合いたいだろう?」と読み替えて、自分たちにぴったりとはまる、心地よい関係を見つけてほしいと思います。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、白川桃子さんと婚活を通して結婚について考えた時のことをお話ししながら、 これからのパートナーシップについて改めて考えています。気になる方は、ぜひお聴きください。

Photo by 加藤 甫

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