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Lifelong Learning

「Hungry to Learn?」特集に寄せて

「学び」という言葉から、みなさんは何を思い浮かべますか?

 

人生100年時代が到来し、変化が激しい時代において、年齢やライフステージに囚われず、学び続けることの重要性が、以前にも増して謳われるようになりました。文部科学省がまとめた「平成30年度文部化学白書」でも、国民一人ひとりが生涯を通して学べる環境の整備や提供、それを生かしてさまざまな分野で活動できる仕組みづくりの重要性が説かれています。

 

一方で、いい大学や会社に入ること、周囲の期待に応えること、一つの決まった正解を導き続けるために教科書や参考書を広げた日々の苦悩を思い浮かべる人もいるかもしれません。大切なのは分かっているけれど、「学ぶことに抵抗がある」「勉強は我慢しながらやるべきもの」と感じ、大人になるとともに身近ではないものになってしまいがちです。

 

どうしたら自分の人生を豊かにする学びが見つけられるのか、健やかに学び続けるにはどうしたらいいのか。私たちはその一つの方法として、日々のくらしの中で学びを自然に取り入れる必要があると考えました。そんな思いから、q&dでは特集「Hungry to Learn?」を始めます。

 

今回「特集に寄せて」で足を運んだのは、東京・下北沢にある居住型の教育施設「SHIMOKITA COLLEGE(シモキタカレッジ)」。高校生や大学生、若手社会人が寝食を共に過ごし、互いの経験を持ち寄って学びを深め合う。そんな光景が日常的に生まれています。

 

SHIMOKITA COLLEGEで生まれている学びから、今回の特集を考えるヒントを得たい。そう考え、q&d編集部の松島茜と湊麻理子は、入居者の古谷仁子さんと松隈大地さん、運営母体である株式会社エイチラボ(HLAB)取締役COOの高田修太さんと対談。「人生を豊かにする学びとは何か」「くらしに学びを取り入れるためにどうすればいいのか」を一緒に考えました。

エイチラボ(HLAB)取締役COO
高田 修太

HLAB共同創設者。東京大学工学部、同院工学系研究科修了。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にて学生研究員として滞在。在学中、2011年にHLABを設立後、各地のサマースクールの立ち上げに携わる。大学院修了後はBoston Consulting Groupにて主に通信・デジタル関連、ビッグデータ関連の経営戦略策定をコンサルタントとして支援。2017年、非営利組織での経験とビジネス両方のバックグラウンドを生かし、HLABに復帰。2019年より現職。

カレッジ生
古谷 仁子

学習院大学 国際社会科学部1年。SHIMOKITA COLLEGEに高校3年生のとき入居。モットーは「明日が楽しみだと思える日々を過ごす」。

カレッジ生
松隈 大地

明治大学経営学部2年、現在休学中。「溢れ出した幸せをお裾分けできるように」を自分の軸に、教育やまちづくり関係のインターン活動などを行う。趣味は、日向ぼっことポエム。

目次

多様な他者との対話を通じて学び合う

湊 麻理子(以下、湊)

今日は、自分の人生をより豊かにするための「学び」について、SHIMOKITA COLLEGEでの実践をもとに議論させていただきたいと思っています。以前、q&dが開催したトークイベント「q&d Talk」でコラボした際にも、ここに住む学生さんと対談させていただきました。前回はオンラインでしたが、今日は直接お会いできて嬉しいです。よろしくお願いします。

高田 修太さん(以下、高田)

こちらこそ、よろしくお願いします。

SHIMOKITA COLLEGEでは、「多様な人々との関わりを通して、くらしを学びに変えること」をテーマに掲げています。このテーマに着目されたのはどういった理由だったのでしょうか?

高田

高校生だったときを思い出してください。学校の先生や親が言うことより、同級生や2〜3個上の先輩の話を真面目に聞いたり、参考にしたりしませんでしたか? もちろん、専門分野を極めた先生や先人の知恵や経験も大切ですが、学ぼうとする衝動を喚起するのは親や先生以上に、近い世代の仲間……SHIMOKITA COLLEGEでは「ピア」と呼んでいる存在だと考えています。

 

ただ、他者と一緒にくらしていたとしても、それだけでは交流する人や出会う人は固定されてしまうため、ピアを多様にすることが入居者の学びや成長につながるのではと考えました。

松島 茜(以下、松島)

そこからSHIMOKITA COLLEGEを着想されたんですね。

高田

はい。着想後、アメリカやイギリスの大学の学生寮を調べてみると、「多様な人と一つ屋根の下でともにくらすこと」を大切にしていて、「寮も教育機関の一部である」と定義されているんですね。イギリスでは、寮が「レジデンシャルカレッジ」と呼ばれているそうです。

 

そこでは、いろんな人とルームメイトになり、同じ場所でご飯を食べることで生まれる交流がある。「共にくらすこと」が学びにつながるかもしれないと知りました。最初は1週間のサマースクールで試験的に始め、準備が整ったところでSHIMOKITA COLLEGEをつくりました。

 

互いにリスペクトを持ち、近い世代の仲間から必要とされることで、人とのつながりをつくりさまざまなプロジェクトでの成功体験を生める場をつくりたい。家庭や学校と違った心地良さがあるサードプレイスにしたい。そう願ってSHIMOKITA COLLEGEを運営しています。

株式会社エイチラボ(HLAB)取締役COOの高田 修太さん

SHIMOKITA COLLEGEは、くらす空間でもありながら、家庭とは違う場所でもあるので、サードプレイスという表現はしっくりきます。松隈さんと古谷さんは実際にくらしてみてどう感じていますか?

古谷仁子さん(以下、古谷)

SHIMOKITA COLLEGEにいるとさまざまなプログラムに関わるチャンスがあるのですが、意外と自分の心に残っているのは、一緒に住む人と深夜3時まで話したことだったりしますね。学生の自分たちと年齢の近い社会人が同じ目線で話してくれる機会って、多くはないと思うのですが、SHIMOKITA COLLEGEはその機会にあふれていたのでとても新鮮でした。

松隈大地さん(以下、松隈)

自分より上の世代の先輩がフラットに関わってくれているからこそ、自分も下の世代にフラットに関われたらいいなと思うようになりました。この空間で学びの連鎖というか、恩送り的なものが自然と回っているような気がします。

古谷

16歳〜38歳までの人がくらしていますが、ほどよい年齢差と感じています。もう少し年齢が離れている人たちでくらすとなると、もっと構えてしまうと思います。話す機会も多いので、対話を重ねる中で、興味関心を見つけたり、ロールモデルを見つけたりできていると思います。

松島

今回の特集についての取材をする中で、学ぶ上では「憧れ」の感情が大切だけど、最近は誰かへの「憧れ」を抱きにくくなっている、という話を伺いました。「この人みたいになりたい」という感情を意図的に持つのは難しいというか、自然発生的に芽生えるものですよね。どうすればそのような対象に出会い、「憧れ」を持つことができるのか?を考えてみたいと感じたのですが、それがこのカレッジ内では設計されているような気がしました。

偶発性を織り込み、学びに「越境」を生む

他の特集の記事では、最新学習歴を更新していく「学習学」という考え方について伺いました。この取材では、学びにおいて「誰かと一緒に取り組む」ことの大切さについて伺ったのですが、SHIMOKITA COLLEGEでもそれは重視されている印象を受けます。他者と関わり、共に学ぶために工夫していることはどんなことがありますか?

高田

入口に入ってすぐに食堂があることで、家に帰ると誰かと話す機会が生まれやすくするなど、偶発的な交流や対話が生まれやすい空間設計はとても意識しています。他にもキッチンやラウンジなどの共有スペースは各フロアの居室への動線上に配置していますし、中でも「ランドリールーム」や「ライブラリー」などの機能は各フロアに分散させました。

2階の居住エリア前にある共有ラウンジ。ボードゲームや書籍があり、気軽に人が滞在する空間に。
各階に設置されている共有スペース
高田

また、「ハウス」という世代を超えたグループの単位を設けています。高校生や大学生、社会人が12~13人の単位で一つのハウスを構成し、一緒にご飯を食べたり、日々の振り返りの時間を取ったりするように促していますね。

古谷

ハウス単位で行われる日々のリフレクションの他にも、ランダムに組まれたペアが外にコーヒーを飲みに行く「コーヒーチャット」の文化や、俳句や料理、ビジネスに関連した部活動など、ピアと共通の話題を探す機会はたくさんあります。関わるための機会が多く用意されているので、くらしていると自ずと会話のハードルは下がっていきます。

高田

年齢差があると、最初は話しかけづらいこともありますよね。コーヒーチャットは解決手段の一つです。チャットアプリを使って毎週月曜日に自動でマッチングし、「今週はこの人とコーヒーチャットに行ってね」と提案しています。強制ではないのでスルーするのも自由です。

ハウスやコーヒーチャットといった仕組みや制度が強制でなくバランスよくあることによって、偶発的な交流や日々の振り返りが自然と行われているんですね。それによって、主体的な学びが生まれているのだと感じました。

高田

偶発性は、主体的な学びを生み出していく上で一つのキーワードだと考えています。加えて、「アジェンダ(目的)がない会話をどれだけ生み出せるか」が非常に重要だと思うんですね。目的が明確にある場では話す内容が限定され、それ以外の会話が生まれづらい空気感になってしまいます。コーヒーチャットなどの装置でアジェンダがない会話を多く生み出すことで、本当に個人の興味や関心に基づいた発言が出やすくなる。そうして自分にとっては未知な領域だったり、誰かが好きや興味について語る際の熱量に触れたりする機会、つまり“越境”が増えるほど、「こういう視点もあるのだ」と新たな学びが生まれるのだと思います。

松島

もしかしたら、学びは受ける側や提供する側も予想できないものなのかもしれませんね。「何が学びになるのか」は自分自身も分からないし、「こんなことは学びにならないだろう」と思っていることが誰かの学びにつながることもありそうです。

古谷

あとは損得感情や上下関係に捉われないマインドも、SHIMOKITA COLLEGEで学びが生まれやすい理由だと思います。ここでは「先輩だから教わろう」とか、「後輩だから教えよう」とか思って過ごしている人はいません。役割に縛られないからこそ、自分にとって未知な会話や空間が生まれ、高田さんが話す“越境”が起こりやすくなるのかなと。

写真左から松隈大地さん、古谷仁子さん

主体的になることで学びがより豊かに

松島

一人ひとりの主体性を重視しながらも、学び続けるための仕組みづくりを試行錯誤されている点が印象的でした。今回の特集でも、学び続けるための環境をどうデザインするかをテーマにした企画もあったので、つながるところが多々ありました。

松島

入居されている松隈さんと古谷さんの視点で見ると、偶発的な出会いや交流から生まれる主体的な学びは、学校で生まれるものとどのような違いがあると思いますか?

松隈

「自己理解」が深まるのが違いだと感じます。社会人や高校生など、大学生の自分が本来出会わないような人たちと対話する中で、普段は聞かれないことを質問されるんです。

 

問いに対して答えたり、振り返りをしたりする中で「自分はこう感じていたのか」と気づくこともあれば、逆に「違和感が残るな」となることもある。納得できる答えを見出そうとする日々を経て、だんだんと自分のことが分かり、学びに対して前向きになったように感じます。

古谷

「自己理解」は本当に深まりますね。一緒に住んでいるので、一つのプロジェクトが終われば解散ではなく、自分の変化を隣で見続けてくれる人がいる。ふとした瞬間に、「何か変わったよね、すごく成長したね」とフィードバックをもらうことで、自分がどういう人間なのか、将来は何をやりたいのかを深めていく大きな手助けになりました。

 

ここでは自己理解からアクションにつなげるサイクルが早いので、学校で過ごす1か月が、SHIMOKITA COLLEGEでの1週間だなと感じるくらいです。

「EdTech」と呼ばれる学びを助けるテクノロジーが発達していることからも、「英語」「数学」といった各教科を学習する効率は今後どんどん加速すると見込まれていますよね。そんな中では、教科書や参考書には載っていないことを学ぶ重要性が高まってくると思います。その一つが、お二人の言うように「自分はどんな人間なのか」「何に挑戦したいのか」といった自分の根幹に関わることなのかもしれないと思いました。

 

最後に、今日教えていただいたことを、ここに住んでいない人でもできる工夫を一緒に考えたいです。くらしを学びの場に変えるため、私たちが今日からできることは何だと思いますか?

古谷

難しいですが、一つ思いついたのは「等身大の自分でいること」です。心に余裕がないと自分のことで精一杯になりがちで、人と関わるのが難しく感じてしまう。関われたとしても、劣等感や焦りが邪魔をして素直に学びに変えられなくなります。だからありのままの自分を受け入れ、心に余裕を持つことが、くらしを学びに変えていくために必要な要素なのではないかと思います。

松隈

向上心と近いかもしれませんが、貪欲に学びをつかむスタンスも大事ですよね。学ぶ意欲があるだけで、聞く姿勢や問う力も変わってくる。ただの会話も対話になりうると思います。対話から普段は表に出ないような人の思いに触れると、知らなかった世界が一気に広がる気がするんです。そこから新しい自分を知ることで、主体的に学ぶきっかけにもつながると思います。

高田

たしかに、待っているだけでは、学びが豊かなものになりづらいですよね。一方で、いきなり知らない人に連絡したり、話を聞いてみたりするのはハードルが高い人も多いと思います。

 

なので、まずは自分が普段やっていることと違う何かをやってみるのはいいかもしれません。例えば、いつもと違う道で帰るとか、入ったことのないお店でご飯を食べるとか。ただ漫然と行うのではなく、その中で疑問や問いのアンテナを立てることが重要です。あとは学ぶ意欲さえあれば、新しい建物や風景に出会ったときに、きっと得るものがあるはずですから。

松島・湊

くらしを学びの場に変えるヒントがたくさん見えてきました。高田さん、古谷さん、松隈さん、学びにあふれたお話をありがとうございました!

「Hungry to Learn?」特集に寄せて

今回の特集企画にあたって初めに考えたことは、多くの人が「学ぶ」という行為に対して「他者に強いられるもの」「進学や仕事のためにしなければならないこと」といったバイアスを持っているのではないか、ということです。また、そのイメージが「学ぶ」行為の特別感につながり、日々のくらしの外側にあるように感じる原因にもなっていると感じます。

 

しかし、年齢や人生の段階に関係なく持続的に学び続けるには、食事や睡眠と同じように、もっと自然な形でくらしに学びを取り入れる必要があるはずです。今回取材させていただいたSHIMOKITA COLLEGEは、まさにそれを多様な人との共同生活で実践している例でした。

 

今回、紹介した「身近なロールモデルを見つける」「偶発的な出会いをくらしに取り入れる」「対話の繰り返しの中でリフレクションする」といった学びのポイントは、SHIMOKITA COLLEGEに入居する以外の方法でも取り入れられるのではないでしょうか。

 

今後公開されていく記事の中では、編集部員それぞれが自身の生活環境の中でこれらを実践し、「学び」を長期的な意味で人生の豊かさに変えていく方法を有識者の方々と共に考えていきます。ぜひ読者の皆さんも「学ぶこと」をくらしの一部として捉え直し、何か新しいアクションにつなげてもらえたら嬉しいです。今回の記事を読んで感じたことを、ぜひ「 #食べるように学ぶ」 をつけてシェアしてみてください。皆さんとの対話を楽しみにしています。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、居住型の教育施設「シモキタカレッジ」を訪ねたときのことを振り返りながら、人生100年時代の学びについて、改めて考えました。

photo by 加藤 甫

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