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「にわか」にこそパワーがある?
長谷川ミラさんと考える「エシカル×自分らしい」服の楽しみ方

Ethical Consumption

「にわか」にこそパワーがある?
長谷川ミラさんと考える「エシカル×自分らしい」服の楽しみ方

人や社会、地球環境に配慮した「エシカル」なファッションに関心はあっても、「なかなか自分ごと化できないな……」と感じている人は多いのではないでしょうか? 自分が好きな服を楽しみながらエシカルなファッションを実現する方法を、モデルの長谷川ミラさんと一緒に考えました。

ファッションモデル
長谷川 ミラ

1997年7月7日生まれ。南アフリカと日本のミックス。TVや雑誌での活動をはじめ、J-WAVE「START LINE」ではナビゲーターを務めている。イギリスの名門美大への留学経験があり、社会問題などをSNSで発信する、新世代を担うオピニオンリーダー。ビジネス誌「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022」受賞。

q&d編集部
朝倉 めぐみ

1997年生まれ。大学在学中、機械工学を学んだのち、フランス留学を経て、科学技術とアート・デザインの融合を目指す。パナソニック入社後、デザインリサーチに携わる。趣味は美味しいパンやお菓子を食べること。

 

目次

自分が好きな服、今の気分に合った服を楽しみながら、「エシカル」は実現できるの?

オンラインで簡単にモノが手に入る時代、それらのモノがどこでどのように作られているか、皆さんは気にかけたことはありますか? 私は社会人になってから「モノづくりは必ず誰かの労力があって成り立つ」「モノづくりは環境に大きな影響を及ぼす」ということを、あらためて強く意識するようになりました。

 

自分だけでなく、他者や地球にも思いやりを持ったくらし――そんな「エシカル消費」を実践していきたいと日々考える中で、とくにファッションとそれの両立には難しさを感じています。

 

最近は、地球環境や労働環境に配慮したブランドも増えてきています。そうした服を選んでいきたいという気持ちはあるものの、ちょっと値段が高くて手を出しづらい。今のトレンドを追いたい、いろんな服を好きに楽しみたいと思うと、ついついエシカルとは言えなさそうな服の買い方、選び方をしてしまう人も、多いのではないでしょうか。

 

そんな背景から、今回は「自分が好きな服、今の気分に合った服を買っても、エシカルでいられるのだろうか?」というテーマについて考えを深めるために、モデルの長谷川ミラさんの元を訪れました。

モデル活動と並行して社会問題に関する情報発信や、“Fashion goes green”をコンセプトとしたファッションブランド「Jam apparel」をプロデュースしているミラさんと対話しながら、「服を楽しむことと、エシカルであること」の両立のコツを考えていきます。

取材は、ミラさんが運営に携わる「um Cafe」で実施しました

ブルベ、イエベもエシカルの入り口? カギは「自分のスタイル」を見つけること

朝倉 めぐみ(以下、朝倉)

今日のファッション、とっても似合っていて素敵ですね! 何かこだわっているポイントなどはありますか?

長谷川 ミラさん(以下、長谷川)

普段からヘアアレンジやメイクでトレンドを入れつつ、洋服はベーシックなものを選んでいます。今日の服自体は「すごく環境にいい!」というアイテムではないのですが、会社としてサステナブルな取り組みに注力しているブランドのものです。部分部分でそういうエシカルなアイテムを取り入れつつ、靴やアクセサリーで見せ方を変えて、自分自身も楽しめるようなファッションをしていますね。

朝倉

毎年トレンドが変わることによって、新しい服が必要以上に作られたり、ついそれを追いかけて服を買いすぎたりして、なかなかエシカルにならないのでは……とも感じていて。ミラさんは、ファッションにおける「トレンド」のあり方って、どう思われますか?

長谷川

私は、問題があるのはエシカルにつながりにくい「大量生産・大量消費」のしくみであって、「トレンドがあること」自体に問題があるとは思っていなくて。

 

先ほど、朝倉さんは「トレンドを追いかけてしまう」と表現していましたが、「追うもの」というより、「自分を表現するための選択肢を提供してくれるアイデアの宝庫」だと捉えるといいのかなって感じています。

朝倉

アイデアの宝庫、ですか?

長谷川

そうです。トレンドを「追わなきゃ」って思っちゃうと、必要以上に買ってしまうこともありますよ。かといって、流行りの服は買わないと決め込んでしまうのも、楽しくないですよね。

 

だからバランスを取って「取り入れてもいいし、取り入れなくてもいい」くらいの気持ちで、時には流されていろいろ試しながら、自分に合ったスタイルを見つけていくのが大事だと思うんです。

朝倉

自分のスタイルの確立を目指して、トレンドはそのヒントとして捉えていけばいい、と。

長谷川

そうです。今あるファッションの定番って、元をたどればすべてトレンドから生まれているんですよね。ジーンズやスカートだってそうだし、捉えようによっては「サステナビリティ」や「エシカル」もトレンドのひとつと言えます。もちろん、個人的にはそれらが一時の流行ではなく、これからのスタンダードになってほしいとは思っているんですけどね。

朝倉

たしかに、分の定番が見つかれば服を長く大事に着られて、次々と買い替える必要がなくなりますね。「自分のスタイルを見出すために、トレンドからアイデアをもらう」という姿勢、大事にしていきたいです。

 

お話を聞きながらふと思ったのですが、ここ数年、パーソナルカラーや骨格診断を服選びの参考にしている人が増えていますよね。ああいった考え方も「自分のスタイルづくりの参考になるもの」と捉えると、エシカルにつながるアイデアと言えるのかな、と感じます。

長谷川

私はそういった診断は気にしないんですけど、それによって「自分に似合う服が分かる、その服を着ている自分の体も愛せる」ってなるんだったら、とても素敵なことですよね。飽きずに長く着られて、服を捨てることが減れば、結果的にそれは「服を楽しむことと、サステナブルであること」の両立につながると思います。

うわべだけでもいい? 自信を持って「にわか」から始めよう

朝倉

エシカル消費に対する温度差は人によってさまざまだと感じています。これからファッションの課題を解決していくためには、より多くの人が関心を持って消費行動を変えたり、企業が率先してエシカルな取り組みをしたりする必要があると思います。ただ、現状ではエシカル消費に対する人々の関心はまだ薄く、意識が高い人たちだけの話になってしまっている印象があって、少しモヤモヤしています。

 

ミラさんはSNSなどで、エシカルファッションをはじめとした社会課題にまつわる投稿を積極的にされていますよね。どのようなコミュニケーションをしたら、周囲の人たちの関心を高めつつ、一緒に考えてもらえるようになるのでしょうか。

長谷川

そうですね……実は私、そもそもエシカル消費に興味がない人に「皆にとって大事なことだから、無理にでも興味を持って!」とまでは思っていないんですよ。

朝倉

えっ、そうなんですか?

長谷川

たとえば、アイドルに興味がない人に「アイドルめっちゃいいでしょ!」と押し付けてもなかなか刺さらないし、かえって距離を取られてしまったりもしますよね。だから、これは個人のスタンスですが、「興味を持ってくれる人を増やそう、皆に関心を持ってもらおう」ってニュアンスで発信はしなくてもいいかな、って。

 

とある本に「人口の3.5%が動けば、社会は変わる」と書いてあって、このフレーズにとても共感してるし、希望を感じているんです。今までの歴史を振り返ってみても、ごく少数だけど確実に信念を持った人たちが、世界の流れを変えるようなムーブメントの起点になっていることって、多いと思うんですよね。

朝倉

3.5%、言われてみると納得感があります。

長谷川

もちろんいっぺんに全員が全員、エシカルに興味を持ってくれたら最高ですが、今まで発信をしてきた経験からも、それは現実的ではないなと感じていて。だから、私は社会課題について発信する時は、その3.5%の人たちをどうエンパワーメントしていくか、ということを念頭に置いています。

 

そして、本質的な理解や理念を持って活動していく層とは別に、うわべだけでもいいから、トレンドとしてエシカルやサステナブルを取り入れてくれる「にわか」の存在もとても大事だと思っていて。

朝倉

うわべだけでもいいのですか? 最近は「グリーンウォッシュ」といった言葉で、うわべだけ取り繕ったサステナブルにまつわる取り組みなどが、たびたび批判されていたりもしますよね。

長谷川

企業の取り組みになると影響力も大きく、さまざまな価値判断が絡んでくるので難しいところもありますが……個人がどうすれば「エシカル」なのかって問いに、唯一の正解があるわけじゃないと思うんです。

 

それこそうわべだけでも、何もしないよりはいいこともたくさんあるはずで。むしろ、みんな最初は「うわべだけのにわか」がスタートじゃないですか。そこを否定したら、何も生まれないし始まらないですよね。

 

私はまず、うわべでもいいから、エシカルやサステナブルが「かっこいい」と思ってほしい。言わば「にわかなエシカル層」が増えることを願って、「どうこの服、イケてるでしょ?」といった投稿も意識的に合わせてやっています。

朝倉

「“うわべだけのにわか”でもいい」という言葉、とても響きました。そう言われると「それでもいいんだ」って気持ちが楽になりますね。

長谷川

いいんですよ、それで。今の時代、専門家はたくさんいて、皆さん各々の言葉で発信しています。彼らから見れば、私だってにわかですしね。

 

でも、そんなにわかが、今の日本には足りてない。ムーブメントの初動をつくるのは3.5%だけど、それを盛り上げていくのは、キャッチーなにわか層ですから。

 

私はそうした「にわか」層の代表として、本質的な理解とは別のところでも、感覚的な「いいね、素敵だね」という共感を集めて、エシカルファッションを盛り上げていきたいなと思っています。

「これ、どこで誰が作ってるんだ」って語れるの、クールじゃない?

朝倉

ミラさんはエシカルであることはもちろん、ファッションにおける直感的な「楽しさ」を、とても尊重されているんですね。

長谷川

そうですね。小難しいことは抜きにして、まずは「ファッションが楽しい、素敵だ」という感覚を持てることは、何より大事にしています。

 

ファッションでハッピーになったり、メンタルが整えられたりすることがある。そういった「ファッションの力」を実感することが、とくに10〜20代では大事だと思っていて。その入り口に立つ意味でも、買い求めやすいファストファッションから入ることは、間違いじゃないと感じています。

 

そのうちの何百人に一人かでも、ファッションをどんどん追求していくうちに、作り手の背景にも興味を持つ人が出てくるはず。それは、ほんの一部でいいんです。そのほんの一部が、世界を変えていく原動力になりますから。

朝倉

お話ししながら、「自分らしいファッションを楽しみたい」という欲望と真摯に向き合い、自分の「好き」を真剣に考えることが、結果的にエシカルファッションにつながるのではないかと感じました。

長谷川

そう思ってくれたのなら、とてもうれしいです! 今回はファッションのことをメインに話しましたが、「好き」の対象は食でも映画でもアニメでも、何でもいいんですよね。

 

たとえば、いま使っているスマートフォンのメーカーがどのような取り組みをしているのか。いま着ている洋服の原材料や、よく行くコーヒー屋さんのコーヒー豆はどこから来ているのか……

朝倉

できあがったものが簡単に買えてしまうし、見ようとしないと見えない情報だから、なかなか「どこかで誰かが作っている」って意識を持ちづらいですね。

長谷川

そこで「好き」という感情がカギになってくるんです。興味を持って、もっと知ろうとする原動力になるから。好きを増やし、集め、広げながら、日常生活の中でちょっとした疑問をキャッチしていくと、世界の見え方も変わってきて、自然とエシカルな行動に近づいていく気がします。

 

それに、自分の使っているもの、食べているものについて「これはどこで誰が、こういう思いを込めて作っていて、すごくリスペクトしてるんだよね」って語れるのって、愛があってめっちゃクールだなって、私は思うんです。エシカルはカッコいいんだってこと、もっと伝えていきたいし、表現していきたいですね。

朝倉

私はミラさんの言葉やスタイル、とてもカッコいいなと感じています!

長谷川

ありがとうございます、ちょっと照れますね(笑)。私も本当に日々、トライアンドエラーの繰り返しなんです。その時は正しいと思ってやっていても、あとあと「ちょっと違ったかもな……」って反省することは少なくないです。

 

でも、そういう完璧でないところも、プロセスを含めてちゃんと見せていきたい、見せなきゃなって。正解がない、だから「何もしない」ってなっちゃったら、前に進めないから。

 

昨日までの当たり前に縛られずに考え続けること、その上で試行錯誤をやめないことが、エシカルな世界を目指す上で、一番大事なことかもしれませんね。これからも皆さんと一緒に、失敗も成功も共有しながら、よりよいあり方を探していきたいです。

 

「にわか」と「好き」が生み出す小さな力を信じて

皆さんは「にわか」という表現にどんなイメージを持っていましたか? 私は「一時的に流行に合わせて盛り上がるだけ」というような、否定的なニュアンスを感じていたところがあります。その認識が、ミラさんとの対話を通して、大きく変わったような気がします。

 

エシカル消費と向き合うと、自分の影響力の小ささへの無力感やストイックに取り組めないことへの罪悪感を抱くことがあります。そんな時でも「にわか」の力、自分の「好き」から生まれる小さな行動の力を信じていられたら、よりポジティブにエシカルなファッションを追求できそうです。

 

ファッションに限らず、好きなものの背景を知り、消費や応援で行動につなげ、さらに興味がある人へその輪を広げていく。そういうサイクルをつくっていくための軽やかな試行錯誤を、これから一個人としても、一社員としても、繰り返していきたい――ミラさんの言葉を受け取って、いま、そんな気持ちでいっぱいです。

皆さんのファッションにおける「自分らしいスタイル」って、どんなものでしょうか? 持っているアイテムの中で「誰がどのように作ったのか」を知っているものはありますか? 本記事の感想と共に、ぜひ「#欲しいとエシカルのあいだ」を添えて投稿してみてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、モデル活動と並行して社会問題に関する情報発信をされている長谷川ミラさんを訪ねたときのことを振り返りながら、ファッションを楽しむことと、エシカルであることの両立について、改めて考えました。

photo by 吉野 莉南

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