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エシカル消費は、誰のため?
「積極的に取り組もうとは思えない」私とあなたのための、エシカル入門

Ethical Consumption

エシカル消費は、誰のため?
「積極的に取り組もうとは思えない」私とあなたのための、エシカル入門

「いいこと」であるとは思いつつ、エシカル消費に積極的に取り組めていない人は多いはず。その理由はさまざまだと思いますが、「我慢を強いられること」あるいは「自分を犠牲にして、何かに貢献すること」というイメージも、エシカル消費の実践を妨げる一因になっているのではないでしょうか。そんなイメージを更新し、「はじめの一歩」を踏み出すための方法を考えます。

パナソニック株式会社 デザイン本部 インサイトリサーチャー
藤川 恵美

イギリスのRoyal College of Art 修士課程修了、同大学院Helen Hamlyn Centre for Designの研究員、オランダのPHILIPS Designで医療関連のインタラクションデザインに従事後、インドのArsha Vidya GurukulamでSwami Dayananda Sarasvati jiに師事しサンスクリット語とヴェーダーンタを学び、慶應義塾大学院メディアデザイン研究科特任講師を経て、2017年にパナソニックに入社。現在はパナソニック株式会社デザイン本部にてインサイトリサーチャーとして勤務。

q&d編集部
高山 将一

栃木県出身。東北大学工学部で化学を専攻。化学会社を経てパナソニックに入社。ディスプレイ部門(プラズマ、液晶)、アグリ部門(レタス工場)、電子部品部門の開発に従事。働く人がいきいきと仕事に携わることの重要性を体感して、人と組織に関われるDEI推進業務に職種転換。趣味は野菜づくりと、スポーツ化したサバイバルゲーム(日本一を2度経験)。温厚な小学校5年生の息子が熱狂的な阪神タイガースファンになり、不思議に思う今日この頃。

目次

エシカル消費に積極的ではなかった私が、この企画に挑む理由

消費者庁のホームページによれば、エシカル消費とは、「人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと」とされています。「誰か(何か)のための消費行動」と言い換えてもいいでしょう。

 

日本、あるいは世界の一員として、あるいは未来を担う子どもを持つ一人の親として、エシカル消費がとても重要なアクションであるという認識は以前から持っていました。しかしそれでも積極的に行動に移せていなかったのは、私自身が「エシカル消費には『我慢』や『自己犠牲』が付きものである」という認識を持っており、それらを敬遠する意識があったからだと思っています。

 

とはいえ、「どうでもいい」と思っているわけではありません。もしかすると、その重要性は認識しつつもエシカル消費を実行できていない、私のような人はたくさんいるのかもしれません。そんな「私たち」がエシカル消費に興味を持ち、アクションに移すためにはどうしたらいいのでしょうか。

 

そのようなことを考えている中で、「エシカルノート」の存在を知りました。エシカルノートとは、エシカルな行動を実践し、その行動から得られた感想や気付きなどを記すことによって、学びを得るための取り組みです。

パナソニックのデザイン部門で行っていたFLUX Immersive research(2021年)の取り組みでつくられたエシカルノートのフォーマット。実践したことや、チャレンジしようと思った理由、感想、得られた気付きなどをまとめる欄が用意されている。

行動に躊躇している自分でも、エシカルノートを実践することで、エシカル消費に対する向き合い方が変わるかもしれない。正直、「実践してみても、エシカル消費に対する向き合い方は変わらないかもしれない」という不安も感じていました。悩んだ結果、思い切ってチャレンジすることに。

 

せっかくなら、エシカルノートの実践を通して私の中に起こった変化と、そこから得た気付きをしっかりと言語化したいと考え、エシカルノートの実践経験がある藤川恵美さんと、エシカル消費をめぐる対話を実施。エシカル消費に対して「いいことだとは思うけど……」と煮え切らない思いを持っている、以前の私のような方にこそ読んでいただければと思います。

実践を通して気付いた、エシカル消費の「ホントのところ」

高山 将一(以下、高山)

エシカルノートを実践するにあたり、2週間という期間で取り組むことを選ばなければいけなかったのですが、まずこれを選ぶのに苦労しましたね。

悩みつつも、「地元でとれた野菜を取り扱う八百屋さんで買い物をする」「牛乳の代わりにオーツミルクを飲む」「マイバッ、マイボトルを使う」「ヴィーガンクッキーを食べる」などを実践しました。

藤川 恵美(以下、藤川)

2週間の実践、おつかれさまでした。何か印象に残った取り組みはありましたか?

高山

まず思い出すのは、ヴィーガンランチを食べたことです。以前からヴィーガン食は気になっていたのですが体験したことはなかったので、この機会に食べてみようと思ってトライしてみました。

藤川

何か気付いたことはありました?

高山

元々野菜が好きなので、まったく抵抗なく楽しめたのですが、日常的にお肉や魚をとっている身としてはやはりちょっと物足りなさを感じましたね。

 

ただ、このランチを食べた日の夕飯は普段通りの食事で、おかずの一品としてサバをいただいたのですが、なんだかいつもよりおいしい気がしました。それに、それまではあまり抱くことのなかった「命への感謝」が自然と湧いてきたんです。

 

ヴィーガンランチを食べなければ、そういった感覚を抱くことはなかったと思います。現段階ではすべての食事をヴィーガン食にしようとは思いませんが、命への感謝を忘れないためにも、定期的に取り入れていきたいと思いました。

藤川

実際に試してみたことで新たな発見があったんですね。ヴィーガン食を生活に取り入れるとしたら、まずは“小さく”始めてみるのがいいと思います。「ミートフリーマンデー」といって、毎週月曜日はお肉を食べないようにする取り組みをしている人も増えていますね。他に印象に残っている取り組みはありますか?

高山

エシカルな製品を取り扱うポップアップショップに立ち寄った際、卵と小麦が使われていないクッキーを購入したことが印象に残っています。

藤川

印象に残っているのはどんなことでしょう?

高山

購入したクッキーは、それほど大きいわけでもないのに、1つで500円したんです。正直、ちょっと高いなと思いましたし、購入した瞬間は値段に見合う価値は感じられませんでした。

 

でも、あるときテレビを観ていたら、ヴィーガンスイーツの職人さんに密着した番組がやっていて。普段なら流し見していたかもしれませんが、エシカルノートを実践していたこともあって、じっくり観ることにしたんです。そしたら色々と発見がありました。

藤川

発見というのは?

高山

それは、ヴィーガンクッキーがあることで、アレルギーのある方でも「みんなで一緒に同じものを食べられる」ということ。卵アレルギーや小麦アレルギーを持っている方は、通常のクッキーを食べることができず、一人だけ「みんなと違うもの」を食べなければならない。ですが、卵も小麦も使っていない製品なら、みんなで同じものが食べられる。そういった体験を提供できるんだと知りました。

藤川

動物の命を犠牲にしていない、あるいは身体にやさしいということもヴィーガン食品の特徴の一つかもしれません。ですが、特徴はそれだけでなく、みんなで体験を共有できること、言い換えれば「インクルーシブであること」も見逃してはならないポイントですよね。

高山

知らず知らずのうちにとっていた、自分のエシカルな行動にも気付けました。

 

私はさまざまな年代の方々と共同で畑を借りて、野菜をつくっています。その畑では肥料として馬糞を使っているんです。畑の近くに乗馬場があるのですが、その運営者にお話を聞くと「馬糞を廃棄するのにもお金がかかる」と。それであれば私たちが引き取って、肥料として使ってみようということで、無料で提供してもらっているんです。

高山

正直、エシカルノートを始めるまでは、「無料で肥料が手に入ってラッキーだな」程度にしか思っていませんでした。日々の取り組みに注意深く目を向けるきっかけを得たことで、何気ない行動でも「どんな点がエシカルなのか」を考えるきっかけになりました。

 

廃棄費用がかからないことは、乗馬場の方にとって大きなメリットでしょうし、ゴミになっていたはずのものを再利用しているという点で、環境負荷の削減にも寄与できていたんだなと。

藤川

お金をかけて捨てていたゴミが肥料になり、環境への負荷を下げるとともに、野菜づくりにも活用されている。すごくいい循環ですよね。

高山

そうなんです!知らず知らずのうちに、「三方よし」なことをやっていたのだなと思って、なんだか充実感を得たんですよね。

「何かに貢献すること」が、健やかな暮らしをつくる

藤川

「充実感」という言葉が出ましたが、なぜ充実感を得たのでしょうか?その充実感をもう少し具体化するとしたら、どんな言葉になりますか?

高山

そうですね……「自己肯定感」でしょうか。人にも環境にもいいことをしている自分を肯定する気持ちなのかもしれません。

藤川

とても重要な点だと思います。「エシカル消費」とは、環境や「見知らぬ誰か」のための行動であるという認識を持っている方は多いと思います。もちろん、それも間違っていないのですが、環境や他者に貢献していることを実感できたとき、私たちは自己肯定感を得る。エシカル消費を続けていくための動機になると思いますし、エシカルな行動を通じて自己肯定感を高められるという事実は、多くの人に知ってもらいたいことの一つです。

高山

健やかな暮らしを送るためにも、自己肯定感は重要な要素ですよね。

それぞれのくらしを送っている複数の人でエシカルノートに取り組み、その内容を共有することは、気付きや学びを深めることにつながります。同時期にエシカルノートに取り組んでいた、q&d編集部の元インターン生である大学生の安西さんにも、その気づきをシェアしてもらいました。

安西 咲百合(以下、安西)

私もエシカルノートにチャレンジする中で、自己肯定感が上がったと思います。今回、7つの取り組みをしたのですが、その一つに本来ならゴミになる野菜のヘタなどを使って再収穫を楽しむ「リボーンベジタブル」があります。リサーチをする中で、コップで野菜が育つ写真を見て「かわいい」と思ったのでやってみたんです。

 

ネギのリボーンベジタブルに取り組んで、1日に何度も水を替えるうちに、なんだか子どもを育てているような感覚になって(笑)。「手がかかる子ほどかわいい」じゃないですけど、すごく愛着が湧いたんです。2週間ほどで自重で折れてしまうほどに育ってくれて、母が料理に使えると喜んでくれましたし、自己肯定感が上がったのを覚えています。

藤川

ちょっと手を抜くとすぐに枯れてしまいますし、植物は本当に素直ですよね。それだけしっかり育ったという事実が、安西さんがかけた手間暇と愛情が十分だったことを証明していると思います。「自己肯定感が上がった」とのことですが、その理由をどのように感じていますか?

安西

もちろん、母のためになったことも一因だと思いますが、何より手間や努力がネギの生長につながっているのを実感できたことが大きいと思っています。「私が水を替えなければ、このネギは枯れてしまう」と思いながら世話をしていて、その努力が実ったことで自己肯定感を感じられたのだと思っています。

はじめの一歩は「誰かのため」ではなく、自分のために

藤川

改めて、エシカルノートの実践を振り返ると、どのような学びがありましたか?

高山

この企画に参加する前は、エシカル消費には自己犠牲が付きものだと思っていたんです。たとえば、「エシカルな製品をつくるにはコストがかかるためどうしても値段が高くなり、購入者の経済的な負担になる」と考えていました。だからこそ、これまではエシカル消費に踏み込めなかったのだろうと思います。つまり、地球環境や見知らぬ誰かのために、自分を犠牲にできる自信がなかった。

 

もちろん、自己犠牲がまったく必要ないわけではないと思います。ときには何か——たとえば、「便利さ」など——を犠牲にしなければならないこともあるでしょう。でも、エシカルノートに取り組んでみて気付いたのは、「エシカル消費が自らの欲求を満たすことにつながる場合もある」ということ。

 

先ほど触れた馬糞を利用した野菜栽培を例にとると、私は馬糞を提供してくれる乗馬場の方や、一緒に畑をやっている年代がバラバラな仲間たちとのつながりに大きな価値を感じています。だからこそ、「馬糞を肥料として利用する」というエシカルな行動を続けられているのではないかと思うんです。

 

「自己犠牲を払ってでも、何かに貢献したい」という思いから一歩目を踏み出すのは難しいかもしれませんが、自分自身の「楽しさ」や「喜び」につながることならすぐにでも始められるでしょうし、続けていけると思いました。

藤川

自らの行動の中にある「エシカルさ」、つまりは「何かへの貢献性」に気付くことが、取り組みを継続するためのきっかけになることがあると思っています。高山さんの畑での取り組みは、その好例ですよね。「エシカルな行動をしよう」と思っても、なかなか始めにくいと思うんです。一方、日常的な習慣の中に「エシカルな行動」を見出すことができれば、すでに習慣になっているわけですから、それを続けるのは難しいことではありません。

 

もちろん「習慣を見直してみたけど、現段階ではエシカルな行動をとれていなかった」という人もいると思います。そういう人は、まず自らが置かれている状況を俯瞰してみるとよいのではないでしょうか。そうすると、自分が社会や自然の一部だということに気付くはず。

行動したときに感じた「自分の気持ち」が、最大のモチベーションになる

高山

でも、日常の中で「自分も社会や自然の一部だ」と気付くことってなかなか難しいですよね。

藤川

おっしゃる通りですね。だからこそ、日常に、自分にとっての「非日常」を取り入れることをおすすめしています。たとえば「ヴィーガンランチを食べること」は高山さんにとっては非日常だったと思うんですよね。それを取り入れたことによって、気付いたことがあった。

 

普段は使っていないエシカルコスメを買ってみるなど、何気なく過ごしている日常にほんの少し非日常のエッセンスを入れることによって、徐々に視野は広がっていくと思います。「エシカル」という言葉にとらわれる必要はありません。まずは「いつもと違うこと」から始めてみるといいと思います。

 

そしてこれまでのお話にあったように、行動してみて感じた自己肯定感の高まりや、充実感が、行動を継続するための大きなモチベーションになる。「やらないよりやった方がいいな」程度の気持ちでもかまいません。何より大切なのは、「行動をしてみて自分がどう感じたのか」を知ること。だから、振り返ることが大事なんですよね。

高山

エシカルノートを書くことを通してさまざまな学びを得ましたが、こうして藤川さんとお話したからこそ得られた気付きがたくさんあるので、振り返りはとても大切だと実感しています。もちろん、こうやって誰かと話すことも大切だとは思いますが、振り返りは一人でもできそうですね。

藤川

そうですね。まずは行動してみる。その行動は誰かと共に行ってもいいでしょう。そして、その行動を振り返る時間を取り、じっくりと自分の気持ちに向き合ってみる。それが「私たち」のための、更なる行動につながっていくのだと思います。

日常から一歩はみ出し、はみ出した自分の気持ちを観察してみる

自己犠牲を払って、未来の地球や見知らぬ誰かのために行動すること——それが、私がこの企画に参加する前、「エシカル消費」に対して抱いていたイメージです。エシカルノートを書くために、さまざまなアクションをし、藤川さんや安西さんとの対話を通じて振り返りを実施した今、そのイメージは大きく変化しました。最も大きな気付きは、「エシカル消費は、『未来』や『誰か』だけではなく、自分にも大きなメリットを提供してくれる」ということです。

 

藤川さんがおっしゃっていたように、「エシカルな行動をしよう」と思ってアクションを始められる人は稀でしょう。でも、自分の好きなこと、あるいは興味のあることなら、比較的簡単に始められると思います。私であれば「目新しさを感じること」、安西さんであれば「かわいいと感じること」が、エシカル消費の入り口になっていました。

 

そうして始めた行動は、ときに暮らしを豊かにする大きな価値をもたらしてくれます。「自己肯定感」は、その一つでしょう。まずは自分のために一歩を踏み出してみる。その一歩が、いつしか遠い未来や、世界のどこかにいる誰かのためになるのかもしれないと感じました。

 

この企画への参加自体が、私にとっては「日常からはみ出す行為」です。藤川さんがおっしゃる通り、非日常を取り入れることが、行動を変えるきっかけになることを実感しています。みなさんも、日常のルーティーンから少しはみ出してみませんか?

皆さんは、どんなアクションからエシカル消費の「はじめの一歩」を踏み出したいと思いますか?ぜひ、本記事の感想と共に、ぜひ「#欲しいとエシカルのあいだ」を添えて投稿してみてください。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、パナソニック社員が実際にエシカル消費にチャレンジして得た気づきを振り返りながら、私たちがエシカル消費をより身近に感じ実践していくにはどうすれば良いのかについて、改めて考えました。

photo by 川島 彩水

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