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Lifestyle for Planetary Good
q&d編集部

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家庭から世界につながり、子どもたちが多様な豊かさを知る。
「つながる地球儀」に込められた想い

「わたしたちのウェルビーイングのためのハッカソン2021」に参加し、世界中の子どもたちが好きなものでつながるというコンセプトのオンラインコミュニティ「つながる地球儀」の実現に取り組んでいる亀川豊親さん、山田朋子さん。

この地球儀のコンセプトを考えたチームの子どもたちへの教育の考え方に触れられたら、「地球とわたしにやさしい日々の過ごし方」のヒントが得られるのではないか。そう考えた編集部は、二人にお話を伺いました。

亀川豊親

2020年、息子とルワンダのオンラインベビーシッターサービスを利用したことで、家庭から世界とつながる可能性を知る。2021年、オンラインでこどもたちと接するノウハウを学習するため、オーストラリアの保育園へオンライン保育研修。妻が英会話教室を運営しており、その生徒が外国人と交流できるよう、kamehouseという宿を運営。さらに、お互いの国を行き来できるよう、旅行会社を設立準備中。

山田朋子

ONE-Table合同会社代表 暮らしの中の本質的なゆたかさに注目し、食文化を中心により上質な暮らしの提案をすることを 目的とし 2012 年より活動。地域の歴史や風土に根付いた暮らしを、農業、地域の食材・食文化な どを中心に、今の時代に添った形として、先端技術なども繋いで社会に提案し取り組んでいる。地 方自治体や食品メーカー、商社、料理人、食品免疫研究者などと共に、国内外でのプロモーショ ン事業、イベント企画運営や商品開発、書籍の出版企画など主に黒子としてコンセプト作りよりサ ポートしている。2018 年に合同会社として法人化。

目次

オンラインで子どもたちの偶発的な出会いを生みたい

パナソニック主催の一社として、2018年から「わたしたちのウェルビーイングのためのハッカソン」を開催しています。

 

参加者が考えたウェルビーイングを実現するアイデアの進化・共創を通じて、「生き生きとした豊かなくらし」の糸口を探ることを目指した同ハッカソン。これまでに、スタジアムに来場した観客とスポーツチームをつなげることを目的とした、アプリ不要のライブ音声配信サービス「CHEERPHONE」などのアイデアが生まれました。CHEERPHONEは2021年度内にスポーツ事業者への販売を達成するなど活動が前進しています。

 

「わたしたちのウェルビーイングのためのハッカソン 2021」には、太田直樹さん、ドミニク・チェンさん、太刀川英輔さん、藤井靖史さんなど、そうそうたる方々がメンターとして参加。豪華なメンター陣が参加したハッカソンに、亀川さんと山田さんの「つながる地球儀」チームも参加していました。

 

二人はハッカソンに参加する前から、「つながる地球儀」のコンセプトを着想し、「つながる地球儀Week」というプログラムを開催するなどの活動を始めていました。この「つながる地球儀」の活動は、どのようにして生まれたのでしょうか。

亀川豊親さん(以下、亀川)

妻が英会話教室を運営していて、その生徒が海外の方々と交流できるようにkamehouseという宿を運営するなど、子どもたちに学びを提供しようと、若狭でいろいろな取り組みを行っています。

 

2020年に日本でルワンダのオンラインベビーシッターサービスを利用したことから、宿で実現していたように世界の人々に日本に来てもらって交流するだけじゃなくて、オンラインで子どもの子どもたちが世界とつながるきっかけを提供できるのでは、と考えるようになったんです。

 

それで、当時話題になっていた音声SNS『Clubhouse』を通じて、『自分が経験したようなことを世界に広げていきたい』という思いを伝えていたところ、いろんな人と出会うことができました。それが『つながる地球儀』の生まれるきっかけになっています

「少し補足しますね」と山田さん。山田さんは、亀川さんの配信を聞いて共感して以来、亀川さんのやりたいことを翻訳するような役割として「つながる地球儀」に関わっているといいます。実は、まだリアルでは会ったことがないとか。お二人の雰囲気からはとてもそうとは感じられず、驚きました。

山田朋子さん(以下、山田)

亀川さんは、お子さんがルワンダのベビーシッターさんとオンラインで交流することにより、お子さんの心境に大きな変化があったと感じたそうなんですよね。

 

亀川さんは、そういったつながりによって子どもたちの世界が広がるようにするにはどうしたらいいだろうかと考えて、その思いをClubhouseで語り始めました。私はその思いに共感した内の一人です。

 

大人になれば、自分の興味関心は自分で見つけられるようになります。ただ子どもは、まだ自分が何に関心があるのかわからないですよね。そんな子どもたちのために、世界とつながる選択肢を増やして、普段のくらしでは生まれにくい偶発的な出会いを生み出せたら。そんな思いが『つながる地球儀』の活動につながっていきました

ハッカソンに参加より前に、議論を重ねて実現したい価値が明確になっていたという二人。しかし、「つながる地球儀Week」などの活動を始めながらも、技術的にどう実現するかは具体的になっていなかったことから、ウェルビーイングハッカソンへの参加を決めます。

対話を重ねて「地球儀」のイメージを具体化

二人が実現したいと考えていたのは「身の回りにはない、つながりにくいものとの偶発的な出会い」でした。最初は、子どもたちが世界中に友達をつくれるようにと、オンラインビデオ会議ツールやオンライン英会話のようなサービスを提供することを思い描いていたそうです。

山田

私たちは『子どもたちが自分から世界に目を向けるって、どういうことなんだろう?』という問いを共有し、実現すべき価値について議論していきました。

 

ある時、『大人にとって地球儀は青いものだけど、子どもにとっても同じである必要はないのでは?』という話になりました。議論する中で、私たちが実現したいのは、既存のオンラインツールのように人をつないで線にするだけでなく、つながりがメッシュ状に広がって面になっていくようなコミュニケーションだと気づいたんです。

 

子どもたちが自分なりの関心に沿ってつながりを広げて生まれた地球儀は青くないんじゃないか。むしろ、自分の経験や関心によって地球儀を自分色に染めていく。そうやって自分らしい地球儀をつくれたら、世界中の子どもたち同士がつながりやすくなるんじゃないか。そう構想しました

ハッカソンを通して、自分たちだけでなくメンターやほかの参加者との対話を重ねるなかで、目指す構想は言語化されていきました。実現したい一番の価値。ハッカソンに参加して、それが明確になったと二人は語ります。

多様な世界に出会い、多様な豊かさを知る経験の大切さ

あくまでも「つながる地球儀」が大事にするのは、子どもたちが自ら探究すること。「世界はこうなっているんだよ」と、答えを大人から渡されるのではなく、子ども自身が世界に関心を向け、自分でつながりを広げていくことでした。

亀川

宿と英会話教室をセットで経営しているので、海外からの宿泊客がいらっしゃるときには、英会話教室の子どもたちが彼らを英語で日本の案内をする機会をつくっています。

 

例えば、フランスからお客様がいらっしゃるとなったら、子どもたちはフランスについて調べた上で案内役を務めます。子どもたちは、日本語ではない言語を使って、自分たちが日々くらしている街の豊かさなど、さまざまなことを伝えようとします。

そうすると、日本語では表現できるのに、英語では表現しきれない日本の豊かさに気づくことができますし、日本にはない海外の文化について知る機会にもなります。こうした体験を通じて多様な世界に出会うことは、お互いの世界の豊かさを知るきっかけになるはずです

100人の子どもがいれば100通りの個性があるという教育方法「レッジョ・エミリア・アプローチ」。亀川さんは、その教育方法において重要視される「ドキュメンテーション」の側面は、「つながる地球儀」においても期待できるのではないかと話します。

亀川

レッジョ・エミリアにおけるドキュメンテーションは、子どもの活動記録を通じて、子どもに関わるすべての人がより良い教育について対話する取り組みです。大人も、それによって気づきや問いを得たり、子どもの成長を振り返ることができます。

 

例えば、自分以外の人がどのような経験をしてどんな人と出会ってきたか。「つながる地球儀」を通じてその記録に触れたとします。記録を参照できれば、その人の歩みを後追いできます。自分が関心を広げられていなかった領域も発見しやすくなるはずです。

 

そのようなことが実現できたら、リアルな旅にも似た豊かな体験がオンラインで実現できるのではないかと構想しています

「つながる地球儀」が実現する世界を、チームメンバーの小野愛さんがマンガで表現しました

「つながる地球儀」を通して、子どもたちがつながりのネットワークを広げていくことは、世界に目を向けるだけでなく、身近に存在する違いに気づくことにもつながるはず。山田さんはそう続けます。

山田

日本国内でも、くらしている地域や育っている家庭によって、人が大切にしているものは異なりますよね。その違いを互いに認識していないと、人は自分の価値観だけをモノサシにして判断してしまうようになります。

 

子どもの頃から、自分以外のモノサシを知るために体験していることは、これからの時代を生きていく上でとても大切なこと。それは日本と海外においてだけでなく、『わたしとあなた』という関係においても重要なことだと思います

子どもたちが環境ともつながりを育むために

好奇心を持ち自分から世界に目を向けることは、「自分」と「他者」の関係について知ることにもつながります。であれば、その関心の先や関係を紡ぐ対象には、人間でないものも含まれるのではないでしょうか。そんな編集部の疑問に、亀川さんが応えてくれました。

亀川

さまざまな出会いを通じて豊かさを再認識していくプロセスは、自然に対しても同じように生まれると思っています。

 

私がくらしている地域にある若狭和田ビーチは、『ブルーフラッグ』という国際環境認証を得ています。この認証には、水質・安全性・環境マネジメントなど、いくつかの達成すべき条件があり、その要件のひとつが環境教育です。

 

若狭和田ビーチがブルーフラッグの認証を得たことで、身近な海の豊かさを再確認できました。環境教育の取り組みもあるので、子どもたちにも地元の海の豊かさを知ってもらいやすくなりましたし、世界の海がどうなっているかを知るきっかけにもなったと思います

今、若狭和田ビーチでは定期的にビーチクリーンイベントが行われています。子どもたち向けに、ビーチクリーンや漂流物アートを体験しながら海洋プラスチックゴミについて理解を深める企画も催されています。

亀川

何よりも大事なのは、環境について知ることと原体験を持っておくこと。環境問題を知っていて、大切にしたい想い出があれば、人は自ずと環境に配慮するようになると思います。

 

環境問題について学んでいくと、問題の大きさも知ることになるので、あまりのスケールの大きさに思考が止まることもあります。ただ、結局は自分にできることをやっていくしかありません。

 

常にグローバルな目線を持ってさまざまな豊かさを認識しながら、ローカルでのくらしを環境に配慮したものにする。そうやって、くらしの豊かさと環境への配慮を両立させようと継続して活動することが大切だと思います

「つながる地球儀」は、大人が用意したものではなく子どもたちが自分で選択することを大事にして開発してきました。その選択を尊重し、つないでいけるような機能を実装するために、テストを重ねていきたいと考えているそうです。

亀川

『つながる地球儀』は、くらしにフォーカスしてきたのですが、日々のくらしがお互いに影響し合っていることを認識できれば、やさしくなれるのではないかと考えています。それは地球に対しても同様なのではないでしょうか

子どものころに『つながる地球儀』があったら、もっと広い目で地元を見られ、その良さを世界に発信できたと思うと語ってくれた亀川さん。「つながる地球儀」のプロダクトが実現したら、身近な豊かさを再確認するためのつながりが世界中に広がりそうです。

 

子どもたちが主体的につながりを世界中に広げていくためのプラットフォーム「つながる地球儀」。そのアイデアには、さまざまな世界を知ること、実際に体験をすること、それらを通じて豊かさを捉え直すことの大切さが込められていました。

 

これらの活動が大切なのは、大人であっても変わりません。多様な世界の多様な豊かさを知り、自分にできる範囲で少しずつ実践する。その積み重ねが、「地球とわたしにやさしい日々」の実現につながるのではないでしょうか。

『q&d』編集部が問いと対話をより深めていくq&dラヂオでは、今回のエピソードでは、オンラインコミュニティ「つながる地球儀」の実現に取り組んでいる亀川さん、山田さんを訪ねた時のことを振り返りながら、「地球とわたしにやさしい日々の過ごし方」について、改めて考えました。

写真は「つながる地球儀」チームの提供

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