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心理学の「環境配慮行動」から考える、自分の環境意識を行動につなげる方法

「環境に配慮した行動をとるべき」そう分かってはいても、自らの快適さを優先してしまう……そんな自分にモヤモヤしている人は少なくないはず。環境に対する「意識」を「行動」に変えていくためには、どうしたらいいのか。社会心理学者の今井芳昭先生に話を伺いました。

社会心理学者
今井芳昭

慶應義塾大学 文学部 教授・博士(社会学)

1958年生まれ。流通経済大学社会学部、東洋大学社会学部での教授職を経て、2011年4月より現職。社会心理学を専門とし、社会的影響力、対人的影響、説得などの研究を手がける。主著に『依頼と説得の心理学-人は他者にどう影響を与えるか』(サイエンス社/2006)、『影響力―その効果と威力』(光文社新書/2010)、共訳に 『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』(誠心書房/2014)。

q&d編集部
久松 葵

両親の離婚を機に学費を自分で稼ぐように。高校・大学と、学びながら働くという学生時代を過ごす。今井芳昭研究会(ゼミ)で社会心理学を学んだ後、2018年パナソニックに入社。クリエイターズグループMACにて広告制作を担当、人の心を動かす表現を模索している。

目次

「環境のために」と思っているだけの自分を変えたい

「レジ袋はお使いになりますか?」

「……お願いします」

このやりとりを、私は日常の中で数え切れないほど繰り返しています。

 

買い物するたびに袋をもらうのではなく、買った商品は手持ちのバッグに入れて持ち帰るのが望ましい。頭では分かっているけれど、「店員さんに袋に入れてもらうほうが時短になる」「袋だって何かに使えるし……」といった思いが勝るのか、気がついたらお店の袋を手に持っています。

 

最近は、SNSで環境問題への課題意識を発信する人が多くなったように見受けます。私が環境意識の高いアカウントを特にフォローしていることもあると思いますが、Instagramでも、サステナブル・ファッションに関心を持つ若い世代の投稿をよく見かけるようになりました。そして、「みんな、ちゃんと環境に配慮した選択をしていてカッコいいな」と感じつつ、その社会的なムーブメントに乗り切れていない自分、「環境のために何かしないと」と思うだけになっている自分に、モヤモヤしています。

 

「環境配慮を意識する」で止まらずに、「環境に配慮した行動をする」へと一歩踏み出せるコツはないのでしょうか? それが見つかれば、地球にやさしいくらしを実現するための取り組みを、もっと多くの人が実践できるはず。私はそんな思いを胸に、「自分自身を説得して行動を変えていく効果的なアプローチ」を見つけるべく、対人的影響の研究者であり大学時代の恩師でもある社会心理学者、今井芳昭先生のもとを訪れ、お話を伺いました。

行動を変えるのは、問題の構造を知ることで生まれる「切迫感」

久松

今井先生、大変ご無沙汰しておりました! ゼミでは本当にお世話になりました。

今井芳昭さん(以下、今井)

お久しぶりですね、久松さんもお元気そうで何よりです。

久松

在学中に教えていただいた説得コミュニケーションの構造や、「人が人にもたらす“影響力”とはどんなものなのか」というお話は、社会に出てからも大変役に立っているなと感じています。

 

私は今「地球とわたしにやさしい日々の過ごし方」という特集を担当していまして、その中で、「環境問題に対する課題意識を、どうしたらうまく行動に変換させていけるのか?」という問いをテーマにした記事を作成したいと思っています。

 

共に考えてもらえる識者を探していたところ、「東洋大学『エコ・フィロソフィ』研究 2号」(2008年)に収録されていた今井先生の論文「環境配慮行動を促すための社会心理学的アプローチ」を見つけ、「これだ!」と思いました。

 

私の抱えているモヤモヤについて、社会心理学の観点からいろいろとアドバイスを頂けるとうれしいです。どうぞよろしくお願いします!

今井 

こちらこそよろしくお願いします。それでは、久松さんのモヤモヤの話に入る前に……この「地球とわたしにやさしい日々の過ごし方」という特集名について、ちょっと一言物申してもいいですか?

久松

もちろんです! ぜひ忌憚のない意見を聞かせてください。

今井

地球と私にやさしい」という表現が、少しぼんやりとしていてもったいないなと感じました「やさしい」という言葉は抽象的で耳触りがよく、ほんわかした言葉ですね。その反面、具体性に欠けるので印象に残りにくい言葉でもあります。

 

編集部としていろいろな意図があるのだと思いますが「地球環境のために意識や行動を変えていこう」と読者に積極的に呼びかけるためには、もっと具体的で切迫感のある言葉を選んでもよかったかもしれません。

 

例えば、アメリカのコピーライターであるSugarman(ジョセフ・シュガーマン)は、「人の興味を引き付けるためには、コピー(タイトル、見出し)や広告メッセージにストーリー性をもたせる、反論を反芻する、シンプルに明確にする、自我関与させる、権威づけする、切迫感をつくる、希少価値をアピールする、具体的にすることなどが有効である」と指摘していますね。

 

それと、もう一つ大事なことですが、この対談での議論は、現在、人類の活動によって地球温暖化が進行していて、このままだと地球上の生物にとって不都合な事態が生じると予測されることが前提になっているのですよね?

久松

そうです。それを前提に、お話を伺えればと思います。
「地球にやさしい」だと抽象的で印象に残りにくいというご指摘は、確かにそうかもしれないなと感じました。それから、かつての大学の講義で、「切迫感をつくる」「具体的にする」という要素は、相手を納得させるためのコミュニケーションのテクニックだと教わったことを覚えています。

今井

「切迫感をつくり、問題における当事者意識を喚起する」ためのポイントになるのは、問題の“構造を知らせて、そのキャッチコピーを目にした人に「このままだとマズイ」と思わせることが重要です。とりわけ環境問題においては、アメリカの生物学者Hardin(ギャレット・ハーディン)の指摘した「共有地の悲劇」という構造が根本にあることを理解するのが、とても大事になってきますね。

久松

皆で共有している牧草地で、一人ひとりが土地の広さに適した数の牛を飼っていれば、牧草は尽きることなく誰もが放牧を続けられる。けれども、「こんなに広いんだから、自分ひとりくらいはいいいだろう」と、皆がそれぞれ自分の利益を優先してたくさんの牛を飼うと、資源である牧草が食い尽くされてしまい、誰も放牧を続けられなくなる――「共有地の悲劇」とは、そんな構造のことでしたよね?

今井

そうです。個人の合理性と集団としての合理性が対立する構造を明示したのが「共有地の悲劇」です。環境問題も「自分ひとりくらい行動しなくても……」という個人の合理性が、集団として取るべき行動を阻害していると捉えると、まさにこの構造が当てはまります。

 

例え話に用いられた「牧草地」の場合は、翌年あるいは数年後に悲劇が訪れるのでしょう。地球環境の場合も既に温暖化による影響は出ていますが、50年後、100年後にはより大きな悲劇がやってくると予測されているようです。影響が出るのが先であるゆえに、当事者意識を持ちにくいんですよね。

 

地球環境に悲劇をもたらさないためには、50年、100年後の未来に切迫感を持つこと、つまり「私たちの子どもや孫、ひ孫がとても困る」という事実を知らしめる必要があると思っています。子どもや孫がいる人にとっては、それが、大切な家族を困らせないために行動を変えていけるきっかけになるのではないでしょうか。

「行動できない」自分を卑下しなくていい

久松

「未来の世代への思いやり」は、とても大事だなと思います。ただ、例えば家庭を持っていない方、子どもがいない方などにとっては、「このままだと後の世代が困ります」という構造を知ったとしても、やはりどこか他人事のように感じてしまうかもしれません。私自身も「まだ見ぬ100年後の子孫」のことを本気で思いやれるかと問われると、正直あまり自信がありません。私のように感じる人たちに対しても有効だと思われるアプローチはありますか?

今井

それで言うと、環境に良いとされる行動をとったときに、もっと成果が目に見えるようになると、人々はもっと行動しやすくなるでしょう。

 

例えば、「環境配慮計」などが出てくると良いかもしれませんね。歩いた歩数を計測する万歩計のように、お店でレジ袋をもらわずにエコバッグを使用したら、それによって節減できた二酸化炭素量がカウントされていくようなメーターです。

 

「あなたの環境配慮行動は、確実にこのような効果につながっていますよ」ということを説得力のある数値で教えてもらえれば、やっているほうも手ごたえがありますし、行動が持続化するのではないでしょうか。

久松

確かに、レジ袋を1枚もらって使うたびに「これだけ二酸化炭素が排出されている」ということが目に見えて分かれば、私もとどまれる気がします。効果をしっかり可視化することは、多くの人たちの行動の変容につながりそうです。

今井

ただ前提として、「どんなアプローチをとったとしても、ある1つの手段で地球全員を動かすことはできない」ということは、いつでも念頭に置いておく必要があります。そんな万人に有効な手段があるのならば、環境問題はとっくに解決しているはずですから(笑)

久松

「子孫が大変になる」と聞いて動く人もいれば、「あの森がなくなってしまう」と聞いて動く人もいる。刺さるメッセージは人それぞれ違う、ということですね。

今井

そうです。世の中には「未来の世代に役立っている」ということを報酬として認識できる人もいれば、そんな先のことは考えられないという人もいます。それは決して、どちらが良くてどちらが悪いという話ではありません。人それぞれ価値観は違うのですからね。

 

だから、受け取れないメッセージがあったときに「受け取れない自分はダメなのでは……」と落ち込む必要はないのです。環境問題の構造を具体的に把握できるメッセージが世の中に多く存在していることが望ましく、私たちはそれぞれ「刺さる」ものを選んで受け取って、自然に動ける範囲で動いていけばいい。息苦しさを感じない程度に、休み休み、問題に向き合っていくことが、持続的な行動につながっていくのではないかと私は思っています。

久松

ありがとうございます。今のお話を聞いて、「環境配慮行動ができる人」と「それができない自分」を比べ過度に反応しなくてもいいんだと思えて、心がとても軽くなりました。

無理なく自分の行動を変えていくための、3つの社会心理テクニック

久松

万人に有効なメッセージがないからこそ、「自分にとって有効なメッセージ」を見つけることが、一人ひとりの環境配慮行動につながりそうですね。じゃあ、私の場合はどんなメッセージが有効なんだろう……。

今井

好きなアイドルや芸能人はいらっしゃいますか?

久松

はい! 推しのアイドルはたくさんいます(笑)

今井

そのアイドルが「環境に配慮して、こんなことをしています。みんなもやってみてね」と発信していたら、どう感じますか?

久松

その行動がどれくらい身近なものかにもよりますが、「私も真似してみようかな」と感じると思います。

今井

そうですよね、それは多くの人にとっても同様です。つまり、自分の好きな人や物事と環境問題を結び付けるメッセージはないか探してみることは     有効と言えそうですね。社会心理学の観点から言うと、社会心理学者のCialdini(ロバート・チャルディーニ)が指摘している6つの「影響力の武器」のうち、人を動かすための次の3つのアプローチが活用しやすいでしょう。

今井

1つ目は「好意性」。久松さんのように、好きな人から何かをお願いされると、その人のためになるという思いから、人は行動を起こしやすくなります。今のアイドルの例がまさにこれです。

 

2つ目は「権威」。環境問題の専門家が「このままだと20年後、30年後、地球はこうなりますよ。だから行動を変えていかねばいけません」と発信すれば、影響される人は多いはず。信頼できる権威ある人から言われると、人は納得して行動を起こしやすくなります。

 

3つ目は「コミットメント(関わり)」。環境問題に対して、ちょっとした何かしらの関わりを持たせるんです。例えば、アンケートを実施して「環境配慮行動に関心がある」と答えさせる。それだけでも、「自分はそう答えたからな」という事実がフックになり、その人の未来の環境配慮行動につながる可能性は十分にあります。

久松

「コミットメント」のお話を聞いて、思い出したことがあります。社会人1年目の時に企業の環境発信に携わるようになり、それがきっかけで自発的に社内の環境保全活動に参加した経験がありました。「仕事でそういった発信をしているのだから、個人的にもやらないと周りの人に格好がつかない」という思いがあり、それから行動が変わっていったような気がします。

今井

企業の環境発信という役割を与えられると、それに見合った行動をとりたくなる。それもまさに「コミットメント」ですね。それで言うと、「日々誰かと環境問題について話す」だけでも、コミットメントは高まっていきます。

 

どんな些細なことでもいいから、問題と関わりを持ち続けていく。そうすれば、いつかそのコミットメントが積もり積もって、具体的行動につながっていくはずです。久松さんの場合は、無理のない範囲で環境問題について自分から話を振ったり発信したりすることで、ご自身の行動を変えていけるかもしれませんね。

久松

話をするだけでもいい――。「なんとか行動を変えなくては」と思い込んでいた私にとって、それは大きな気づきでした。まずは今日、先生に聞いたお話を周りの人に伝えていくことから始めていきたいと思います。

 

本日はありがとうございました。先生と対談することができて、大変うれしかったです!

人と話す、それだけでもいい。小さなコミットメントでも、積み重ねれば行動につながる

今まで私は、「環境問題について意識を持っているだけで、行動できていない自分」に、ずっとモヤモヤしていました。しかし、今井先生とお話することで、「自分はダメだ」とか「行動しなくてはいけない」と過度に思う必要はないことに気付くことができました。

 

その上で、環境問題という大きな問題に立ち向かうために、自分の行動を少しずつ変えるための具体的なヒントをもらうことができました。それは、できる範囲で無理をせず「好意性」と「コミットメント」を利用していくことです。

 

私の場合は人と話すことが好きなので、それを環境問題に結び付け、1日1回は環境問題について誰かと話をしてみようと思います。そうしていくうちにコミットメントが積み重なって、いつしか話した内容に見合った環境配慮行動が自然とできるようになりたいです。

 

今回、q&dの特集で今井先生に取材をして記事を作成し、発信する。それ自体も自分自身の行動変容のきっかけになると思います。こんな発信をしたのだから、それに値する行動をしなければ……いや、していきたいなと。今これを書きながら、気持ちを新たにしています。きっと記事が公開される頃には、私は店での袋詰めを断って、携帯したエコバッグに入れて持ち帰るようになっていることでしょう!(この先もコミットメントが続いていくよう、この場を借りて意志表明させてください)

 

この記事を読んで、環境に配慮した行動をするためのヒントが少しでも見つかったなと思ったら、ぜひ#社会心理学視点のサステナビリティとともに、Twitterにて感想をつぶやいてみてください。

Photo by 川島 彩水 および提供写真

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