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なぜ、企業はD&Iの実現を目指すべきなの?
私たちに必要な多様性との向き合い方

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なぜ、企業はD&Iの実現を目指すべきなの?
私たちに必要な多様性との向き合い方

「多様性への配慮が大事」とはよく聞くけど、それがどうして大事なのか、本当に理解できているだろうか。企業は、そして私たち一人ひとりは、どのように「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」という概念に向き合っていくべきだろうか――そんな問いを、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートするAmplify Asia代表の白石愛美さんと一緒に考えます。

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
白石 愛美

株式会社Amplify Asia代表取締役。WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバー株式会社の広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートするAmplify Asiaを立ち上げる。著書に『ダイバーシティ×マーケティング コミュニケーションをデザインする6つの視点』(2019年、翔泳社)。

q&d編集部インターン生
岡部 駿

茨城県出身。東京理科大学経営学部在学中。大学では企業の経営戦略をはじめ、マーケティングやファイナンス、データ処理などを幅広く学ぶ。普段は「知るカフェ」で学生のキャリア支援に注力している。趣味はe-sports観戦。

目次

多様性の尊重、大事なことだと分かってはいるけれど……

私は現在、経営学部に所属していて、経営やマーケティングに関する勉強をしています。最近、経営学の授業で、企業の「D&I」の取り組みについて学ぶ機会がありました。

 

企業が多様性を認め、受け入れていくことは、誰もが働きやすい環境づくりのためにとても大事だと感じる一方で、私の中には疑問が残っています。それは「D&Iを推進することと、利益を追求することは、両立するのか?」という点です。

 

D&Iの推進のために社内の環境や文化を根本から整えていくには、大きなコストがかかると思います。どんなにいい取り組みでも、それが中長期的に利益に繋がっていかないのであれば、企業で推進し続けることは難しいのではないか……と私は感じています。

 

もちろん、利益の追求ばかり考えていては、社会がいい方向に変わっていかないのは分かっています。だからこそ、「企業にとってD&Iと向き合うのがなぜ大事なのか、そこにはどのようなメリットがあるのか」を理解し、「個人としてD&Iを大事にできる人間になるために、普段のくらしでどんな意識を持てばよいか」を学べれば、自分が社会に出たときに、より気持ちよく仕事ができるのではないかと考えました。

 

そこで本記事では、ダイバーシティを前提とした新しい視点でのコミュニケーションやマーケティング施策の企画を行う、株式会社Amplify Asia代表の白石愛美さんに「D&Iと企業活動」をテーマにお話を伺いました。

 

それは「ビリーフ・ドリブン」な購買者たちに選ばれるための生存戦略

岡部 駿(以下、岡部)

初めまして。取材を快諾してくださり、ありがとうございます!よろしくお願いいたします。

白石 愛美さん(以下、白石)

こちらこそ、よろしくお願いします。岡部さんとお話しできるのを楽しみにしていました。

岡部

私は、D&Iの推進は素晴らしいと思う一方で、そこにコストをかけるだけのメリットを見出せなければ、なかなか続かないし、広まっていかないのではないか……と感じています。さまざまな企業のD&I推進の支援を手がけている白石さんは、その意義やメリットについて、いつもどのように伝えているのでしょうか?

白石

メリットのお話をする前に、まずお伝えしたいことがあって。私は、D&Iを推進する取り組みについては、「やるべきこと、やったほうがいいこと」ではなく、「やらなければならないこと」だと捉えています。

岡部

やらなければならないこと、ですか?

白石

企業は「社会的価値」を発揮して、その結果として利益を得ていく存在になることが、これからの時代には前提条件になると私は捉えています。「パーパス=存在意義」というキーワードはマーケティング以前に、経営においても重要な意味を成していますよね。まさに企業としてのパーパスを社会にどのように示すかです。

 

これからますます多様な価値観の尊重、共存が重視される社会になっていくことを踏まえると、そうした世相の変化を前提とした組織や商品・サービスづくりをしながら、同様の観点で働く従業員の意志を尊重する「インターナルマーケティング」ができないと、企業は生き残れないのではないか……というのが、私の考えです。

岡部

なるほど……そもそも私はD&Iの取り組みの是非を「利益、メリットがあるかないか」を中心に考えていたのですが、これからの社会においては「企業が生き残っていくための必要条件」になってくるのですね。

白石

そうですね。利益を上げるために必要な前提条件が、これまでとこれからとでは大きく異なってくる、という認識を持てるとよいと思います。

 

2019年、エデルマン・ジャパンが世界8カ国、約4万人を対象に実施した消費者意識調査(※1)では、ブランドの社会的・政治的問題に対するスタンスによって購買行動を決定している「ビリーフ・ドリブン」な購買者は、日本では全購買者の約55%、グローバルでは64%に及び、この傾向は世界的に見ると年々高まっていると指摘されています。

 

D&Iがアプローチするのは社会問題の一部ではありますが、私はあらゆる課題につながる根本的な問題でもあるとも思っています。企業としてそこに意志(ビリーフ)があるかどうかは、ビリーフ・ドリブンな購買者にとっての大きな判断材料となっていると言えるでしょう。

※1「2019年、エデルマン・ジャパンが世界8カ国、約4万人を対象に実施した消費者意識調査」を引用 https://www.slideshare.net/EdelmanJapan/2019-178991870

岡部

私の周りでも環境問題に配慮していたり、ジェンダー問題に積極的にアプローチしているブランドを好む人は、増えている気がします。

白石

こうした購買者の変化も踏まえると、今後の市場ではどんなに質の高いモノやサービスをつくっても、企業としての在り方や信念に対する支持を得られていないと、新しい利益を生むことは難しくなっていくと考えられます。

岡部

だからこそ、D&Iの取り組みが企業にとって不可欠になるのですね。白石さんのお話を聞いて、そもそもの認識が大きく変わりました。

信念のないD&I施策は見抜かれる?

岡部

白石さんのお話から「利益云々にかかわらず、D&I推進は必然事項だ」という認識は得られたのですが、資金的に体力のある企業ではない限り、具体的なリターンが見えにくいと積極的に投資しにくいだろうな、とも感じています。

白石

たしかに、そう判断する企業の気持ちも十分理解できます。ただ「D&Iと利益の追求がトレードオフである」と言い切るのは早計です。企業のD&I推進が中長期的に企業の成長に繋がる可能性があることは、実はさまざまな調査からも示唆されているんです。

 

例えば、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2016〜2017年にかけて、世界12カ国、1000社を対象に行なったダイバーシティ調査(※2)では、「経営陣における性別多様性の高い上位25%の組織は、下位25%の組織に比べて収益の平均が21%高い」という結果が出ています。

 

また、ボストンコンサルティンググループが2016年に経営陣やマネジメント層を対象に行なった調査(※3)では、「女性管理職の割合が20%を超えると、新製品や新サービスなどのイノベーションが生まれる収益の中央値の水準が25%アップする」というデータを発表しています。

※2「マッキンゼー・アンド・カンパニーが2016〜2017年にかけて、世界12カ国、1000社を対象に行なったダイバーシティ調査」を引用 https://www.mckinsey.com/business-functions/people-and-organizational-performance/our-insights/delivering-through-diversity

 

※3「ボストンコンサルティンググループが2016年に経営陣やマネジメント層を対象に行なった調査」を引用 https://www.bcg.com/publications/2017/people-organization-leadership-talent-innovation-through-diversity-mix-that-matters

岡部

そんな調査結果が出ていたのですね!

白石

もちろん、これらのデータだけをもって「確実に利益に繋がる」とは断言できませんが、知っていると少し認識が変わりますよね。客観的なデータを見ながら、自社にどのような課題があって、どこからアプローチしていくべきかと考えていくと、D&I施策を推進しやすくなるのではないでしょうか。また、企業のデフォルトがダイバーシティを前提にしていないだけで、若い企業などは組織づくりの際にそれを前提とすれば「トレードオフ」の観点は拭えるようにも思います。

岡部

たしかに、こうしたエビデンスがあると、安心して動き出せる企業は多いのではないかな、と感じました。

白石

ただ、安易な姿勢でD&Iに取り組むと、かえって逆効果になることも少なくありません。最近では、企業に対する批判として「SDGsウォッシュ」という言葉がありますが、その中でもD&Iの取り組みに対して「ダイバーシティウォッシュ」という言葉も出てくるようになりました。

岡部

ダイバーシティウォッシュ、ですか?

白石

ダイバーシティウォッシュとは、「粉飾、ごまかす」といった意味を持つウォッシュと、ダイバーシティを合わせた造語です。企業が購買者らへの訴求効果を狙い、あたかも多様性に配慮しているかのように見せかけることを意味します。

 

購買者はその企業が本気でその課題に取り組んでいるかどうか、しっかりと見抜くものです。SNSの広がりと共に、より個の意見が拡散しやすくなっている事実からも、その傾向は顕著ですよね。

 

企業としてより多くの利益を求めていくのは自然なことですが、D&Iの取り組みの目的にその姿勢が透けて見えると、よくない結果を招くことになります。大義名分を語りながらも真逆の姿勢を示す経営陣のコメントで炎上した企業は多いです。企業は「社会にとって自分たちはどんな存在であるべきか」という問いと真摯に向き合い、自らの想いや信念(ビリーフ)を持って、長期的に取り組みを続けていく必要があると思っています。

他者を尊重したいなら、まず自分の多面性に目を向けてみよう

岡部

ここまでのお話から、企業がD&Iに取り組むべき理由やメリット、留意点についてよく理解できました。私も数年後に社会人になったら、多様性に配慮した仕事、組織づくりに貢献していきたいなと感じています。

 

そうは願いつつも、普段の生活では多様性への意識が薄くなりがちな気もしていて。日々のくらしの中で、どのようなことを気にかけたり、どんな行動を意識したりすると、よりD&Iを尊重できるようになると思われますか?

白石

素敵な質問をありがとうございます。そうですね……多様性を大切にしようとすると、「他者をいかに受容するか」という意識になると思います。もちろんそれは間違っていないのですが、私は最近「自分の内面のダイバーシティ」を認知していくことも、同じくらい大事だなと感じているんですね。

岡部

自分の内面のダイバーシティとは、どのようなものでしょうか?

白石

自分の多面性、多層性と言い換えてもいいかもしれません。私の中には、穏やかな自分もいるし、情緒豊かな自分もいる。女性的な自分もいれば、男性的な自分もいる。ちなみに私は、日本で生まれ育っていますが日本国籍ではないので、自分のルーツを感じる瞬間もあります。岡部さんは今、私からは「穏やかで論理的な人」に見えていますが、それは岡部さんの一面であって、きっともっと違った顔も持っていますよね。

岡部

はい、友だちといるときはもっとおちゃらけていると思います(笑)。「人が多面的である」という認識を持つと、それだけ思いを馳せられる人や立場が増える気がします。

白石

D&Iのマネジメントには「視点取得」というスキルが重要とされています。これは簡単に言うと「相手の立場に立って物事を考えられる能力」です。実はビジネススクールの交渉方法に関するクラスでも教えられていたりもします。

 

誰にでもあるアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)は拭いきれないものですが、それをコントロールしながら、あらゆる他者とよい関係を築くには、多様な他者の立場の視点を取得し、相手を受容することが大切です。

 

そのためにもまずは、自分の内面の多面性に目を向けてみる。自分自身の多面性を受容することは、相手の立場を「自分ごと化」することにもつながります。要は相手との共通項が見つけやすくなるんですよね。

視点取得は、「当たり前」の説明で鍛える

岡部

自分の視点取得を促していくために、日頃からできそうなトレーニングなどはあるでしょうか?

白石

とても難しいことですよね。私自身も日々、試行錯誤しています。わかりやすい例であえて言うならば「自分にとって当たり前に使っているものを、当たり前でない人に説明する」というのをおすすめしたいです。

 

たとえば、自分の親に自分が便利だと思っているスマホのアプリを勧めて、使い方を教えてみるとか。もっと発想を飛ばすなら「電話もない時代の人に、3分でスマホを説明する」とか。

岡部

前者は身近な人にすぐできそうですし、後者は友だちとゲーム感覚でやってみたら面白そうですね!

白石

自分にとっての当たり前を、それが当たり前でない人に説明しようとすると、「どう表現したら相手に理解してもらえるか」と考えますよね。これは視点取得の能力を高める上で、効果的な訓練になるはずです。自分を見つめて、相手の視点を汲み取りながら言語化する作業なので。

岡部

「立場の違う人のことを考えよう」と言うと、それは大事だと分かっていつつも、具体的にどうしたらいいんだろう……と悩むことが多いなと感じていました。白石さんの提案してくれた方法だと、具体的ですぐに取り組めそうです。

白石

あと、最後にもうひとつ付け加えさせてください。視点取得は「自分ごと化」が重要だとお伝えしましたが、だからこそ自分を大事にする、自分の中の多面性を受容することが大切かと思います。

 

視点取得のスキルは他者とよりよい関係を築いていく上で不可欠な要素でもありますが、前提として、自分自身を大事にしないと成り立たないと思っています。それができていないと、他者を思いやったり、尊重したりすることは難しいですからね。

岡部

他者を尊重するには、まず自分からと。

白石

自分を大事にするって、けっこう苦手な人が多いのではないかなと感じています。役割や立場を全うすることに頑張りすぎて疲弊してしまうことって、よくあるんです。そんなときも、自分の中にさまざまな視点をストックできていると「あれ、もしかしてちょっと頑張りすぎているかな?」とか、自身の状態に気づきやすくなると思うんですよね。与えられた役割の理解を、自分や社会の思い込みで全うしている可能性もあります。

 

可視化されている安易な“多様性”のなかに自分や相手を押し込めて考えるのではなく、不可視の本質的な多様性や多面性の部分を見つめることが、自分にも、結果として相手にも大切になると思っています。実は全ての人がD&Iにおける当事者である、と気づいてほしいです。他者の多様性と自分の多面性、両方があって初めてD&Iが尊重される多層な社会につながってくるのではないでしょうか。

岡部

D&Iというのは、他者との関係性に限った話ではなく、回り回って自分に返ってくるものなのですね。今日、白石さんにお話を聞けて、他者や自分を大事にしていこうという気持ちが、ますます強くなりました。ありがとうございました!

「伝える」を諦めないこと、そこから始める私なりのD&I

「D&Iが重要だ」とはよく耳にしていましたが、私は正直、その言葉の意味をちゃんと理解できていなくて「社会全体にとって、本当にそれは重要なのかな」と疑っていました。語弊を恐れずに言えば、「ごく一部の人たちのために、私たちが何か努力しないといけない」という認識すら持っていたように思います。

 

しかしながら、今回の取材を通して、その認識は根本から変わりました。D&Iは企業にとって「推奨されるもの」ではなく、「不可欠なもの」になりつつあること。購買者はただ「安くていいもの」を求めているわけではなく、企業の理念、社会との向き合い方まで踏まえて買うものを選ぶ世の中になってきていることを、白石さんのお話から深く理解することができました。

 

そして、白石さんから教わった「視点取得」のためのトレーニングも日々挑戦していきたいです。立場の違う人に、大事だと思っていることを説明する……この「記事を書く」という行為も、まさにそれに当てはまるのではないかなと感じています。

 

ある立場からのメッセージを、あらゆる人に納得してもらえるように伝えるのは難しいし、もしかしたら不可能なのかもしれません。それでも、「どうやったら伝わるか」と考え続けていけば、視点は確実に広がっていくのかな、と思えるようになりました。そんなふうに、対話を諦めない素敵な大人に少しでも近づけるように、この取材で得た学びをくらしや仕事に生かしていきたいと思います。

編集後記(q&d編集部 松島 茜)

当初、自分が考えたいテーマ探しに悩んでいた岡部さんですが、大学でマーケティングを学ぶ中で感じていた疑問を起点に定めてから、急速に自分事として問いを深めていきました。

 

私自身も企業で働く人間としてさまざまな情報に触れ、D&Iや社会的価値の追求が重要であることを当たり前のこととして認識するあまり、あらためて「それはなぜ重要なのか?」とまっさらな視点で考える機会を失っていたことに気づきました。岡部さんが学生ならではの素直な視点で質問を投げかけたことで、D&Iと企業の関係について真に理解を深める取材になったと思います。

 

記事の後半では私たち個人のことについても触れ、自らの多面性を認識することは「自分を大切にする」ことだという話がありました。私たち一人ひとりが自分を認めることで、それに寄り添う企業が増え、「世の中が優しくなって」いく。自分自身を大切にすることは、社会をより良くすることにも繋がるのかもしれないなと、取材を終えて感じました。

あなたは日々のくらしの中で、他者の多様性、自分の多面性を大事にするために、どんなことが実践できそうですか? 記事を読んで感じたこと、思いついたことがあったら、ぜひ「#わたしとあなたの境界線」をつけて教えてくださいね。

Photo by 川島 彩水

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