
愛知県出身。大学在学中にフリーペーパー制作とドイツ留学を経験。名古屋大学文学部を卒業後パナソニックに入社し、さまざまなイベント、セミナー企画に携わる。子どもの頃から食分野に興味あり。週末にはパンを焼く。
「多様性(ダイバーシティ)」「包摂性(インクルージョン)」という言葉に触れたとき、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。
近年、これらの言葉を合わせた「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という表現も広がっています。「多様性を大切にし、一人ひとりの個性を受容することが多くの人のくらしを後押しする」という考え方は、多くの人が賛同するものになりつつあると感じます。
最近では、D&Iをさらに変化させた概念として、「公平性」を意味する「エクイティ」を加えた「DEI」という言葉を使うことも増えてきました。パナソニックにおいても、このDEIの考え方に基づいて、誰もが挑戦する機会を得られるような職場づくりに取り組んでいます。
※パナソニックのDEIの取り組みは、こちら。
※以下、本文中では多様性や包括性についての企業の取り組みに関して「D&I」表記で統一します。
少しずつ、多くの人にとってより良い社会へと近づいている。そう感じさせてくれる変化は素晴らしく、これからも働きかけを続けるべきだと思います。
一方で、「多様性」や「包摂性」に関する発信が急激に増加し、表面的な定義のみが先行することの弊害も感じています。それは「やらなきゃダメなこと」という強制されたルールであるかのような見方をする人も増えてしまうのではないかということです。そのような認識で現れる発言や行動からは、目指そうとする社会の姿が見えてこないのではないでしょうか。

ここから一歩先に進むためには、一人ひとりが自分ごととして考え、理解することが必要ではないか。そんな問題意識から、特集「わたしとあなたの境界線」を始めます。
今回は、個性や多様性が広がる社会の中で育ち、SNSネイティブとも呼ばれるZ世代の大学生にインターンとして参加してもらいました。インターンの皆さんは、毎週の編集会議に参加し、特集テーマについて考えるために「興味関心マップ」を作成したり、原体験を深堀りしたりしながら、一人ひとりが自身にとっての問いを決めていきました。
ときには私たち編集部メンバーからのフィードバックに悩みながら、企画・取材・執筆まで挑戦したインターンたち。今回の「特集に寄せて」では、大学生たちが特集企画に参加するなかで、どんな発見や変化が生まれたのかを話した座談会の様子をお届けします。
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自分は「多様性」や「包摂性」の対象者ではないと思っていた
今日はあらためて特集の振り返りをするお話しができたらと思っています。最近では、企業が「D&I」といった言葉を頻繁に用いるようになりました。インターンの皆さんは「多様性」や「包摂性」という言葉に対して、どのような印象を持っていましたか?
私は、もともと多様性という言葉に対して、男女間や世代間で認識にギャップがあるのではないかと感じていました。大学では「ジェンダー」に関するゼミで学んでいることもあり、自分の周囲にいる同世代の友人や知人は多様性に関する理解が進んでいます。
ですが、帰省のタイミングで世代の異なる親戚と言葉を交わしていた際、そもそもジェンダーという言葉自体を知らない方がいて、驚いたのが強く記憶に残っています。
私はインターンに参加する前は、多様性と聞くと、民族性のことが漠然と頭に浮かんでいました。高校生のとき、ディベート大会で「外国人労働者」について学んだことがあって、その印象が影響していたのだと思います。
私の場合、「多様性は受け入れるべきもの」くらいの認識だったと思います。自分と関係のある概念だとは思えていなかったですね。
私も、多様性や包摂性が大事なことは理解していましたが、障がいのある方やLGBTQの方のために配慮するべきもので、どこか自分は対象外と思っていたような気がします。

自分と社会の接点を探り、問いを設定する
これまで触れてきた体験によって、どこに関心を持つかや、捉え方も違ってきますよね。インターンに参加してからは、編集会議を毎週行いました。問いを決めるために、自身の原体験を深掘りするなかで、どのような学びや考えの変化があったのか教えてください。
編集会議では、まず「Unique and Inclusive:他者を認め柔軟にくらしたい」というテーマについて、自分は何に興味関心を抱いているのかをマッピングしていきました。
特に興味を持ったのは、SNS時代におけるアイデンティティの複数性です。同世代の友人知人は、TwitterやInstagramなど複数のSNSを使い分けるだけではなく、同じSNSでも複数のアカウントを持っていて、私も複数のアカウントを使い分けています。
使い分けること自体は当たり前だと思っていたのですが、あるとき友人に(猫をかぶっているという意味合いで)「アカウントごとに違う顔があるように見える」と言われたんです。アカウントによって話し方が違うのは自覚があったのですが、周囲からそれをネガティブに捉えられたことを、ずっとモヤモヤしていました。
アイデンティティは日本語で言えば「自己同一性」で、成長とともに確立していくものだと学校で習いました。けれども原体験を深堀りし、「アイデンティティを複数持つことは、必ずしも悪いことなんじゃないのでは?」と思ったので、これを問いとして扱うことにしました。
最近、多様性や包摂性の観点から社会にメッセージを発信する企業をよく見かけます。ですが、編集会議でフィードバックをもらううちに、自分自身はインクルーシブの重要性を納得したつもりになっているだけで、しっかりと理解できていないのではないかと気づいたんです。
多様性や包摂性が大事だと、なんとなくは分かっていますが、社会にとってどのような意味を持つのか、多くの企業が力を入れて取り組む理由はなんなのか、あらためて考えたいと思い、「インクルーシブはどのような意義を持つのか」というテーマを問いにしました。

私は、さまざまな知識や物語に触れられる本が好きです。あるとき、オーディオブックサービスを体験して、「本を文字で読めない人がいることを考えず、誰でも読めると思い込んでいる自分がいること」に初めて気が付きました。
そうした経験を編集会議で話しながら、フィードバックをもらううちに「知らず知らずのうちに、自分と関係ないことに対して無意識に境界線を引いていることが多いのではないか」と思うようになったんです。
どうしたら他者を常に想像する力を身につけられるか。その方法を探求するために、「どうすれば無意識に引いている境界線に気が付き、自分と違う他者への想像力を養えるようになるのか」という問いを設定しました。
私の問いは「新しい食卓の在り方を考える」です。一人でご飯を食べることは良くないことなのか、新しい食卓はどのようにしたら実現できるのかについて探求することにしました。
中川さんは編集会議に参加するうちに自分が持っていたバイアスに気が付き、方向性を修正していましたよね。編集部と議論したことで、どのような変化があったのでしょうか?
企画を考え始めた頃は、「みんなで食を囲むことの意義」を問いにしようとしていました。最初は、自分でも無意識に「家族や友人など誰かと食事を囲むことが良い」と考えていたんです。ただ、企画をまとめながら「共食(きょうしょく)のほうが良い」と書いた自分の言葉を見て、違和感を抱きました。
自分は、知らず知らずのうちに「孤食を好んでいる人」を排除してしまっているのではないか。そんな思いから、企画の方向性を大きく変え、「新しい食卓の在り方」に変更しました。
編集会議で編集部のメンバーと一緒に自分の原体験を探っていき、高校時代に孤食をテーマにダンスを創作した経験を思い出しました。そのおかげで、もともと興味を持っていた「食の多様性」と自分の原体験をうまくつなげた企画を立てられたような気がしています。

他者の「声」に耳を傾け、変化する自分に気づく
問いを決めた後、皆さんは取材先のリサーチや質問項目の作成、実際の取材・執筆まで、一連の流れを経験されました。初めての体験も多かったと思いますが、そこから皆さんはどのような学びや気づきを得ましたか? 今の率直な感想を教えてください。
「ホッとしている」の一言ですね。初対面の方に自分の知らないテーマについて尋ねるのは初めての経験だったので、取材日が決まってから当日まで、ずっとプレッシャーを感じていました(笑)。
ただ、取材準備の過程で編集部の方が、質問項目に対して何度も「そう思うのはなぜだろう」「こういう選択肢もあるかもしれない」と問いかけてくださったので、しっかりと準備して取材に臨むことができました。前提から問い直してみるというプロセスは、取材以外でも大切なことだと思うので、今後に生かしたいです。
私は、読者視点に立つことの難しさを感じました。「多様性や包摂性に興味がない読者に、どうしたら読んでもらえるか」を悩みましたが、今回取材ができて本当に良かったと思っています。取材に応じてくださった方から、自分が投げかけた問いに対するステキな言葉や、今日からできることを教えていただいたので、そういったメッセージを分かりやすく記事で伝えられるよう頑張りました。
取材では、想像していなかった答えが返ってくることもあり、どのように進行しようか迷う場面もありました。そのぶん「こういう考え方もあるのか」と、新たな発見が多くあったのが印象的です。取材後、問いに対する考え方が変わってきた自分もいて、成長を実感しました。

私も本田さんと同じように、自分が想定していなかった答えを頂いて、新たな発見をする経験をしました。取材前には、取材対象の方の著書や、インタビュー記事などでお考えについてインプットをしながら、取材準備を進めてきました。
ただ、実際にお話を伺うとハッとする学びが多くあって。取材自体は本当に楽しく、緊張もしなかったので、あっという間に時間が過ぎたのを覚えています。
初めての取材なのに、緊張しなかったのはすごいですね。私もいくつかの取材に同席しましたが、皆さん初めてと思えないほど堂々としていて、頼もしさを感じました。最後に、インターン全体を振り返り、それぞれが思う「今日からできそうなこと」を教えてください。
当たり前のことかもしれないですが、周囲の声に耳を傾けることです。例えば、買い物でお店に入ったとき、ふと聞こえた他者の声も、自分にとって小さな発見になったり、他者の理解につながったりする可能性があるということを、取材を通して学びました。
日常の生活では、「話を聞こう」と思わなければ、周囲の声は聞こえてきません。多くの人は電車に乗っているときはスマホを見るし、私自身も寝ていることが多い。ただ、視野を広げ、さまざま情報を自分ごととして捉えられたら、自然と社会の見え方が変わっていくような気がしています。
私の取材でも似たような話があり、少しずつ日々のくらしで実践するようになりました。特に、インタビュイーの方から「電車で他者に想いを馳せることはありますか」と聞かれたのが聞かれたのが印象的でした。それから、同じ空間にいる他者をよく気にするようになったんです。
あとは、「他者への想像力を養うには、挨拶をすることが第一歩」という話も心に残っていて。挨拶するべきか迷う人にも、思い切って声をかけるようになりましたね。

私は、もっと他者の考えに触れたいと思うようになりました。同時に、他者の考えを柔軟に受け入れる姿勢を常に忘れないようにしたいと思っています。
僕は「相手の立場になって考えること」を実践したいと思っています。原稿を執筆する時に、「この文章は初めて読む人が理解できるものか」と、何度もフィードバックしてもらいました。記事を書き終えた今では、できるだけ相手の立場に立って考えることは、さまざまな場面で実践できると感じています。
皆さん、素敵な学びのシェアをありがとうございます。今回のインターンを通して、少しでも新しい学びを得て、それが皆さんにとって今後の糧になるといいなと思っています。これから記事を公開していくのが楽しみですね。本当にお疲れ様でした!
「わたしとあなたの境界線」の特集に寄せて
今回の特集では、インターンとなった大学生それぞれが、記事の企画を通じて、多様性や包摂性という言葉の広がりや自分との関わりに気づいていく過程がうかがえました。
身近なくらしの中で実感できる多様性の幅は周囲の環境によって個人差がありますが、その一つひとつの違いに向き合い、包摂的な姿勢を持ち続けたいという想いは、若い世代が共通で持っているものであると感じました。
今回の特集で、大学生が中心となって深めてきた問いは、社外の有識者との対話を通じてさらに広く社会とつながるものになっていきます。特集の中にはパナソニック社員による企画もあるので、今後更新される記事をぜひチェックしてみてください。
ぜひ、「#わたしとあなたの境界線」のハッシュタグを付けて、感想やメッセージをTwitterに投稿してください。皆さんとの対話を楽しみにしています。
※パナソニック公式note「ソウゾウノート」では多様化する価値観について社内外で考えを深め共有する投稿コンテストを開催しました。「#思い込みが変わったこと」をテーマに、社内外のさまざまな方が自分の中の「常識」が変わった経験や想いを語っています。詳しくはこちらのページから、ぜひご覧ください。
▼パナソニックホールディングス執行役員・グループCHROの三島茂樹の「#思い込みが変わったこと」
Photo by 加藤 甫, 川島 彩水,其田 有輝也(順不同)
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